~お茶のこころを伝える~ 父から子への手紙 令和四年・夏

~お茶のこころを伝える~ 父から子への手紙 令和四年・夏のメインビジュアル

季節を五感で感じ、自然と一体となることで人生を豊かにしてくれる「茶の湯」の世界。
お茶をたしなむ父から愛する子にあてた手紙には、相手を思い遣るさり気ない心づかいや、現代人が心豊かに人生を送るためのヒントが散りばめられています。
お作法やしきたりはちょっと横において、暮らしの中で楽しむ「茶の湯」の世界を覗いてみませんか。

父から子への手紙 令和四年・夏

手紙を書いている画像

その後お身体の調子はいかがですか。
コロナ罹患との報に接し、親としてどう動けばよいのか、君のために何がしてやれるのかを頭の中で考えるのだが一向に解答が出ない日々でした。
遠いヨーロッパでの一人暮らし、さぞつらかったことだろう。ましてや昨今の社会情勢では当方の不安は募るばかり。お恥ずかしい限りです。
無事に回復とのこと、ほっとしました。
今回のことで考えたことがあります。「日日是好日」毎日がよい日だ、などとおめでたい言葉のように感じますが、実はもっと深いところにある意味を今更ながらに実感いたしました。人生の「好日」とは何かを考えたのです。

人生では自分の都合のよいことばかりが起こるわけではない。自分にとって良いとか悪いというような物事を比較することではなく、「好日」という言葉を「かけがえのない瞬間」と捉えれば、人生は日常の何気ない行為の連続であることに気付いたのです。朝起きる、顔を洗う、ネクタイを締める・・・
これらひとつひとつを大事に噛みしめながら生活することがより豊かな人生に繫がるのではないかと思うのです。

今回のことはお互いにとってつらい経験でしたが、右往左往するだけではない今後への糧となったと思います。
また近況をお聞かせください。お元気で。

  • 掛軸「有馬頼底師筆 《日々是好日》」の画像

    掛軸「有馬頼底師筆《日々是好日》」

子から父への返信

日本はもう夏ですね。そろそろ平茶碗が活躍する季節でしょう。熱いお茶を涼しく飲めるお父さんの点ててくれたお抹茶が懐かしいです。
今回のこと、ご心配をかけてごめんなさい。無事に回復しましたので安心してください。数々の励ましの言葉を有難うございました。回復の力になりました。

ベッドに横になりながら、壁に掛けてある色紙掛けを毎日ぼぉっと眺めていました。
今は「〇」(円相)を掛けています。熱があったのであれこれと考えることはできませんでしたが、丸い形が地球に見えたり、風船に見えたり数字のゼロに見えたりしました。そのうちに筆の動きやスピード感、墨の太い部分、細い部分、黒の濃淡、紙の白、円の内と外の広さを鑑賞している自分に気づきました。

三日間、字とも絵ともつかないたった一文字を眺め続ける経験は今後ないと思います。
思考力がない中で、生まれた時のなんの抑圧も刷り込みもなかった時の素の自分でいるような感覚を味わいながら見た「〇」で、少し禅語に興味が湧いてきました。
お父さん、お母さん、健康にだけはお気をつけて。

  • 色紙軸・色紙「橋本紹尚師筆《〇(円相)》」の画像

    色紙短冊掛・色紙「橋本紹尚師筆《円相》」
  • 茶碗「加藤ひろこ《金砂子扇面平茶碗》」の画像

    茶碗「加藤ひろこ《金砂子扇面平茶碗》」

~お茶のこころを伝える~
日本橋三越本店 美術部 茶道・工芸担当 三宅 慶昌

遠い海外の地で病に伏せったお子さんは部屋に色紙短冊掛があるようです。これは色紙を挟んで飾る掛軸ですが、折々の色紙を気軽に掛け替えることができます。短冊も掛けることができるタイプもあり非常に重宝します。
日本橋三越本店の茶道具サロンでも色紙短冊掛はもちろん、禅語の色紙や短冊も豊富に取り揃えています。
人生に活力を与えてくれる禅語を探してみませんか。

三宅 慶昌さんの画像
三宅 慶昌
日本橋三越本店 美術部 茶道・工芸担当
大学時代に成城大学名誉教授・清水眞澄先生(現・三井記念美術館館長)に師事し、主に日本美術についての研究、造詣を深め、博物館学芸員資格取得。1991年株式会社三越に入社。新入配属として日本橋三越本店美術部の工芸・茶道具を担当し、以来30年にわたり茶道工芸を中心に作家とお客様との橋渡し役を務めている。
また、入社とともに茶道入門、知識と人脈を広げ、人間鍛錬の糧として茶の湯の精神を学んでいる。
プライベートでは、妻と娘二人の父であるが、ともに独立し、たまにSNSで娘たちと交流するのが楽しみ。