2024.3.01 UP
個性的なネーミングが記憶に残る<醸す>は、新潟県にルーツを持つ。同県の宝である米と発酵食品を核とするこの和惣菜店は、現地で昔ながらの酒や味噌造りを続ける蔵元、漬け魚の老舗などを束ね、現代の食卓へその味を伝えている「和僑商店ホールディングス」が経営母体となって生まれた。
その看板商品といえば「銀さけ熟成味噌漬け」だ。肉厚の銀さけを漬けるオリジナルの熟成味噌には、<峰村商店>の越後味噌、<今代司酒造>の酒といった新潟生まれの発酵食品を使用。しっとり柔らかい歯触りとコク深い味わいには、同じく新潟にある鮭・ますの老舗<小川屋>の漬け魚の知恵も生かされている。
銀さけ熟成味噌漬け(1切)897円
肉厚でしっとりした銀さけに、熟成味噌の旨みを効かせた<醸す>の看板商品。辛すぎない塩加減も絶妙で、味噌の風味がふわりと感じられる。
辛すぎず大豆の旨みがほどよく感じられる<峰村商店>の越後味噌や麹、全量純米仕込みのこだわりで知られる<今代司酒造>の日本酒、ほか調味料を独自の配合でブレンドした熟成味噌。
脂の乗った肉厚な銀さけのみを精選。これを特製の熟成味噌に漬ける。
2日間の熟成を経て完成した、銀さけの味噌漬け。
少量ずつオーブンで焼き上げる。ほどよくスチームを当てながらふっくらと仕上げるのがポイント。
熟成味噌の配合は、数ヶ月かけて試作・試食を繰り返して完成を見た。<和僑商店>代表の大日方 聡さん自らが、レシピの開発に携わっている。「発酵には、食べ物をよりおいしくしてくれる力があります。<醸す>では、そういった発酵食品の魅力が、毎日の食卓の中で自然に伝わるような商品作りを心がけてきました。伊勢丹オリジナルブランドということで商品の原料は精選していますが、この熟成味噌の力がいちばんよくわかるのは、実は鮮度の落ちた魚を漬けたとき。味噌に漬けるだけで身が柔らかくなって、味も良くなるんです」。
この銀さけを使用した一番人気の弁当が、「明太海苔2段弁当 銀さけ熟成味噌漬け」だ。漬け魚を主役に、海苔や鰹節の乗せ方、食感など隅々までこだわりを貫いた海苔弁当は、おかずの存在が主張しすぎないシンプルな構成。「余計なものは入れずに、バランスの良さを考えたらこの形になりました」と大日方さんがいう通り、「これぞ、海苔弁」といった安心感が感じられる。
海苔弁の味の要となる削り節と醤油。築地の鰹節問屋から仕入れている削り節はふわふわの薄削り。醤油は<峰村商店>で100年以上使われているという木桶で仕込んだ、天然醸造のものを使用する。
弁当の盛り付けは店頭で行っているので、作り立てをテイクアウト可能。海苔で仕切って二段にしたご飯に、削り節をたっぷり乗せる。
食感の良さと、香り高さで選んだという伊勢湾産の希少な生海苔を使用。ご飯を食べやすいように、4枚に小さくカットして乗せているのもこだわり。
明太海苔2段弁当 銀さけ熟成味噌漬け(1折)1,296円
卵焼き,きんぴら牛蒡、竹輪の磯辺揚げといった定番おかずを乗せた、シンプルだけどボリュームもしっかりある海苔弁当。
ちなみに弁当に入れるご飯は、白米と玄米から好きな方をチョイスできる。米はいずれも新潟産で、白米はふっくらとした大粒ながら適度な粘りもあり、冷めてもおいしいと評判のブランド米「新之助」を使用。そしてヘルシー志向の女性客に人気の玄米には、「新之助」同様に大粒で、食味の良さが際立つ「みずほの輝き」を選んでいる。
特徴的なのは玄米で、米表面の雑味が出てしまう部分を、特殊な技術を用いてごくわずかに削り取っている。さらに、炊き上がった玄米に白ごまを適量混ぜ込むことで、プチプチとした楽しい食感をプラス。これらは、玄米を少しでもおいしく食べてもらうための工夫だという。
炊き立てに白ごまを適量混ぜることで、歯応えよく仕上げている玄米。
お刺身アジフライ弁当(1折)1,156円
刺身で食べられる捌きたてのアジを使用した、ぷりっぷりの食感が人気のアジフライ。魚は単品でも購入できるが、写真のような玄米あるいは白米の弁当に入れることもできる。
自慢の味噌や酒で漬けた魚は、単品でも購入可能。大きなさば、脂の乗った銀だらといった定番が常時5種類ほど店頭に並ぶ。魚のみならず豚ロースや大山鶏の味噌漬けもあるので、食べ比べを楽しむのも一興だろう。発酵の力が生み出すコク深い味わいに、ついご飯がすすんでしまうこと請け合いだ。
さば文化干し(1切)681円
日本酒をさっとふりかけて、一晩寝かせただけ。非常にシンプルな作り方で魚の旨みを引き出した文化干しは、大きなサイズを選別。脂がしっかり乗った身は食べ応えあり。
大山鶏西京漬け(1切)681円
麹をブレンドした2種類の西京味噌を使用。大山鶏ならではのコクのある肉質と味噌の風味が複雑に絡み合った、ジューシーな味わいがリピーターを呼んでいる。
ちなみに大日方さんは、自身が開発した海苔弁当について「いまはこの形にまとまっているけれど、まだ完成形ではない」と評価している。米と発酵のおいしさを追求する<醸す>の海苔弁当が、今後どのような形で進化していくのか興味深いところだ。
Text : Mako Kobori
Photo : Mariko Tosa,Yuya Wada