2024.3.1 UP
「体にやさしい料理」をコンセプトに、2004年8月、青山に開店したインド料理レストラン<SITAARA>。店名は空に瞬く「星」を意味する。オーナーが見込んだ、インドの5つ星ホテルのシェフを招聘してスタートした。アーユルベーダの医食同源の考えを基本に、スパイスから調合する本格的な料理を提供する。
約20年前といえば、国内にインド料理店はあったものの、インド5ツ星ホテルレベルの料理と雰囲気の店は皆無だった。そのような中<SITAARA>は高級感あふれるインド料理を提供し、従来の世界観に新風を巻き起こした。
その特長のひとつに、北インドの宮廷料理を基調とした素材選びやスパイス使いがある。高品質なバターや生クリームなどの乳製品や、ナッツを使用した芳醇な味わいながら決して重すぎず、ヘルシーに仕立てられている。また、厳選したスパイスを絶妙なタイミングで使用することによって多用することなく、その香りを最大限に引き出している。
ナーンをはじめとするパン類の種類の豊富さも目を引く。全て手ごねで丁寧に一枚づつ焼き上げられる。ナーンのサイズと味はインド高級ホテルと同じく、大きすぎず、甘くないことにこだわったものである。
<SITAARA TIARA>では、レストランの味をできるだけそのままに、より気軽に味わってもらえることを目指し、伊勢丹新宿店内の厨房には本格タンドール窯がしつらえてある。腕を振るうのは、本店で経験を積んだインド人料理人のみ。体に染みついたスパイスの扱いができ、多彩な食材に対応している。
<SITAARA>の人気メニューのバターチキンカレーは、旧来、高価な食材の象徴だったカシューナッツとバターを使う宮廷料理の影響を受け継ぐものである。
質の高いカシューナッツをペーストにし、ヨモギのような芳香のスパイス・カスリメティを用い、辛みに加えて甘みとコクもあるインド産のチリ(唐辛子)を使う。シナモンやカルダモンといったスパイスも吟味されたものだ。乳製品だけに頼らずに生まれたコクは、なんと高貴で奥深いことか。
バターチキンカレーの材料の一部。左上より時計周りに、トマト、フェネグリークの葉で甘い香りとほろ苦い風味のカスリメティ、ハチミツ、インド産チリ、アニスやカルダモン、シナモンなどのホールスパイス。そして、コクの決め手となるカシューナッツペースト。
材料を炒め合わせ、パウダースパイスも加えたベースに、タンドールで焼いた鶏肉を投入。
仕上げにバターと生クリームを加えて、マイルドでリッチな味わいのカレーが完成!
バターチキンとよく合うナーンもまた豪華な宮廷料理の影響を代表するもの。ごく日常的に食べられている全粒粉の小麦粉と塩で作る素朴なチャパティとは違い、薄力粉に水、牛乳、塩、砂糖を加え、手ごねして生地を作り、タンドール窯で焼き上げる。そのふわふわもちもちの食感も魅力だ。
ナーンは料理の味が引き立つよう、甘さ控えめの配合に。手で練って伸ばす。
タンドール窯の内側に貼り付け、水分を保ったまま高温の遠赤外線で一気にふわふわに焼き上げる
バターチキンカレー(100g)499円 プレーンナーン(1枚)410円
同店人気のバターチキンカレーは、タンドール窯で香ばしく焼いたチキンティッカを使用。ナーンには、小麦のほかに卵、塩、微量の砂糖などが入り、ふわふわの食感に。
「香りの料理」と表現されるビリヤニもまた、もともとはムガル帝国の王様に尽くすための料理の一つだったと伝わる。炊き込みごはんのように見えるが、上質な長粒米のバスマティライスをスパイスと共に炊き上げ、スパイスをふんだんに使ったグレイビー(カレー)と重ねて蒸し上げる料理である。
香り高いバスマティライスと、カルダモンやクローヴ、シナモンなどのホールスパイスを鍋に入れてゆでる。
ゆで上がると、膨らんでさらに長くなるバスマティライス。この米だからこそ、ふんわり軽い食感になる。
一緒に蒸し上げるためのグレイビー(カレー)。具材にはラムを。通常のカレーよりきりりと塩をきかせる。
ナーンの生地を鍋と蓋の間に詰めて密閉する。そうすることで、グレイビーの香りをしっかりバスマティライスに移す。
蓋を開けると、芳しいスパイスの香りが広がる。あえて全体を均一に混ぜずに食べよう。白い米とグレイビーをまとった米のムラもおいしさの要素。
ラムビリヤニ(100g)540円
元々はムガル帝国の宮廷料理という説が。長粒米にスパイスやラムの味をしみこませた蒸し焼きごはん。
ぜひ味わいたい<SITAARA>らしいインド料理はまだまだある。
たとえば、タンドールチキンはオリジナルミックススパイスとヨーグルトでマリネし、タンドール窯で焼き上げたもの。ひと口サイズの鶏肉を使う店も多い中、<SITAARA TIARA>は大ぶりな骨付きの鶏肉を使う。本場で食べられるスタイルを踏襲するゆえだ。
おやつにもおつまみにもなるサモサは、元々はインドの屋台料理のひとつ。小麦粉で作った薄皮でグリーンピース、カシューナッツ入りのマッシュポテトを三角形に包んで、油でさっくりと揚げる。形のおもしろさ、具、カラフルな色味の違いも楽しい。
みんなが集まるホームパーティーに加えれば、喜ばれること請け合い。
手を掛けた数々の料理を、手軽に味わえる幸せと共に噛みしめたい。
タンドリーチキン(1本)648円
大ぶりな骨付きの鶏肉を、ヨーグルトとオリジナルミックススパイスで漬け、タンドール窯で豪快に焼き上げたもの。
(左)ほうれん草サモサ(中)キーマチーズサモサ(右)野菜サモサ(各種1個)361円
ほうれん草サモサは、皮にも中身にもほうれん草をたっぷり使用。キーマチーズサモサは外はサクサク、中はしっとり、ほっくり。具材はじゃがいもと鶏の挽き肉がベース。野菜サモサは、じゃがいも、グリーンピース、カシューナッツが入る。
Text : Yumiko Numa
Photo: Yu Nakaniwa,Yuya Wada