2024.3.1 UP
店内厨房で職人が炊いたおこわを、量り売りで提供する独自のスタイル。四季折々の素材を炊き込んだ<おこわ米八>のおこわがいつもふっくらと、弾力豊かな食感に仕上がっているのには、れっきとした理由がある。
まずは素材と製法だ。おこわに適した国産もち米の産地や収穫年から精選しているのはもちろん、そこに少量のうるち米を混ぜることで、米のひと粒ひと粒を立たせ、もちもちっとした食感を引き出している。混ぜ込むうるち米の量は、そのときの気温や湿度、店内厨房から店頭へ出す距離や時間まで考慮し、調整しているというから驚きだ。炊き立てを提供するため、量やタイミングも店頭の売れ行きを見てコントロールされている。
さらに店頭では、おこわの取り扱いにも注意を払う。混ぜ方やしゃもじの扱いにもコツがあり、新人スタッフは必ず研修を受けるという。そこでは所作のみならず、「お客様の手に渡るその最後の瞬間まで、おこわをお世話する」という意識を学ぶ。
本来のもち米は、日本の食卓において貴重な農産物だった。だからこそ赤飯や季節のおこわは、「ハレの日」の行事食として大切に食べられてきた歴史がある。1977年、東京で創業して以来、炊き立てのおいしさにこだわる店作りの背景には、そんな日本の食文化を未来へ継承したいという想いがあるという。それぞれの地域や家庭で代々受け継がれてきた母の味のように、生産者が丹精込めて育てた素材の味を、<おこわ米八>の手でお客様へと伝える。これが、同店が最も大切にしている「つなぐおいしさ」。素材の選別からおこわの製法、接客サービスのすべてに貫かれているこだわりだ。
店頭では時折おこわを混ぜてふっくら感をキープ。米をつぶさぬようしゃもじを入れる角度も工夫して常におこわのお世話を意識している。
容器に詰める際は、おこわを上から押さえつけず、下からすくうようにして盛り付ける。
そんな「ハレの日」のごちそうを代表する料理といえば、やはり赤飯。市販の赤飯には、もち米と一緒に炊いても皮が破れにくく、赤色が濃い「ささげ」を使用するのが一般的だ。全国の百貨店で展開する<おこわ米八>でもそれは同様のことだが、ここ伊勢丹新宿店の同店でのみ、小豆を使った「お赤飯」を販売していることは、実はあまり知られていないことかもしれない。
小豆はささげよりも皮が柔らかく煮崩れやすいため、素材の選別にも、調理にもより手間暇がかかる。しかし、豆自体のほっこりとしたやさしい風味がもち米によく合い、ほんのりと淡い色づきにもどこか品があるのが特徴的だ。なんと同店の熱心なおこわファンの中には、「ささげ」と「小豆」の風味の違いに気づき、わざわざ伊勢丹新宿店まで足を運ぶお客様もいるとか。米と香ばしい小豆と少量の塩。シンプルな素材だけで炊き上げた自然な味わいが好評だ。
洗米は前日の仕込み。少量のうるち米を混ぜたもち米を洗い、浸水とぬか取りをしてから布巾に包んで、冷暗所にひと晩置く。
小豆は国産のものから毎年精選した品種を使用。傷ものは目視で取り除き、煮る前に浸水させる。
小豆は皮が柔らかく割れやすいので、単独で丁寧に煮て1時間ほど置き、割れを防ぐ。
小豆の煮汁は赤飯の色付けに使用する。
せいろで炊いたもち米をボウルに移し、煮た小豆を混ぜ込む。もち米と豆をつぶさぬようにしゃもじを入れ、さらに小豆の煮汁を少しずつかけて色付けする。
ほんのり赤く色づいた赤飯を布巾に包んだら、再びせいろで仕上げ炊きをする。
店内厨房で炊いたおこわは素早く店頭へ。常に炊き立てを提供できるよう、少量ずつ炊く。
お赤飯 (200gあたり)540円【伊勢丹新宿店限定】
もち米と小豆は、赤飯に適した国産の品種を、毎年各産地へ赴いて吟味している。
<おこわ米八>の店頭では、「お赤飯」を含む定番3種と、月毎に変わる「季節のおこわ」を合わせた5種類のおこわを常時揃えている。春のたけのこ、夏のうなぎ、秋の松茸など、「季節のおこわ」に使用する旬の食材も、都度国内外の素材を精選。ちなみに伊勢丹新宿店では、「お赤飯」のほかに以下の2種類を定番おこわとして販売している。
国産かやくおこわ(200gあたり)540円【伊勢丹新宿店限定】
野菜や鶏肉を細かく刻み、さらっと食べられるように仕上げたかやくおこわは、伊勢丹新宿店限定の定番おこわ。生姜の香りを効かせたあっさり味は女性からの支持も高く、飽きがこない。
栗おこわ(200gあたり)540円
ほくほくの栗と、ぷっくりした金時豆がごろごろ入った「栗おこわ」は全店舗共通の定番商品。実はほっこりと甘めに仕上げているが、絶妙な塩加減もあり後味がさっぱりしている。
ほかにも、お好みの炊き立ておこわをその場で詰めてくれる弁当類や、冷めたままでもさっと食べられる「おこわいなり」が人気だ。個々の食生活やライフスタイルに合わせ、おこわをいつも手軽に楽しめるようにと、サイズ感や容器の種類にいたるまで創意工夫を重ねている。
米八二段重ね(梅)(1折)1,275円
店頭に並ぶ5種類のおこわをちょっとずつ、全種類楽しめるお弁当。赤魚、チキン、野菜の煮物と栄養バランスも考慮している。細長い形状は、通勤等に使うバッグにも入れやすい。
おこわいなり(1折)789円
店頭5種類のおこわをふっくらお揚げに詰めた、冷めたままでもおいしく食べられる人気商品。お揚げはやさしい甘みの中に出汁を効かせ、おこわの味を邪魔しない味付けに。
日本人の大切な主食である米と、四季の食材が織りなす和食の妙味を、たったひとくちで体感できるのがおこわという料理の魅力だ。目まぐるしい日常の中でホッとひと息つきたくなったなら、迷わず<おこわ米八>の炊き立ておこわを目指すのがいい。
Text : Mako Kobori
Photo : Yuko Moriyama, Yuya Wada