2023.2. UP
左:伊勢丹新宿店 洋菓子 バイヤー・井上孝
右:<パティスリー・サダハル・アオキ・パリ>代表・青木定治
「長野は最高ですよ!杏もプルーンもおいしくて、プルーンなら南仏のアジャンにも全然負けてない。ここの果物はとにかく優秀だし、お菓子にまつわるものが宝石箱のように詰まっている」
パリを拠点に世界的に活躍するパティシエの青木定治さんは、そう言って目をキラキラと輝かせる。フランスと日本に現在14店舗を構える<パティスリー・サダハル・アオキ・パリ>が、軽井沢に「コンフィチュール」製造のための「アトリエ軽井沢店」を構えたのは2020年のこと。ちなみにコンフィチュールとは、果物と砂糖を一緒に煮詰めて作るジャムの一種で、「砂糖や酢、油などに漬ける」という意味の「コンフィ(confit)」というフランス語が語源である。ジャムに比べるとサラリとしたテクスチャーが特徴で、果物の形を残しているものや、スパイスやハーブなどを合わせて個性的に仕上げることもできる。
「アトリエ軽井沢店」では長野県産の果物を中心に、旬の果実を使った70種類以上のコンフィチュールを製造している。
丁寧にアクを取りながら軽井沢産のいちごをじっくり煮詰めていく。
大きな銅鍋でのコンフィチュール作りは火力と攪拌の速度調整がポイント。
糖度計で数値を測りながら、仕上げの甘さを見極める。
糖度計で数値を測りながら、仕上げの甘さを見極める。煮詰まったコンフィチュールをボウルに一気に移して、熱いうちに瓶詰めの工程へ。
1つの鍋から約120個分の瓶詰めが完成。1日に500個ほどを製造。
瓶のラベル貼りも1つ1つ手作業で。
「コロナ禍で行き場をなくした果物をなんとかしよう、というのがきっかけでした。熟れて木から落ちた果物が地面で朽ちていく様を目の当たりにした時はとても心が痛みました。なんでもいいから俺のところに持ってこい! と知り合いの農家からとにかく買い取って、長期保存できるようにと考えついたのがコンフィチュール。コンフィチュールは果物を一番おいしく食べられる方法の一つだし、これしかない! と。スタッフはじめ、本格的にコンフィチュールを手がけるのは初めての経験だったので最初は手探りで本当に大変でした。でも、これはもう楽しむしかないと(笑)、非常に充実した時間でしたね」
軽井沢で育まれたいちごをふんだんに使い、甘酸っぱい旨みをぎゅっと閉じ込めてレモンで爽やかな後味に仕上げた「コンフィチュール フレーズ カルイザワエ シトロン」。くるみ、洋梨、プルーン、いちじく、りんごなどにシナモン、クローブ、カルダモン、アニスなどを加えて深い香りに仕上げた「コンフィチュール メランジュ アルザシアン」。みずみずしい長野県飯綱産のグラニースミスを使った青リンゴのジュレ「ジュレ ド ポム ヴェール」など。
<パティスリー・サダハル・アオキ・パリ>
コンフィチュール フレーズ カルイザワ エ シトロン日本製/1個(150g)918円
伊勢丹新宿店本館地下1階 カフェ エ シュクレ
「果物の味わいをシンプルに凝縮したものから、多彩な果物やハーブを組み合わせて個性的に仕上げたものまで。青木さんの想像力とパワフルさには本当に驚かされます」と、バイヤーの井上孝もファンのひとり。
青木さんの試みに感化されて、現在では長野県内にとどまらず全国各地の果物がアトリエに届く。
青木さんにとって軽井沢は、幼い頃からゆかりのある地でもある。
「親戚の別荘があったので、幼い頃から軽井沢へはよく来ていたんです。豊かな自然とそこで育まれる上質な農作物はもちろん、信州・信濃には京都と江戸をつなぐ中山道も通り、名だたる武将たちが土地を守ってきた長い歴史に裏付けされた素晴らしい文化もある。とにかく魅力的な土地なので、日本で過ごすときは、もっぱらこのエリアに入り浸りです」と、歴史語りから始まる青木さんの信州愛トークは止まらない。
国道18号線沿いの「アトリエ軽井沢店」。
四季の味覚と軽井沢の爽やかな空気を瓶に詰め、蓋を開けた瞬間に彼の地の風が吹き抜けるようなコンフィチュールのほか、軽井沢店の限定販売だった「マンディアン ノワール」など<パティスリー・サダハル・アオキ・パリ>の煌めくスイーツが伊勢丹新宿店本館地下1階に勢揃い。ギフトにも最適な一品を求めて、ぜひ店頭へ
上質なクーベルチュールのショコラで作られる「マンディアン ノワール」。
細かな振動を与える機械で、型に流し込んだショコラを均等にならしていく。
仕上げにのせるヘーゼルナッツは、青木さんが信頼を寄せるイタリア・ピエモンテ産。
普段は仏直送のマカロン。この日は特別に青木さん自ら軽井沢の厨房で製造。
オーブンの中でじっくりローストするアーモンドをチェック。
<パティスリー・サダハル・アオキ・パリ>マンディアン ノワール(日本製/1枚)2,700円
伊勢丹新宿店本館地下1階 カフェ エ シュクレ
写真:太田隆生
取材・文 西野入智紗