人間国宝を訪ねて㉔
川北工房三代 木竹工/木工芸

人間国宝とは、重要無形文化財保持者のこと
重要無形文化財「木工芸」保持者(人間国宝)川北良造の工房は、山中温泉にほど近い山懐にある。その工房で、良造、息子の浩彦、孫の浩嗣の3人が並んで轆轤(ろくろ)を挽いている。三代で同じ仕事をつなぐことができているのは、決してあたりまえのことではない。実に尊いことである。

右/欅造挽目筋椀 径14.2×高さ7.5cm
「私は息子や孫に、仕事を継いでほしいとはひと言もいっていないんです」と、良造。自らも、父から「継げ」といわれたことはなかったが、三代で同じ仕事に向き合えることは幸せなことだとしみじみ語る。
「欠点ばかりの男ですが、跡を継いでくれるのは、モノづくりに携わるものとして最高にありがたいこと。感謝の気持ちでいっぱいです」と、相好を崩す。仕事に向かう厳しい表情ではない。やさしい父、おじいちゃんの顔である。
今回、日本橋三越本店での展覧会に合わせ、三代それぞれが異なる材で、気軽にお酒を楽しめる酒器をつくり、セットにして販売する運びとなった(取材当時)。現在、鋭意制作中である。3つ重ねて入るケースも準備する予定だ(取材当時)。

右/欅造椀 径13.5×高さ7.5cm
浩彦がいう。「私の時代は、このあたりで大学進学するのはごく稀でした。これからどんな仕事をしようかというときに、親の仕事を継ぐ人が多かった。私も、子供の頃から父の仕事を見ていましたし、近くにあったからやることにしたという感じでした」。
父は常に一歩先を歩いていく。その背中を追い、懸命に精進してきた。挽物はちょっとした手加減ですべてが変わる。
「父のバランス感覚はすごいなと思います。私らがやると、弱かったり強かったり、物足りなかったり、固すぎたり。自分では一番いいと思ってやっているのですが、アドバイスをもらうと、自分の思いとは違っていても、必ずそれ以上の出来になる」
現在は後進の指導にもあたっているが、常々伝えているのが、「まあええか、で終わらないように」ということ。すべてに最善を尽くす。それが大事だということだ。これも、父の作品から学びとったことかもしれない。

右/欅造荒筋椀 径12.3×高さ8.5cm
孫の浩嗣は金沢美術工芸大学でプロダクト・デザインを学び、山中漆器産業技術センターを経て工房へ。木地師として3年目を迎えている(取材当時)。
「自分にとって、祖父、父のいいと思えるほうを選びとりながら真似をしている段階です。ただ、同じようにやっているつもりですが、仕上がりがまったく違うんです」
発展途上の若さがまぶしい。「これからの時代はモノをつくる人が発信する時代だと思います。たとえば、海外に山中漆器を発信していくこともそう。実際、海外から見学に来る方も増えています。息子はまだまだ時間がかかると思いますが、のびのび自由な発想で取り組んでもらいたい」と、浩彦。
良造も浩彦も、作家として常に新しいことに挑戦する姿勢は今も変わらない。良造の背中を追ってきた浩彦の背中を、今度は浩嗣が追う。美しく新しい伝統の世界がここにはある。

川北 良造(かわぎた・りょうぞう)
1934年石川県生まれ。1962年第9回日本伝統工芸展に初出品以来、本年まで出品を続ける(取材当時)。1994年「木工芸」で重要無形文化財保持者に認定。
川北 浩彦(かわぎた・ひろひこ)
1962年石川県生まれ。第15回MOA岡田茂吉賞優秀賞受賞ほか受賞多数。日本工芸会正会員。石川県挽物轆轤技術研修所、輪島漆芸技術研修所講師(取材当時)。
川北 浩嗣(かわぎた・ひろし)
1991年石川県生まれ。2014年金沢美術工芸大学デザイン科卒業。2016年石川県挽物轆轤技術研修所基礎コース卒業。現在、川北工房で修業中(取材当時)。
photographs Ryo Shirai
text Michiko Watanabe
お帳場通信 2019-20 秋冬号 掲載