~お茶のこころを伝える~ 父から子への手紙 令和五年・夏

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季節を五感で感じ、自然と一体となることで人生を豊かにしてくれる「茶の湯」の世界。
お茶をたしなむ父から愛する子にあてた手紙には、相手を思いやるさりげない心づかいや、現代人が心豊かに人生を送るためのヒントが散りばめられています。
お作法やしきたりはちょっと横において、暮らしの中で楽しむ「茶の湯」の世界を覗いてみませんか。

父から子への手紙 令和五年・夏

  • 結婚式イメージ画像

結婚おめでとう!
君たちの気持ちのこもった、温かなたいへん素晴らしいお式でした。ドローンで撮る集合写真には時代の進歩を感じました。新しもの好きの伯母さんもとても喜んでおられましたね。
二人の高らかな宣誓の瞬間、ああ巣立って行ったんだな、と実感しました。少しだけ肩が軽くなったねと、あとでお母さんと話していました。参列者全員の心がひとつになった瞬間だったと思います。

父親からのご挨拶で「一座建立」の話をしました。二人が心を尽くしておもてなしをし、客がそれを全力で受けとめた時に醸し出される心地のよい空気を、みんながそれぞれの立場で感じ取ったと思います。この心地よい空気をぜひこれからの家庭で造り上げていってほしいと願っています。末永くお幸せに。

追伸
先日頂戴した新しい懐紙挟みのセットをたいへん重宝させていただいています。もともと男子用の懐紙は大きいのですがそれでもコンパクトで蓋がしっかりと閉まるので助かっています。

  • 結婚式イメージ写真画像

子から父への返信

結婚式ではお世話になりました。お二人ともお疲れのことと思います。ありがとうございました。
先日お贈りした懐紙挟みは寸法を抑えたスマートなものでしたので一目で決めました。お二人とも和装で出席と聞いていましたのでぴったりでしたね。
結婚祝にいただいた黒楽茶碗には銘「無事」とあり、両親の今の思いがじわじわと伝わってきました。
無事に育ててくれたことに心から感謝します。

私は夜泣きが激しかったのですよね。よく熱も出しました。
お母さんには毎日早朝からお弁当を作ってもらいました。受験の時には家族で応援してくれました。
喧嘩もしました。心配もたくさんかけました。いま、私は無事に巣立ちを迎えることができました。本当にありがとうございました。

今頃はお父さんの茶室の床の間にはきっと、あの掛軸がかかっているのだろうなと想像しています。
私が小さい時から嬉しいことがあると必ず掛けていたあの掛軸。
長い間お世話になりました。これからもよろしくお願いいたします。

  • 父から子一座建立色紙の画像

  • 懐紙挟みセットの画像

~お茶のこころを伝える~
日本橋三越本店 美術部 茶道・工芸担当 三宅 慶昌

6月は結婚式が多く、三越でも結婚祝いの品物の流通が活発となります。
さて今回は、結婚という人生でも最大級のイベントを終えた父子の様子が描かれました。それぞれの立場で、相手のことを思いながら創り上げる舞台、ここには一座建立の精神が宿ります。
まずは社会生活における最小単位である家庭で、職場で、地域のコミュニティで、「一座建立」の空気が充満することを願います。

三宅 慶昌さんの画像
三宅 慶昌
日本橋三越本店 美術部 茶道・工芸担当
大学時代に成城大学名誉教授・清水 眞澄先生(現・三井記念美術館館長)に師事し、主に日本美術についての研究、造詣を深め、博物館学芸員資格取得。1991年株式会社三越に入社。新入配属として日本橋三越本店美術部の工芸・茶道具を担当し、以来30年にわたり茶道工芸を中心に作家とお客さまとの橋渡し役を務めている。
また、入社とともに茶道入門、知識と人脈を広げ、人間鍛錬の糧として茶の湯の精神を学んでいる。
プライベートでは、妻と娘二人の父であるが、ともに独立し、たまにSNSで娘たちと交流するのが楽しみ。