2022.3.10 UP
レーズンボラー、バタービアケスetc.……。<アンデルセン>には24種のデニッシュペストリーが丹念に描かれた「城田ノート」と呼ばれる一冊が残されている。1958年から長年にわたり同社のパン作りを支えてきた名誉マイスター・城田幸信さんによるスケッチだ。16歳で入社した彼はパンに関するさまざまなことを、緻密な絵と文章で記録し続けていた。そこには世界のパンの作り方や歴史、文化なども記されている。
城田さんの入社から遡ること10年前の1948年8月1日。復興の道を歩む広島で高木俊介さんと彬子さんは「パンで食卓に幸せを届けたい」という一心で前身となる<タカキのパン>を従業員2名と立ち上げた。「生きるための食べもの」という概念が強かった時代に、「食べることの楽しさ」を提案する場所として、1952年には広島本通に<パンホール>を構えた。その頃の看板商品は山型パン、サンドイッチ、アップルパイであった。
1959年、本場のパンとその文化を学ぶために45日間の欧米視察へ。この旅こそが俊介さんと<アンデルセン>の運命を変えたのだった。その瞬間はデンマークの首都コペンハーゲンで訪れる。宿泊先のホテルの朝食で出されたデニッシュペストリーを含んだ瞬間、俊介さんに衝撃が走った。バターの芳醇な香りとサクサク食感、そして何か幸せを感じる味わいに「こんなおいしいパンが世の中にあったのか」とトリコとなったのである。
帰国後、俊介さんはこの味を再現するために奔走する。とはいえ、すぐさま完成形には近づけなかった。デニッシュペストリーを実際に目にし食べたことがあるのは俊介さん一人。その記憶を頼りにしながら日本のパン職人が3年間の研究と試行錯誤を重ね、1962年に第一弾を発表する。
デニッシュペストリーを看板商品に据えて5年が流れた1967年。「食卓に幸せを運ぶ」をスローガンにワインやデリカテッセンを扱う新店舗<広島アンデルセン>がオープンする。デンマーク出身の童話作家H.C.アンデルセンが物語を通じて世界中の人々に夢や希望を運んだように、パンを通して豊かな暮らしを届けたいという想いが込められていた。また、この頃からデンマークとの交流も盛んになっていくのであった。
デンマーク王室御用達のベーカリー<トリアノン>の職人・ピーターセン氏を招き、日本の職人が本場の製法を継続的に学ぶように。1968年からは「デンマークフェア」を開催。俊介さんはデニッシュペストリーのおいしさのみならず、現地の人々が大切にしている“ヒュッゲ”の心にも感銘を受けていた。フェアではデンマークの味や心豊かな暮らしぶりを紹介、現在に至るまで開催している。そうして、2008年には多くを学んできたデンマークへの「恩返し」の意味も込めて、コペンハーゲンの住宅街にアンデルセンを出店。2017年に移転オープンした現在の店舗では、オーガニック原料で製造したパンや洋菓子を販売する。パンのある食卓を囲んで心地よい時間を過ごす。幸せな暮らしを届ける想いは半世紀以上の時を経た現在も、しっかりと受け継がれている。
(左)ダークチェリー(1個)314円
(右)スパンダワー(1個)270円
<アンデルセン>が誇るデニッシュペストリーのなかでもロングセラーとなる2点がこちら。(左)カスタードクリームと隠し味であるマジパン(アーモンドペースト)を重ねた。ダークチェリーを4粒トッピングし、見た目の美しさにもこだわっている。1971年に発売してからというもの甘酸っぱい口当たりで人気No.1を誇る。
(右)生地から漂う香り卵とミルクが奏でるカスタードクリームの味わいに心がほどける。さらにはカスタードクリームとアーモンドが生み出すコクによって、幸せな気持ちに。シンプルな組み合わせだからこそ、素材の持ち味が際立つ。
ファーマーズのパン(1個)270円
広島県北広島町にある自社農場「アンデルセンファーム」で大切に育てたりんごから発酵種を製造。焼き皮は香ばしく、中はしっとり。小麦本来の旨みが堪能できる。そのままいただくもよし、お料理と合わせてもおすすめ。さまざまなレシピが楽しめる万能選手でもある。
アンデルセン醗酵バター(160g)864円
<小岩井乳業>と<アンデルセン>がパンとの相性をとことん考えて共同開発した一品は、乳酸菌で醗酵させたヨーロッパタイプの本格派だ。小麦の味わいを引き立てるクリーミーで芳醇な口当たりに仕上げている。料理やスイーツに用いるとコクも豊かに。
アンデルセンイギリス(1本)1,037円、(1/3本)346円
1967年の<広島アンデルセン>オープン時より愛されて56年。トーストすることで際立つサクッとした食感と小麦の香ばしさは、テーブルに常備しておきたくなる。あっさりとした味わいのためジャムやバターなど、どんなトッピングとも好相性。さて、今日は何を合わせる?
アニバーサリーシュープリーズ(A)2,376円、(B)3,456円
ツナサラダ&きゅうり、ポークシュゼットハム&レタス、タマゴサラダ&トマトetc……。大きく焼きあげたパンの中に色とりどりのサンドイッチがぎっしり!仏語で「おどろき」を表す品名を冠したこちらはお好きなメッセージを選ぶこともできる。ご予約は受け取りの3日前までにどうぞ。
Text : Mako Matsuoka
Photo : Yuya Wada