~お茶のこころを伝える~ 父から子への手紙 令和四年・新春

季節を五感で感じ、自然と一体となることで人生を豊かにしてくれる「茶の湯」の世界。
お茶をたしなむ父から愛する子にあてた手紙には、相手を思いやるさりげない心づかいや、現代人が心豊かに人生を送るためのヒントが散りばめられています。
お作法やしきたりはちょっと横において、暮らしの中で楽しむ「茶の湯」の世界を覗いてみませんか。
父から子への手紙 令和四年・新春
あけましておめでとう。
たいへんな一年でしたが、家族全員が無事にお正月を迎えることができた喜びを噛みしめています。
そちらは相変わらず忙しいとのこと、大慶至極、くれぐれも健康にだけは気をつけるように。
当方も食後には必ずお煎茶の代わりにお抹茶をいただいています。ビタミンCも豊富だろうし、何よりもお茶の葉をまるごと粉にしているのだから身体には良いものと信じています。そちらにも点茶セットがあると思うが使っているだろうか。
年が明けると初釜ですが、今年は少人数で充分な安全対策をとって二年ぶりにやってみようと思っています。
「彩鳳舞丹霄」(さいほうたんしょうにまう)の掛軸がこれほど心に染みる年はないと思います。
穢れを落とし新たなる気持ちで新年を迎えた今だからできる道具組みを考えていると、少し気持ちも前向きになってきたように思います。
君にとって実り多き年でありますように。どうぞお元気で。
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掛軸「大徳寺三玄院住職・長谷川大真師筆《彩鳳舞丹霄》」
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手前から
茶碗「古垣嘉一作 色絵茶碗 桐竹鳳凰」
茶碗「北川弥三郎作 乾山茶碗 宝舟」
茶碗「新井京華作 掛分色絵茶碗 宝尽くし」
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左から
ぐい吞「通次 廣作 御所丸黒刷毛」
ぐい吞「通次 廣作 呉器」
酒器「江戸切子ちろり 朱」
ぐい吞「通次 廣作 片身替 伊羅保」
ぐい吞「通次 廣作 粉引」
酒器「喜多庄兵衛作 燗鍋六角宝づくし」
ぐい吞「通次 廣作 黄伊羅保」
子から父への返信
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
最近は年賀状も書かず友人には新年の挨拶もメールで済ませていますがこうして年が改まって手紙を書いているとなぜだか背筋が伸びます。
お正月には帰省せず申し訳ございませんでした。
こちらに来る時に両親に持たされた茶籠セットは有難く使わせていただいております。お父さんほどではありませんが気が向いた時に食後に一服いただきます。お抹茶は栄養があるのは分かりますが茶殻が一切出ないのもいいですね。
セットに組まれていた粉引の茶碗が最近では白色から飴色に変わってきました。道具がだんだんと変化していくのが面白く感じられるようになりました。
お正月と言えば、子供の頃は茶室に座らされて今年の目標を言わされるのが苦痛でした。その後に貰うお年玉とお菓子のために我慢したのをよく覚えています。
その時にいつも掛かっていた掛軸が、鳳凰が天から舞い降りてきて天下泰平を祝う、というものでしたね。白い紙に黒い墨で書かれた文字なのに不思議と色が見えた、と言った時のお父さんの嬉しそうな顔は今でも忘れません。
初釜は感染対策をして楽しんでください。春には帰れると思います。お母さんによろしく。
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茶籠セット「旅持ち茶籠《きらら》」
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「武関翠篁作 茶籠」
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「池田瓢阿作 時代茶籠 写」
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粉引作品の色変わりの様子
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家族で一年の目標を掲げ父の点前で一服のお茶をいただいたのも遠いむかし・・・
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一保堂茶舗「明昔」
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まめや金澤萬久「まめやの型ぬきバウム とらまねき」
~お茶のこころを伝える~
日本橋三越本店 美術部 茶道・工芸担当 三宅 慶昌
「彩鳳舞丹霄」(さいほうたんしょうにまう)の禅語は、「慶雲生五彩」「瑞気満高堂」などとともにおめでたい席にぴったりの言葉です。
五色の羽をもつ鳳と凰の番(つがい)が、赤く染まった大空をゆったりと舞っている情景を想うと、普段忙しく立ち働いていて心に余裕のない自分に気付きます。澄みわたる空を大らかに舞う鳳凰が早く現れる天下泰平の世の中に戻りますようにと心から祈念してこのお軸を掛けたいものです。
鳳凰は120年に一度だけ花が咲き実を結ぶとされる竹の実を食べ、梧桐(青桐)の木に宿り醴泉(れいせん)を飲むと言われています。
そんなところから『枕草子』には鳳凰が宿る桐材を用いて作る琴のくだりがあります。
現代でも一万円札や賞状、自動車のエンブレムに使われるなど吉祥のシンボルとして大切にされています。
香合や茶器に、竹や桐をイメージさせる意匠を取り合わせると道具立てにいっそうの深みが出るのではないでしょうか。
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茶碗「永樂善五郎(而全)作 黒地橋絵茶碗」
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手前から
茶杓「佐々木麗峰作 塗茶杓 黒 蓬莱山蒔絵」
茶杓「竹野秀山作 塗茶杓 朱 芽張柳」
棗「筑城筑良作 溜塗大棗 竹形 松蒔絵 立上梅」
棗「松本敬春作 平棗 鳳凰蒔絵」

また、入社とともに茶道入門、知識と人脈を広げ、人間鍛錬の糧として茶の湯の精神を学んでいる。
プライベートでは、妻と娘二人の父であるが、ともに独立し、たまにSNSで娘たちと交流するのが楽しみ。