~お茶のこころを伝える~ 父から子への手紙 令和七年・春

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季節を五感で感じ、自然と一体となることで人生を豊かにしてくれる「茶の湯」の世界。
お茶をたしなむ父から愛する子にあてた手紙には、相手を思い遣るさり気ない心づかいや、現代人が心豊かに人生を送るためのヒントが散りばめられています。
お作法やしきたりはちょっと横において、暮らしの中で楽しむ「茶の湯」の世界を覗いてみませんか。

 

父から子への手紙 令和七年・春

先日はお手紙をありがとう。
約二年の海外勤務を終えて、この春にいよいよご帰国とのこと、誠に嬉しく思います。
単身で海外に乗り込んで行った君を頼もしく思いながらも、最近の世界情勢を思うと親としては常に心配の日々でした。
この二年で君の人生にも大きな変化がありましたね。
「春入千林處々花」(春は千林に入る處々の花)
自然の情景を詠んだ詩ですが、今の私とお母さんの心の内を見事に表しているので、普段はお正月に掛けていますが明日から少しの間は床の間に掛けようと思っています。
日増しに暖かくなり緑と美しい小さな花々を目にするようになってきました。君たちが帰国する頃には桜も満開のことでしょう。
どうぞ気をつけてお帰りください。
仲のよい家族と一匹、心よりお待ちしています。

父より

 
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子から父への返信

お父さんがお正月にお茶室に掛けていた掛軸には鶯が飛んでいる情景が浮かんだことをとてもよく覚えています。
黒い墨の色と白い紙からいろいろな色彩が見えてきたことも不思議でした。その後に出てくるさまざまな花の絵の茶道具が楽しくて、お正月の寒さを忘れて気持ちが温かくなったものです。お気に入りの白い奈良絵のお茶碗は大塩 昭山さんでしたね。
帰国したら家族とともにお父さんのお茶室で一服いただきたいと思います。
たった二年間の経験ですが、こちらで学んだこと、出会った人々のこと、与えていただいた大勢の人たちからの真心など、語り尽くせればと思います。
三寒四温の毎日です。どうぞお身体お気をつけて。

 
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展覧会のご案内

赤膚焼 四代 大塩 昭山 青丹よし展
□2025年3月19日(水)~3月24日(月) [最終日午後5時終了]
展覧会情報はこちら

 
 
 

~お茶のこころを伝える~
日本橋三越本店 美術部 茶道・工芸担当 三宅 慶昌

子の帰国を心待ちにする親心と春を待つ期待の心、三寒四温の揺れ動く気候の中で過ごす親子の様子が描かれました。
花は何の欲望も持たずにただ咲き、人の心を和ませてくれます。
茶道具にも花をモチーフにしたものはたくさんあり、古来より珍重されてきました。その上で床の花の美しさを生かし、一服のお茶をいかにして美味しくいただくか・・・
お茶の精神は誠に奥深いものです。

 
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三宅 慶昌
日本橋三越本店 美術部 茶道・工芸担当
大学時代に成城大学名誉教授・清水 眞澄先生(現・三井記念美術館館長)に師事し、主に日本美術についての研究、造詣を深め、博物館学芸員資格取得。1991年株式会社三越に入社。新入配属として日本橋三越本店美術部の工芸・茶道具を担当し、以来30年にわたり茶道工芸を中心に作家とお客さまとの橋渡し役を務めている。
また、入社とともに茶道入門、知識と人脈を広げ、人間鍛錬の糧として茶の湯の精神を学んでいる。
プライベートでは、妻と娘二人の父であるが、ともに独立し、たまにSNSで娘たちと交流するのが楽しみ。