~柔らかな眼差しと色彩が誘う「物語の予感」~ とどろきちづこ 版画アート特集

~柔らかな眼差しと色彩が誘う「物語の予感」~ とどろきちづこ 版画アート特集 メインビジュアル

どこか懐かしく、しみじみと心が温まる心象風景を描くとどろきちづこさん。
これまで「NHKみんなのうた」のタイトルバックや国語の教科書の表紙絵をはじめ、世に送り出した数多くのイラスト作品は、世代を問わず多くの人々の心を魅了してきました。
とどろきさんは、近年では絵本作家としても活躍し、絵本の絵に朗読や音楽を交えたイベントを開催するなど、絵本がもつ新しい可能性に挑んでいます。
三越伊勢丹オンラインストアで版画作品をご紹介するのに合わせ、制作への思いやご自身の絵本についてお伺いました。

  • とどろき ちづこさん [自宅アトリエにて]の画像

    とどろき ちづこさん [自宅アトリエにて]

イラストレーターになる

子どもの頃からお絵かきが好きでした。天才的!ではなく、いわゆる得意科目は図工で、友達や先生から上手だねと褒められ、マンガを真似して描いたり、仲良しと絵手紙の交換をしたり。中学の卒業文集には、クラスメイト全員の似顔絵を任されて描くような子どもでした。高校生の時にボローニャ国際絵本原画展を見に行き、いつかは自分も!と夢を描いておりました。

油絵を少し習っていたこともあり、多摩美術大学は油絵科で入学しました。3年次で版画を専攻しリトグラフを学んだことで、自分の表現したい世界が見つかり、そして木目を背景にする技法はここから始まりました。
当時好きだった作家は、フォロン。特に影響を受けたのは、ビネッテ・シュレーダーの絵本『The Crocodile』です。リアルなワニの姿がたまらなく好きでした。子どもの頃に触れていた絵本にも、感化されていたなと大人になってから分かります。

自分の作風ができ始めた頃、玄光社のイラストレーション誌上コンペ、ザ・チョイスへ挑戦し入選、第6回ザ・チョイス年度賞入賞を機に、卒業後イラストレーターとして出発します。しばらくは版画美術館の工房でリトグラフの制作を続けていましたが、イラストレーターの仕事が増えると共にアクリル画に移行していきました。

  • J-M フォロン(1997-2002年)の作品集の画像

    J-M フォロン(1997~2002年)の作品集[とどろき ちづこさん所蔵]
  • ビネッテ・シュレーダー(1939-2022年)の絵本『The Crocodile』の画像

    ビネッテ・シュレーダー(1939~2022年)の絵本『The Crocodile』[とどろき ちづこさん所蔵]
  • 『NHKみんなのうた』オープニングタイトルバック原画の画像

    『NHKみんなのうた』オープニングタイトルバック原画(1997~2002年)
  • 教科書『こくご 二年』光村図書と教科書『新編 あらたしい こくご 五年』東京書籍の画像

    教科書『こくご 二年』光村図書(2001年~)
    教科書『新編 あらたしい こくご 五年』東京書籍(2004年~)

物語のはじまり

イラストレーターの仕事を始めて30年程が経ち、子育てに少し区切りがついた頃、一枚の絵を描きました。まだ暗い夜明け前の丘、明るい一本の道を独り歩き始める人物。小さな荷物をちょこんとひとつ棒にぶらさげ、肩にかつぎ歩きます。それが、タビビトの誕生です。

とたんにその絵は物語を帯びて、私は心躍りました。それから、画面の中にタビビトがいる作品を制作し続け、2018年に絵本『きみの ゆめは なあに?』を私家版で発表します。
タビビトは、旅をしながら出会う動物や静物に「きみの ゆめは なあに?」と問いかけます。どんな突拍子もない夢でも、タビビトは肯定し面白がり、その夢の情景が現れるといった、画集のような絵本です。

その絵本の原画展を開催すると、音楽家の友人がギャラリーで朗読会をしてくれました。とても好評だったので、次はホールの大スクリーンに絵本を投影した、音楽会&朗読会を開催しました。音楽と絵本のコラボレーションは、コロナ渦の不自由な時代だからこそより一層心に響きました、と多くの方からご感想をいただき手ごたえを感じています。

  • 絵本『きみの ゆめは なあに?』の画像

    絵本『きみの ゆめは なあに?』私家版(2018年)

絵本作家のスタート

2022年に絵本『まるん はじめての いろの たび』(イマジネイション・プラス)を出版しました。大きくなったらきれいな虹になるために、小さな虹の子は旅に出ます。出会いや経験を通して感じた色を集めることで、きれいな虹になるお話です。

主人公“まるん”と同じように、これまで生きてきたすべてが、私の色になっています。この先もまた、どんな色と出会えるのか楽しみに進んでまいります。

絵の描く時に大事にしていることは、物語の予感。そこには絵本になる種が潜んでいて、次なるお話が芽生えてくるのです。

  • 絵本『まるん はじめての いろの たび』の画像

    絵本『まるん はじめての いろの たび』イマジネイション・プラス(2022年)

日々の、こと

家の近所に小さな森があり、ときおり散歩に出かけます。
木の梢を見上げて深呼吸、地面を見下して小さな草花にときめく。作為のない美しさには、いつも感心します。
鳥の声に目を凝らし、空の変化に雲や虹を探し、マクロレンズで小さな花や虫を観察する。
自然界にはいつも畏敬の念を抱いています。そうして、わたしの絵は出来上がるのです。

  • とどろきちづこ「小さな種の大きな夢~鳥のとまり木~」作品画像

    小さな種の大きな夢~鳥のとまり木~

    技法:ジグレー版画
    イメージサイズ:約 37×51.7cm
    額サイズ:約 45.5×60.6cm
    価格:72,600円
  • とどろきちづこ「小さな種の大きな夢~山と泉ひとりじめ~」作品画像

    小さな種の大きな夢~山と泉ひとりじめ~

    技法:ジグレー版画
    イメージサイズ:約 37×51.7cm
    額サイズ:約 45.5×60.6cm
    価格:72,600円
  • とどろきちづこ「小さな種の大きな夢~丘をたたえる~」作品画像

    小さな種の大きな夢~丘をたたえる~

    技法:ジグレー版画
    イメージサイズ:約 37×51.7cm
    額サイズ:約 45.5×60.6cm
    価格:72,600円
とどろき ちづこさんの画像
とどろき ちづこ Chizuko Todoroki
1989年 多摩美術大学油画科版画専攻卒業、玄光社第6回ザ・チョイス年度賞入賞、JACA日本イラストレーション展入選、第10回日本グラフィック展準入選
1991年 年鑑日本のイラストレーション入選
1992年 個展「とどろきちづこ展」ギャラリーハウスMAYA
1993年以降、仕事と子育てを両立しながら個展開催、グループ展参加。主に、書籍表紙・カレンダー・雑誌イラストなど多数手掛ける。
・創元社カーネギーシリーズ書籍表紙(1994)
・NHKみんなのうたオープニングタイトルバック(1997~2002)
・光村図書2年生こくご教科書表紙(2001~)
・東京書籍5年生こくご教科書表紙(2004~)
・帝人企業カレンダー(2009、2010)
・東京書籍1~6年生おんがく教科書表紙(2010~)
・アンデルセンのメルヘン大賞審査員(2013)
・読売新聞ニュースパッケージ(2015~)
・NHK全国学校音楽コンクール楽譜表紙(2015~2019)
2016年 子育てがひと段落した頃、ふと現れた登場人物“タビビト”シリーズを制作。個展「とどろきちづこ展」ギャラリープラット
2017年 個展「日々、タビビト」ギャラリーハウスMAYA
2018年 私家版絵本『きみの ゆめは なあに?』出版。個展 とどろきちづこ絵本原画展「きみの ゆめは なあに?」期間中、歌とピアノで綴る絵本の朗読会を開催。ギャラリープラット
2019年 個展 絵本原画展「きみの ゆめは なあに?」ギャラリーSIACCA、7人展「プチ・ノエル展」ギャラリーニイク
2020年 グループ展「賢治と月」ギャラリーMalle、個展「降っても照っても 日々タビビト」ギャラリーSIACCA、コラボ企画展「美守の都」宮野寛子×とどろきちづこ、~音楽と絵画で綴る3日間~芸術空間あおき/後援:富士宮市
2021年 個展「きっと、そう遠くない」ギャラリー ジ・アース、絵本原画展&歌と音楽で綴る絵本の朗読会「夢見る音楽会~きみの ゆめは なあに?~」相模女子大学グリーンホール多目的ホール
2022年 絵本『まるん はじめての いろのたび』出版イマジネイション・プラス