<丸政>お弁当作りのプロが挑む、食文化の新境地。

2023.3.10 UP

駅弁を極めて100有余年。“中央本線小淵沢ふもとの駅弁丸政”と謳われるほど長い歴史を持つ<丸政>。昔ながらの手作り弁当と、最新の冷凍技術の融合により実現した作りたてのおいしさ。老舗弁当屋の挑戦に迫る。

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八ヶ岳の麓から届く、長く楽しめるお弁当

中央線小淵沢駅(山梨県)と目と鼻の先。 駅を見守るように工場を構える〈丸政〉は、大正7年(1918年)の創業だ。“中央本線小淵沢ふもとの駅弁丸政”と謳われるほどその歴史が古く、中央本線富士見駅の構内の立売業者として発足。戦時中、弁当の資材を手配するのに大変な苦労があったなかでも、旅人のために弁当を作り続けていたそうで、手書きの「御弁当」の紙を貼って掛け紙にするなど、さまざまな工夫をしながら販売が続けられた。

昔の掛け紙を紐解くと、値段表記の上に「〇停」マークが付いたものがあり、駅弁も国民の生活を守る生活必需品に位置付けられ「価格停止品」として価格凍結された商品であったことが窺える。厳しい戦禍を乗り越え、1929年の小海線の開通を機に現在の小淵沢駅近くに工場を移転した。

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戦中に販売していた弁当の掛け紙。国民生活に影響が出ないよう昭和19年4月18日時点の価格の引き上げを禁止した。

 

 

駅弁では珍しい生野菜を使った「高原野菜とカツの弁当」(1970年発売開始)や、テレビ番組『愛川欽也の探検レストラン』の企画により誕生した、京都と江戸、東西の料亭の味が詰め込まれた豪華な二重の折弁当「元気甲斐」(1985年発売開始)、プリプリの海老天を木耳ごはんで包んだ一口サイズの「そば屋の天むす」(2013年発売開始)など、主力駅弁が目白押し。小淵沢にある工場で、すべてのお惣菜を手作りし、経木の弁当箱に一つひとつ手詰められている。

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小淵沢駅と小諸駅を結ぶ小海線。美味しいお弁当の秘訣は、豊かな自然環境にもある。

「日本の食文化への貢献」という理念を掲げる<丸政>では、おいしさの追求に妥協がない。駅弁という枠を超えて、地域の食文化を伝えるプレイヤーとしてさまざまな挑戦に取り組んでいる。そこで注目したのが、冷凍技術。数年前から最新の冷凍・解凍機を導入し、おいしさをそのままに県外でも販売することが可能になった。

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名物駅弁の一つ「元気甲斐」は豪華二段重ね。栗おこわ、くるみごはん、それぞれの折に14種類ものお惣菜が詰められている。

最新の冷凍技術は驚くほど進化しており、「冷凍食品のイメージが一変する」、「作りたてと食べ比べても、どちらが冷凍かわからない」といわれるほど、鮮度や食感、食材本来の味わいをキープしてくれるのだ。「作りたての美味しさを瞬時に止めてくれるので、例えば作ってから時間が経ちすぎたお惣菜より美味しい、なんてこともある。じっくり時間をかけて冷凍することでおいしさを損なわずにお弁当を届けることができますし、売れ残って破棄されることもないのでフードロスへの対策にもつながると考えています」と、取締役の櫻井剛敏さん。

 

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作りたてのお弁当はすぐに冷凍機へ。じっくり時間をかけて冷凍する。

 

 

 

おかずが盛り盛り、ごはんが主役のお弁当。

「『醤油鶏弁当』は、鶏のモモ肉をこだわりの醤油で一昼夜漬け込んでサクサクの唐揚げにした醤油鶏が自慢のお弁当です。実はうちのお弁当はごはんが主役なんです。八ヶ岳山麓の恵まれたお水で炊き上げたごはんをよりおいしく召しあがっていただけるよう、お弁当としての完成度を追求しています」(櫻井さん)

醤油で一昼夜漬け込んだ鶏のモモ肉は、店頭厨房で唐揚げに。創業百年余り「本当においしいもの」を追求してきたお米やおかずを詰め込んだ自慢のお弁当だ。

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醤油鶏弁当(1折)1,251円

「元来駅弁屋ですので、追求してきたのはできたてのおいしさではなく、“冷めてもおいしい”お弁当としての完成度です。ですからそのまま冷凍・解凍するだけでは、我々が目指すおいしさとはズレてしまう。解凍したときにおいしいお弁当にするには、これまでと同じ味付けや水分量ではダメなんですよね」と、老舗の弁当屋ゆえの思わぬ壁にぶつかったとも。

冷凍しても損なわれない揚げ物の食感を試行錯誤したり、逆に魚の煮付けは冷凍との相性がよかったり、お米は冷凍した方が甘みが強く感じられることなどもわかってきている。

「冷凍技術の革新により、我々弁当屋だからできる新たな商品開発や冷凍弁当ならではの可能性に、ワクワクしっぱなしです。食材は調理したあとも生き続けているものだと、日々実感しています」(櫻井さん)

 

 

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そば屋の天むす(1個)273円 

カリッと香ばしく揚げた海老天がごはんに包まれてしっとりと馴染む。プリプリの食感の海老天を、木耳ごはんで包んだひと口サイズの天むす。帯状に巻いた海苔との相性も絶妙。

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山賊揚げ(1枚あたり)901円

信州名物の山賊揚げ。ビッグサイズの鶏モモ肉を秘伝の醤油ダレに一昼夜漬け込み、ザクッと豪快な唐揚げに。しっかりとした味付けで、ごはんがすすむ。

 

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元気甲斐 1,781円

名物駅弁の「元気甲斐」は京都と江戸、東西の料亭の味が味わえるロングセラー。20種類もの四季折々のお惣菜が詰まった豪華二段重ね。

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味噌鰈弁当 1,620円

脂がたっぷりのった身の柔らかい鰈を、信州味噌を使用した西京味噌に漬け込み、一枚ずつ丁寧に焼き上げる。凍結技術により魚の旨みが増し、身の柔らかさが際立つそう。

 

鉄道ファンのみならず老若男女に親しまれる手づくり弁当を作り続ける駅弁の老舗。かつては列車旅の特権だった駅弁も、今やデパ地下で出会える時代。伊勢丹新宿店本館地下1階の<丸政>は今日も美味しいお弁当が並んでいる。

 

Text : Chisa Nishinoiri

Photo: Yuya Wada

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