<ダ・ローマ> 歴史・文化・人がたっぷり詰まったイタリア食材を、旅するように味わう。

2024.3.1 UP

旅行会社の社員で美味しいもの好きだった青年は、イタリアの食材生産者たちと出会い、自分だけが提供できる特別な旅の可能性を見出した。<ダ・ローマ>代表の山田竜馬さんはイタリア中を巡り、出会った人と食を伝える食文化の伝道者である。

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食も文化も、大切なのは人。

現在<ダ・ローマ>の代表を務める山田竜馬さんは、それ以前は15年ほど旅行会社に勤めていた。人に特別な体験を提案して喜んでもらえる旅行会社の仕事は天職だと考え、自分にしかできない旅行企画を作り上げることに生きがいを感じていた。しかし、旅行業が外的要因で中止を余儀なくされることも度々体験した。現地のテロや感染症などは旅行業が抱える予期できないリスクだ。

「旅に関連する他のビジネスモデルがないだろうか」

そう考えていた時、ある旅行会社のヘッドハンティングにあう。その会社はイタリア旅行を得意としながらイタリア食材も輸入するビジネスを展開していた。

「もともと食べるのは好きでした。幾つになっても少年のような目で生き生きと仕事をしている食関係の職人さんにも憧れがありました。イタリアの生産者たちの食材、そして彼らは人として素晴らしかった。自分が惚れ込んだ生産者たちを訪れる旅行企画はどうだろう、と考えるようになったのです」

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山田竜馬さん。福岡県出身で地元の旅行会社で働いていたが、縁あって東京の会社へ転職。イタリアの食文化に出会い、イタリア中を巡って珠玉の食材を紹介する<ダ・ローマ>を創業する。産地を訪れる旅行企画も展開中だ。

上京して1年後に山田さんは独立を決めた。山田さんを応援してくれたのがイタリア料理業界でゴッドマザーと呼ばれる長本和子さんだ。長本さんは、イタリア料理を学ぶルートのなかった日本人料理人に現地で料理研修できる仕組みを提供していた。イタリア食文化のスペシャリストでもあり「イタリア専門のつもりではなかったですが、長本さんからのイタリア食文化の話を聞いて、ますますイタリアに惹かれていきました」と話す。自分が感動したイタリア食材と生産者を伝えよう、そして産地をお客さんと共に旅しよう。山田さんの夢は膨らんだ。

 

独立を決めて最初に訪ねたのは、シチリア州南東部のブッケーリ村だ。以前の会社でオリーブオイルの取引があったアグレスティス社のピーノさんの畑では樹齢1,000年を超える古木が大切に管理されていた。

 

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ブッケーリ村、ピーノさんが栽培管理するオリーブの古木と。農薬は一切使わずに水も山からの湧き水を畑に循環してオリーブを栽培している。「農薬を使わないことが大切なのではなく、農薬を使わずにおいしく育てるのが大切。オリーブの事だけを考えるのではなく、その土地全てを大切にすることで結果的に良いオリーブが育つ」がピーノさんの考え。

ピーノさんが大切に育てるシチリアの在来品種トンダイブレア種のオリーブオイルは、<ダ・ローマ>の記念すべき最初の取扱商品となった。その後も自分が興味のある食材や生産者を訪ね、自分自身が感動したものをセレクトして商品が少しずつ増えていった。大切にしているのは生産者と同じ情熱をもってお客さまに伝えること。ビジネスパートナーというより友人のような関係性を生産者と築くことを大事にしている。そうする事で生産者がまた同じような情熱を持った知人や生産者を紹介してくれて、山田さん曰く「数珠繋ぎのように」生産者との出会いが続くようになった。そんな繋がりで出会ったのが、主力商品となったサントミエーレ社の白いちじくの加工品である。

 

「サントミエーレ社はカンパーニア州の南、チレント地方の山奥にあります。昔から貧しい土地で、砂糖なんて高価で買えない。唯一とも言える貴重な糖分であるいちじくをいかに長く保存させるかをテーマに様々な加工をしてきた。貧しいからといって美味しいものを食べることを諦めないのもイタリア人らしいところ。州都ナポリでは、貴族がたくさん贅沢なものを食べていることは知っていた。いちじくと自分たちの身の回りにあった限られた食材をあらゆる方法で加工するアイデア、技術、そして何より自分たちがおいしく食べることへの欲望が生み出した他の地にはない独特な食文化なのです」

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サントミエーレ(左から)

いちじくのファゴッティーノ(150g)3,780円

チレンターナ(250g)4,644円

カルパッチョ(300g)19,440円

いちじくのファゴッティーノ

チレント産白いちじくを天日干しにして、間にアーモンドを挟んでオーブンで焼き、いちじくの天然糖蜜(メラッサ)をかけて、再びレモンピール、オレンジピールと共にいちじくの葉で包んでオーブンで焼く。いちじくの凝縮した香りを柑橘の酸味や苦味とともに、しっとりとした果肉を噛み締めながら味わえる。コーヒーや紅茶の他、食後酒との相性も良い。

 

チレンターナ

半割りにして天日干ししたチレント産白いちじくの間に胡桃とフェンネルやアーモンド、柑橘の皮などを挟み、オーブンで焼く。9つのうち3つはカカオ分70%のチョコレートでコーティング。デリケートな味わいの変化をそれぞれいちじくにつけた嗜好性の高い商品。

 

カルパッチョ

チレント産白いちじくの中でも上質なものを選別し、表面の薄皮を手で剥いでより柔らかな食感を出す。半割りにして皮部分を下にして天日干しを行い、表皮が硬くならないように気を配る。乾燥後に再選別。半割りにした断面の蜜部分を接着部として棒状のサラミ形に貼り合わせていく。薄くスライスしてバケットにのせたり、いちじくの糖蜜(メラッサ)を数滴かければ食事の前菜に最適。スパークリングワインとの相性がとても良い。

 

山田さんがサントミエーレ社の加工品の中でも特に驚いたのが、いちじくの天然糖蜜メラッサだ。後にも先にもここでしかお目にかかったことがない。

「天日干ししたいちじくを再び加水して煮詰め、裏漉しして再度煮詰めるという工程を繰り返して得られる糖です。とんでもなく手間がかかっている。もしここで他の果物がいっぱいとれたなら、絶対にこんなものは生まれなかったでしょう。そこまでして保存性を高めた甘みが欲しかったのだろうなと。真に固有なものが生まれるのはこういう背景なのだと思います」

メラッサは、砂糖と比較すると甘み自体はさっぱりとしている。しかし確かないちじくの果実味がある。特別なのは余韻の長さとその後スッと消える後味の心地よさだ。

 

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いちじくのメラッサ(糖蜜)(100g)6,912円

いちじく100%の天然糖蜜。生の果実からでなく乾燥いちじくを使用することで複雑な芳香性と味わいに。フレッシュなリコッタチーズや酸味のある果実、乳製品のデザートに数滴かけるだけで劇的に香りがリッチになる。

「チレント産いちじくは、ドッタート種と言って隣のカラーブリア州コセンツァ産とともにDOP(原産地呼称保護)に認定されている品種です。皮が薄く他のいちじく品種よりも高く評価されています。カラブリアも見に行ったことがあるのですが、やはり貧しくて孤立した土地。他に何もないような土地だからこそ、守られるものと守る人がいる」

 

サントミエーレ社長のアントニオさんは、山田さんがビジネスパートナーとして最も刺激を受ける相手。白いちじくは稀少な伝統品種ではあるけれど、その付加価値を高めているのはその加工方法であり、商品のバリエーション、そして溢れるアイデアだ。

 

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サントミエーレ社社長のアントニオさん(左)。一代でサントミエーレ社を築いた。経営手腕だけでなくデザインからネーミングまでのソフトも手がける。

 

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いちじくの乾燥ルームもオリジナルの設計で特許を取得。一見ビニールハウスのようだが、中に風が流れる構造になっている。

生産者を主役に巡る、イタリアの旅。

山田さんは、<ダ・ローマ>の商品として扱うかを決めるのに、必ず現地を訪れて生産者と話をする。そして会話の中で自分に起こる感情を大切にしているという。扱う商品が売れ筋となるか、製造体制が大丈夫かを客観的に見るのはもちろんだが、それを超えて「出会ってしまった」という情緒的なところが最終判断の決め手となる。決定づけるのは人だ。だから<ダ・ローマ>の商品はどれも物語に溢れているし、実際に店頭でショップスタッフと話をしてみれば、山田さんの感動が語り継がれているのがわかる。

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<ダ・ローマ>初の常設店が2020年8月伊勢丹新宿店にオープン。対面販売でイタリアとその食材の魅力を伝える。食べ方についてのアドバイスも豊富。

例えばサポーリ・エオリアーニ社のケッパーは、シチリア島の北東に浮かぶサリーナ島だけで栽培される8枚の花弁(通常6枚)から生まれる。紹介してくれたのは先の長本さんだった。長本さんと一緒にサリーナ島に行った山田さんは、純粋に同社のケッパーのおいしさに驚き、この品種を自ら交配して生み出した青年ロベルトの存在を知った。しかしロベルトは不慮の事故で亡くなっていた。事業の継続を決意したのは母親のマウリツィアさん。「いまだロベルトを失った悲しみから立ち直れないでいる。それでもこのケッパーをやっているのは、息子さんへの愛。ロベルトは世界にこのケッパーを伝えようとしていて、母の愛がその夢を継いだのです」

 

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(左)8枚花弁のケッパーを生み出したありし日のロベルト青年。(右)ケッパーの花。

 

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塩漬けケッパー(中粒)(250g)3,456円

8枚花弁のケッパーは蕾の密度が高く芳香性が高い。同社のケッパーは40日かける丁寧な塩漬け作業により、限りなく離水や粒の潰れがない。そのためシャキシャキとした独特の食感がある。大・中・小のサイズ展開があるが、中粒はバランスよく、サラダなどの前菜からパスタ料理まで万能に使える。

 

イタリアを代表するピスタチオの名産地、シチリア州ブロンテには、祖父からピスタチオの畑を引き継いだエンマさんがいる。1400年前にアラブから伝わったという伝統の接木法を用いて、木を休ませながら隔年で収穫を行う。

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(左)エンマ・スカラヴィッリさんとその家族。畑の土壌はエトナ山の火山質で、堆積した火山灰のミネラル分を吸ってピスタチオは育つ。(右)ピスタチオの果実。赤みがかった実をつける。可食部分は果実の中の種子。

 

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(右)ブロンテ産DOP 生ピスタチオ(100g)2,592円

市場のほとんどが機械乾燥なところ、ゲンマ・ヴェルデ社では自然乾燥にこだわり、時間をかけて柔らかな食感や甘み、香りを最大限に生かす。貴重な生のピスタチオは、山田さんの依頼で日本のために実現した商品。まずはそのままで味わうのがおすすめ。サラダに散らしたり、アイスクリームと一緒に食べても純粋な味わいを堪能できる。

 

(左)ブロンテ産DOP 生ピスタチオクリーム(90g)3,780円

ピスタチオの華やかな香りと甘みを残さず閉じ込めた、使いやすいクリームタイプ。トーストに塗って食べるのもシンプルにしてリッチ。現地のブロンテでは、エスプレッソに砂糖代わりにピスタチオクリームを入れる風習もあるのだとか。

 

どの生産者も山田さんの誇る仲間たち。彼らのもとを食材のファンとなった顧客と共に訪れる旅が、自分史上最高の旅。旅行会社の社員だった頃から夢見た旅がこれだと山田さんは目を輝かせる。

 

Text : Kaori Shibata

Photo : Yuya Wada

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