漫画家・安野 モヨコが着物をデザイン。<百葉堂>立ち上げや着物に対する想いを語る。
人気漫画家の安野 モヨコ氏が手掛ける着物ブランド<百葉堂>のリアル店舗が、伊勢丹新宿店に出店。アンティークの雰囲気を上品に残しつつ、現代のライフスタイルに沿ったさまざまなシーンで活躍する着物は、今までにあるようでなかったアイテム。シーンが広がれば、着ること自体が楽しくなる。日本を代表する漫画家と着物との出会いは、着物への新しい向き合い方につながります。
多忙な漫画家・安野 モヨコ氏の着物との出会いとは。今回は<百葉堂>の立ち上げ、商品開発にも携わっている着物スタイリストの中村 麻美氏との対談形式でお送りします。
※こちらの記事は、2021年9月8日にインタビューしたものです。
江戸吉原を描いた『さくらん』の原画はアメリカ ホノルル美術館に所蔵されている。現在、「I’m home.」で『ふしん道楽』、「FEEL YOUNG」で『後ハッピーマニア』を連載中。和・着物をテーマに、2021年5月からジブリの機関紙「熱風」の表紙を担当。2020年10月より安野 モヨコの着物<百葉堂/ひゃくようどう>をスタート。
2020年10月<百葉堂>ブランドを安野氏と共にスタートさせ、中の人として邁進中。
1.着物との出会い・<百葉堂>立ち上げについて
2.<百葉堂>とは
<百葉堂>のコンセプトはどういったものでしょうか?
大人のモダンアンティークです。
アンティーク感がありつつ街にも馴染むモダンなスタイルっていう。割と矛盾してるんですけど、それが私の欲しいものでした。アンティークの柄にある華やかさ、可愛さ、季節感などを持ちながら程よく現代の暮らしに溶け込むスタイルを提案していけたらと思っています。
一見相反するものが一緒になるバランスって難しいですよね。でも逆にそういうのが今まで着物や帯にはあまりなかったので、新鮮に感じます。
<百葉堂>のこだわり・特徴は何でしょうか?
家でお洗濯ができて、ある程度きちんとした席にも着ていけること。現代の生活の中でちょっとおめかしするときのワンピースと同じ感覚で着ることができる着物、というのを意識しています。
会食や観劇など、一次会で行く場所はかしこまっていても、その後流れでタクシーに乗って、味は美味しいけどちょっと手狭なバーに行くというようなシチュエーションの時もあるじゃないですか。そんな時訪問着を着てたり良い帯してると一緒にいる皆さんにも気を遣わせますし、自分も汚したらどうしよう、とか考えちゃいます。赤ワインこぼしたら・・・とか(笑)。
手入れが簡単なことは、着物を着る上で大切な要素の一つですよね。
訪問着のエピソードもとてもよくわかります。その日に行く場所って一つではないこともありますからね。いろんなシーンに対応して、かつ手入れも簡単という点もとてもいいですね。
汚してもいい、ということではなくて余計な気を遣わないで現代の生活スタイルでストレスなく着ることができる、というのが大切だと思っています。
3.おすすめコーディネート、着物で出かけていく場、最後にメッセージ
<百葉堂>の撮影などは安野さんご自身がコーディネートを組んでいますよね。
コーディネートをするときに気を付けていることはありますか?
コーディネートの時は色のバランスに気をつけていることと「ほんの少しの華やぎ」を出すようにしています。
上品な印象ですが、どこか華やかさもある、そんなコーディネートがお好きですよね。
スタイリッシュなコーディネートにしようとすると、どうしても色数を抑えてシックにまとめがちです。そこはバランスが難しくて抑えすぎると地味になってしまう。色数を抑えながらも華やかな差し色を入れるなど派手すぎず、地味すぎず、仕上げは小物でエレガントに、と思っています。
コロナ禍でお客さまからも着ていく場所がないという声をいただきます。
安野さんがおすすめの着物を着ていく場所を教えてください。
私は神社へお参りに行きます。着物で行くとなんかすごくちゃんとお参りした感あって良いですよ。外だから密にもなりにくいですしね。気持ちも姿勢もシャキッとして気持ち良いのでおすすめです。大きな神社であれば周りの森や参道をしずしずと散歩するのもいいですよね。
着物を着ていくと一層気持ちが引き締まる感じがあっていいですね。
誰かと一緒に、というのもいいですが、着物を楽しむのは一人でもできますね。
あとは本当に普通に家の中で日常着として着てしまうのが良いと思います。着物=お出かけ着と考えないで普段着で着るんです。私も家から仕事場まで行って帰ってくるだけの日でも着ています。お休みの日におうちで着物着て日本酒飲んでみたり、煉切買ってきてお抹茶立ててみたりするのも楽しいと思いますよ。
最後にお客さまへメッセージをお願いします。
新型コロナウイルスの感染拡大により着物を着る機会が減っていますけれど、また必ず毎日のように着物を着られる時期がやってくるだろうと思います。
楽しく着物ライフを続けていきましょう!
<百葉堂>のきもの店 百葉笥
□2022年6月15日(水)~6月21日(火)
□伊勢丹新宿店 本館7階 呉服
こんにちは。今回は、安野さんに着物との出会いから<百葉堂>についてあれこれ聞いていこうと思います。
よろしくお願いします。
安野さんは以前から着物が好きだというのは知っているのですが、着物との出会いってどういったものなのでしょうか?
小さな頃一緒に暮らしていた祖父が毎日着物で生活してる人だったので、日常の中に着物がありました。私もお正月には毎年着物を着せてもらっていて。子供用のアンサンブルの黄八丈でしたが1週間も2週間もねだって、毎日着せてもらうほど気に入っていました。
黄八丈をおねだりしていたなんて凄いですね。
幼少期から日常に着物があったんですね。
そうですね。私の子供時代は七五三や夏の浴衣以外にも、年に何回か着物を着る機会があったような気がします。着物でない時も草履や下駄をよく履いていました。
小さい頃から着物に慣れ親しんできた安野さんですが、<百葉堂>の立ち上げのきっかけのエピソードを教えてください。
もともとアンティークの着物や帯を集めていたのですが、やはり状態が悪いものが多いんですね。気軽な集まりや友達と会う時はかろうじて使えるかな、という感じで。アンティークは柄や色が美しいものがたくさんあるのですが、やっぱりきちんとした席や、明るい場所(笑)には着ていけない。残念だな、と思っていた時に着付けを習っていた中村 麻美さんにアンティークの帯をデジタルプリントで復刻できますよ、と教えていただいて始めたのがきっかけです。
そうですよね。あの時、そういった話で盛り上がりましたよね。
柄の部分だけをトリミングして背景色を変えることができるので、地色がグレーの帯の柄をそのままで練色の帯にしてみたり、派手なミントグリーンにしてお襦袢を作ったりすごく楽しくて。そこから始まったのですが、デジタルだとあまりに状態が悪いものや生地が絽だったりすると焼けやシミ、絽の目まで拾ってしまって再現が難しいんです。
それで自分で柄を描き起こしてみることにしました。そのうちにオリジナルの柄に移行してインクジェットプリントで作るようになりました。
あの時の会話から<百葉堂>が生まれるとは思ってもいませんでした。