<とんかつ まい泉>60年磨き続ける、“箸で切れる”柔らかさと衣の美しさ。

2024.9.13 UP

まるで花が咲いたようにパッと立ち上がった黄金色の衣で知られる<とんかつ まい泉>。昭和40年の創業以来、豚肉からパン粉、ソースに至るまで、地道な進化を続けている。青山本店の厨房にお邪魔し、<まい泉>ならではの“揚げ”の極意を聞いた。 

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おいしさは当然のこと、美しさをも追求するとんかつ。

昭和40(1965)年、現在は日比谷ミッドタウンとなっている日比谷三井ビルの地下飲食街に創業した<とんかつ まい泉>。わずか10坪からスタートしたこの店は、周辺のビジネスマンや隣接する東京宝塚劇場の観劇客に愛されてきた。看板商品の一つ「ヒレかつサンド」は、宝塚の女優さんが幕間に気軽に食べられるものをというリクエストから生まれたもの。タカラジェンヌがメイクや衣装を汚さず、食べすいよう小ぶりなサイズで考案されたのは有名なエピソードだ。

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ヒレかつサンド(3切)454円(6切)891円

柔らかなヒレかつを秘伝ソースとふんわり焼き上げた特製パンでサンドしたロングセラー。タカラジェンヌへのお差し入れとして誕生し、小さめサイズが食べやすい。<まい泉>のロゴ「井筒紋」を大きく記したパッケージが目印。

今や<まい泉>はレストランや販売店を合わせて国内で70店舗以上を展開し、海外にも出店するほど成長を遂げている。
1978年には神宮前に青山まい泉本店ビルが完成し、1983年に隣接する銭湯「神宮湯」を譲り受け、ダイニングルーム「西洋館」としてリノベーション。格天井が壮観な歴史的建築でいただくとんかつは、青山本店だけで味わえる醍醐味だ。

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青山本店レストランの外観。売店の奥に現在「西洋館」として使用される元神宮湯の瓦屋根が見える。

 

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青山本店のお隣の銭湯、神宮湯を譲り受け、豪奢な宮造り建築を遺した「西洋館」。2019年にリニューアル工事が完了し、再オープン。新たに庭の眺望が楽しめるように。

 

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4m超えの天井高、格天井が古き良き銭湯の面影を残す。まさに昭和の文化遺産だ。

 

とんかつには顔がある。<まい泉>自慢の“剣立ち”とは。

味の要となる豚肉は、青山本店ではオリジナルブランド豚「甘い誘惑」と黒豚、茶美豚(ちゃーみーとん)という3種類を扱う。中でも「甘い誘惑」は、「ヒレかつサンド」のパンの耳を配合した飼料を与え、千葉の養豚農家で健やかに育てられた中ヨークシャー種。きめ細かく柔らかな肉質と甘くとろけるような脂身、深みのある旨味が魅力で、<まい泉>が理想とする味わいだ。

豚肉は筋を切って丹念に叩く工程を経て、箸で切れる状態になる。この豚肉を包むのはオリジナルの「特製生パン粉」。食パンの水分量などすべて独自のレシピをもとに焼き上げ、挽き目具合まで厳密に決められている。ちなみに「ヒレかつサンド」用のパンと生パン粉用のパンも当然ながら別々のレシピ。丁寧に挽いたパン粉はしっとりとしつつふわふわと空気を含み、ギュッと押さえても元に戻るほど弾力性に富んでいることに驚かされる。

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ふわふわと空気を含んだ特製の生パン粉は、押してもへこまず元に戻るほどの弾力。理想的な衣に仕上げるため、季節の気温・湿度に合わせてパン粉の水分量や挽き方を調整している。

 

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肉全体に生パン粉を素早く、均一に密着させていく職人技。この均一に密着させることが美しい揚げ上がりのポイントに。

 

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菜種油を中心にしたオリジナルブレンドの油を使い、165℃で3~4分揚げていく。衣に美しい剣立ちを作るため、油の中でかつはほぼ触らない。

 

「この特製生パン粉から<まい泉>ならではの“剣立ち”と呼ばれる美しい衣が生まれます。その日の気温や湿度に合わせて、つけ方も微妙に調整します。生パン粉を肉の表面にまんべんなく密着させるため、加圧の強さも決まっているんですよ」と、社内認定パン粉付けマイスターの資格を持つ阿部新一料理長。

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パン粉の付け方から揚げ方までのノウハウを学び、技術と知識を習得した社員のみに与えられる「パン粉付けマイスター」のほか、社内でも数名という「肉マイスター」の資格も持つ料理長の阿部新一さん。

 

さらに興味深いのは「とんかつには表裏がある」こと。

「油の中で肉とパン粉の水分が抜けていく瞬間に衣の表面が一斉に立ち上がり、見事な剣立ちが生まれます。油の中では下から上へと空気が抜けていくので、表と決めた方を上側にして揚げることでパッと花が咲いたような剣立ちになります。だから油の中ではかつをひっくり返さないだけでなく、極力触りません。揚げ上がりの瞬間は、揚げる音と油の表面に浮かんでくる泡の大きさで見極めます」(阿部料理長)

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みごとな剣立ちのヒレかつ。揚げ上がったらバットに1分ほど立てかけて油切りするのも、サクサク感を際立たせるための大事な工程。

 

こうした一つ一つの職人技から黄金色の美しい衣が完成する。揚げたてのかつに目の前で職人がサクッサクッと包丁を入れる音のなんと心地良いこと。衣がピタリと肉に密着した断面を愛でながら熱々をいただけるのも、本店に訪れる醍醐味だろう。軽快な音を立てる衣の歯応えと肉の柔らかさ、そしてじんわりと広がる豚肉の澄んだ甘みに思わず目を細める。

ちなみに「シャキシャキで甘くておいしい」と評判のキャベツの千切りも、青山本店は店内でカットし、切り立てを提供しているのだとか。

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サクッ、サクッと軽快な音を立ててとんかつを切り分けると、肉と衣がピタリと密着した断面が現れる。この切り口の美しさも<まい泉>のこだわり。

 

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本店の卓上にはオリジナルソース(甘口、辛口)とスパイスソルトが常備されている。百貨店ではテイクアウト用に独自に調合した「オリジナルとんかつソース」のほか、スパイスソルトが付くメニューもある。

オリジナルソースは甘口・辛口・黒豚専用・ヒレかつサンド用の4種類を製造。国産の生野菜や果物をたっぷり使った瑞々しい甘みのある味わいは<まい泉>の名物であり、このソースの長年のファンも少なくない。百貨店での販売時は、たとえばヒレかつ弁当には弁当用に特別に調合した「オリジナルとんかつソース」とスパイスソルトの2種が付き、「旨辛ヒレかつ丼」には甘口とんかつソースと花椒を合わせるなど、レストランの味わいを軸にしながら各メニューに適したソースが開発されている。

 

そしてレストランと同様に、百貨店をはじめとする販売店や弁当類を製造するセントラルキッチンも独自の研究を重ね、パン粉の配合から油の種類まで、持ち帰りに適した調理法にブラッシュアップされている。百貨店の店舗では豚肉「甘い誘惑」を使ったとんかつも曜日限定で販売中だ。

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特製ヒレかつ(1枚/90g)800円

“箸で切れる”ヒレ肉の柔らかさと衣のサクサク感を堪能できる代表メニュー。

創業から60年、とんかつ一筋に味を探求し続ける<まい泉>。レストランでの体験をそのまま持ち帰って楽しんでいただけるよう、販売店でも同じクオリティの素材と技術を貫いている。だから百貨店でテイクアウトし、肉の柔らかさや軽やかな衣を自宅で味わえば、専門店ならではの磨かれたおいしさに改めて気づかされるはずだ。

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やわらかヒレかつ弁当(1折) 1,167円

オリジナルとんかつソースとスパイスソルトが2種類入り、ヒレかつ(大)を“味変”させながら楽しめるお弁当部門の人気商品。

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甘い誘惑ロースかつ(100g)994円

中ヨークシャー種を、サツマイモを中心とした飼料と「ヒレかつサンド」のパンの耳を混合した健康的な飼料で大切に育てたオリジナルブランド豚「甘い誘惑」。その貴重なロースかつが限定で登場。伊勢丹新宿店で週末限定、数量限定で販売。

 

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まい泉の豚汁(180g)368円

とんかつ専門店ならではの具だくさんな豚汁。オリジナルブランド豚「甘い誘惑」を厚めにスライスし、贅沢に使用。柔らかく旨味の濃い豚肉に大根、人参、ゴボウ、こんにゃくを合わせて食べ応えも十分。

 

 

Text : Yoko Fujimori

Photo: Yuko Moriyama,Yuya Wada

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