【大宮エリーさんによるエッセイの連載】ときめく贈りもの。第6章 味噌

2023.11.15 UP

手前味噌、という言葉がある。知ってはいるが、あんまりぴんと来ていなかった。が、あるとき熊本は天草の農家の馬場さんと知り合って、なるほどと腑に落ちたのである。馬場さんは農薬や化学肥料不使用のお野菜を作られている。畑をみせてもらえることになり熊本まで行った。いざ案内されてみると、草がボーボー。私は思わず言ってしまった。

「畑はどこですか?」

すると馬場さんは言った。

「ここですよ」

「え?」

そこは、一面、雑草畑だった。

「雑草があることに意味があるんです」。ピーマンも、ししとうも、虫が来ないように虫が嫌いな雑草をあえて残してある。また土づくりにも雑草が影響しているのだそうな。

自然の調和のなかで野菜が自然な形で守られて、たくましく、すくすく育っていた。大きかったり、やたら甘かったりはしない。小粒だが、その野菜本来の味わいがある。野生み、素朴さ。本当の味がする。ああ、ピーマンってこんな味だったんだ。これでいいのだ。

そんな馬場さんと、夜飲んだ時にこんな話を聞いた。

「味噌、どうしてる?」

「え? どうしてるというと?」

「どんな味噌を食べてるの?」

え? 味噌にそんな気を使ったことがなかった。

「本当の菌が入ってるのを食べないとダメだよ」

まだよくわからなかった。

「というと?」

「手前味噌っていうでしょ。昔は各家庭で味噌を仕込んでいたんだ。自分で味噌を作ると、その人の味噌になるんだ。だから作る人が違うと味噌の味も変わるんだよ。このね、菌が大事なの。生きた菌が腸に届くことが大事」

コロナ禍でなんでも殺菌、消毒がニューノーマルになってしまったが、だからこそ、この話を今、思い出す。そこに大切な何かがある気がした。

手作り味噌を、2袋いただいた。作り手は違う。東京に戻って、大事にいただいたが、なるほど馬場さんのいう通り、味が全然違った。

素朴で、とても濃厚な、味噌汁になった。後日、土井善晴先生から味噌をいただいた。沖縄の味噌だった。そのとき、馬場さんの話もあってすごくうれしかった。その人が好きな味噌、というのは、なんだかその人のアイデンティティーを表す気がしたからだ。

それ以来私は、お世話になった人に、お礼として味噌をプレゼントするようになった。相手のからだのことも考えて。

そのため、いろんな味噌を、物色している。常に、いろんな味噌を試して、いくつかの種類をストックしてある。熟成期間が長くコクのある、赤味噌がメイン。味噌との付き合いは土井先生の教えを参考にしている。本にも書いてある。時間をかけない。ただ、お湯にとかして飲む。ごはんに乗っけて、それを食べる。もしくは、お茶をかけながら食べる。旅先に、ラップに味噌玉を作って持っていく。そこから進化といったらいいのか、もっと私は、味噌と距離を縮めた。

いまは夜寝る前に、スプーンに小さじいっぱい、味噌を舐めてから寝ている。ハチミツのように、味噌を。これが、朝のスッキリに抜群にいいのだ。おためしあれ。そしてMY味噌を探すべし。

 

※個人の見解です。

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あぶまた味噌<百川味噌>今年のプレミアム味噌(500g)1,080円

伊勢丹新宿店本館地下1階 シェフズセレクション

木桶でおよそ9カ月ものあいだ天然醸造した味噌の中心部分を取り出して、1袋に。蔵に付く微生物や酵母菌によって独自の味を生み出した一品はやわらかな質感と華やかな香りが際立っている。同じ味わいが存在しない味噌ならではの奥深さも堪能できる。50㎏分の限定販売。

※壺は非売品です。

※「今年のプレミアム味噌」は手前味噌ではありません。

※販売開始:11月1日(水)〜

 

 

大宮エリー

おおみやえりー/作家・画家。2016年に個展「シンシアリー・ユアーズー親愛なるあなたの大宮エリーより」(十和田市現代美術館)を発表。主な著書に『生きるコント』(文芸文庫)、『なんとか生きてますッ』(毎日新聞出版)

 

 

文 大宮エリー 写真 清水奈緒 スタイリスト 野村奈央

 

 

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