ゲームから見える日常(衣食住)と非日常(文化)の融合【前編】
~MMORPG以後の時代の捉え方と未来予測~

福井大学 地域創生推進本部/大学院工学研究科 産業創成工学専攻 経営・技術革新工学研究室 竹本 拓治 教授

コンピューターゲームはこの半世紀の間に飛躍的な進化を遂げてきた。特に、2000年前後に登場したMMORPG※は、インターネットを介し世界中の人々が繋がることで新たなライフスタイルやマーケットを生み出し、現実(リアル)の世界にも様々な影響を与えるようになった。
そして、MMORPGに代表される仮想現実の世界は、今後私たちの生活に深く入り込み、コミュニケーションの在り方を大きく変える可能性を秘めているという。
そんなMMORPGから見える未来予測を、福井大学で経営・技術革新工学の教鞭を取る竹本 拓治教授にビジネスの視点を交えてお話いただいた。

※取材は感染対策を十分に行った上で実施しています。
※MMORPG=Massively Multiplayer Online Role-Playing Game(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロールプレイングゲーム)の略称。インターネットを介して数百人~数千人規模のプレーヤーが同時に参加できるオンラインゲームのこと。

-まずは竹本先生がゲームを研究することになった経緯を教えてください。

私がまだ学生だった1990年代までは、ゲームはゲーム、勉強は勉強、生活は生活と、それぞれの境界線は明確で、個々に独立した世界が存在していました。
なぜ独立していたかというと、一つには当時のゲームクオリティがあまりにも現実からかけ離れていたことが挙げられます。

それが、1990年代にメーカー各社が始めた(いわゆる)パソコン通信が出てきて以降、少しずつ変わり始めます。まだインターネットが民間利用として浸透していなかった当時、パソコン同士が電話回線を通じて繋がるパソコン通信という仕組みが出てきて、これが後のインターネットによるやり取りにかわっていきます。
このパソコン通信で私が初めて体験したのが、不特定多数の顔も名前も知らない他者と通信するゲームでした。惑星間で物資を輸送してモノを売るという他者と競う内容で、戦略性と駆け引き、そして偶然性というシンプルな要素で出来たゲームでしたが、オフラインが一般的だった当時はこれが衝撃でした。
それまでのパソコンゲームは、コンピューター(インストールされたプログラム)が対戦相手だったので、コンピューターのアルゴリズム(行動パターン、癖)を読めれば勝てました。しかし相手がオンライン回線で繋がれた人間になると、偶然性や非論理的な要素が急に色濃くなったのです。「これはもう、寝る暇がない!」と思いましたね。寝ていると他のプレーヤーに出し抜かれてしまうので(笑)。
このように、人と対戦するゲームの魅力をすごく感じ、「ゲームってすごいんじゃないか!?」と思ったのが大学生の時でした。

その後、大学院生の時に学習塾を起業したのですが、ある生徒が英語版(後に日本語版が発売された)の「エバークエスト(1999年、Sony Online Entertainment社)」というMMORPGの存在を教えてくれました。
始めてみて驚いたのが、ゲームの進化のスピードです。以前の貿易ゲームで体験した駆け引きや偶然性に加えてストーリー性も充実しており、且つ映像は全て3DCGになっていたのです。
またNPC(ノンプレーヤーキャラクター)の高度化にも驚きました。これまでのNPCは決まりきった応答に終始していましたが、明らかに応答する言葉や語類が発達していました。後に「キャラクターAI」に進化するものですが、これが2000年ぐらいから急速に発達していきます。このキャラクターAIの進化により、対人以外にもある程度のリアリティが生まれてきました。「もしかしたらゲームはリアルのように何かを学べるシミュレーションになるのではないか」ということを感じた瞬間でしたね。

余談ですが、この頃のエバークエストには日本サーバーがなかったので、英語でしかゲーム内で対話ができなかったのです。だから意地でも英語を勉強しなくてはいけない(笑)。でも、その時に気づいたのが英語って難しくないってことです。文法がちゃんとしていなくても伝わる。むしろ、正しい文法を書こうとするとゲーム内では間に合わないですからね。日本の英語教育ってきっちりと教えることに注力し過ぎていることにも違和感を覚えて・・・それもひとつの気づきでしたね。

この時はまだ、大学院でビジネスの研究をしつつ学習塾の経営も兼ねていたので、ゲームの研究までは広げていませんでした。後に「エバークエスト」の日本サーバーが出来た頃に、チャットやギルドでコミュニケーションをとっていた多くのプレイ戦闘仲間とオフ会等を通じてリアルの世界でも繋がるようになりました。仮想空間と現実空間のリンクを意識し始めたきっかけとなり、ゲームがキャリアや教育、ビジネスに応用できたら世界が変わるのでは?と、研究分野として意識しはじめました。

「エバークエスト」のうまいところは、自分が上にいこうとしても他のメンバーの力を借りないと絶対にあがれない、つまりソロプレイには限界があり、チームプレイがとても大事なところです。こうしたことを通して人間関係も学べるんです。私は100人程度の大規模なギルドのリーダーもした時期がありましたら、リーダーシップの難しさも学べることに気づきました。

“素材”という要素もあり、それを使って様々な道具をゲーム内で作成(クラフト)していくのですが、クラフトのスキルを上げるとどんどん良いものが作れるようになります。そして、クラフトの面白い点は、それをマーケットに出すことができることです。
マーケットには競合もいるし、価格帯も自分で決められるので“今”一番需要のあるものは何かを見極める目利き力や市場分析力が必要です。例えばプレーヤーや新規マップのレベル設定によって使う武器も変わるので、ボリュームゾーンを理解してそれにあったものを作っていけば儲かる。そういったビジネス感覚も掴めるゲームでした。

そんなこともあり、ゲームが起業やビジネスに役立つのではないか、そう思って博士課程を終えた後の京都大学の機関研究員時代に本格的にシリアスゲーム※の研究をはじめました。

※ゲームは一般的に娯楽を第一目的するが、シミュレーションやストーリーなどゲームが持つ要素を用いて、教育や医療など社会的課題の解決を中心とした娯楽以外の用途にも応用できるゲームのこと。ゲームに限らず教育への応用が可能な娯楽一般をエデュテインメントともいう。

-MMORPGが登場して、人とのつながりが強化されたと。

それからストーリー性ですね。「エバークエスト」と「リネージュ(1998年、エヌシーソフト)」という二大タイトルが、ストーリー性が評価されて一気にプレーヤーの没入感を高めました。同時に、MMORPGが社会問題にもなったりして・・・ゲーム依存症の原因として注目されだしたのもこの頃ですね。海外でもこのあたりからゲームへの風当たりが急に強くなってきました。

-MMORPGがゲームのリアリティを高めたことで、これまで非日常であったゲームが日常に入ってきたということでしょうか。

ゲームの世界「でも」生きているということですね。人が生きる世界って、現実の世界と夢の世界の2つだったのが、ある意味、第三の世界が生まれたということです。
MMORPGによっては、この第三の世界からピザが頼めたりして、極端な話、部屋から出なくても生きていけるようになりました。

-脱サラしてMMORPGで収入を立てる人も出てきたとか。

そうです。ある国では「ゴールドファーマー問題」といって、低い収入で働いていた農作業者を集めて大都市のビルでひたすらMMORPGをプレイさせ、レアアイテムやゲーム内で使われる通貨を集めることや、キャラクターを成長させ、それらを売るというビジネスが起こりはじめました。
集めたレアアイテムや成長させたアカウント等を現実(リアル)で売って収益を上げるのです。これをRMT(リアルマネートレード)といいます。RMTというのはよく批判されていますが、一方で現実の世界とゲームの世界をマネタイズにより結び付けた初期のものだったと思います。

-なんだか仮想通貨に通じますね。

仮想世界の通貨が現実のお金に変わるという意味では考え方は同じですよね。
しかし、ゴールドファーマーのような人たちが出てくると、あくまでもゲームとしてプレイしている人たちの楽しみを奪ってしまうという問題も起こりました。
では、RMT自体が駄目なのかというと、リアルの世界ではRMTとスキームが近いビジネスは古今東西で常に起こっています。時間をかけて集めたり成長させたりしなければ得られないものをお金で買うというのは、ビジネスの世界でいうM&Aにも通じます。ひとつのビジネスモデルという意味では、必ずしも私はダメとは思いません。ルール整備の問題です。ただ、今でもRMTを禁止しているゲームがほとんどですよね。

-竹本先生は、このMMORPGの特性を上手く使って教育分野に役立てる研究をされているということでしょうか。

初期の研究はそうでした。例えば、ゲームの中でリアルな経済を学ぶといった感じです。例えば、経済学の教科書では需要曲線と供給曲線は動きませんし、完全市場を前提とした効率的な人間行動を前提とした経済でモノを考えていきます。一方でオンラインゲームの世界では現実世界のビジネスと同様に、それらの曲線は常に動きます。曲線の交点である市場均衡点が常に変動している状態です。
今までは実際のビジネスや株式投資で損をして、それは勉強代だと言っていたものが、ゲームの中でそうした体験ができてしまう。小さな経済がここで生まれているのです。

MMOシステムにより需要曲線と供給曲線がリアルタイムで変動していくイメージ図

MMOシステムにより需要曲線と供給曲線がリアルタイムで変動していくイメージ図
出典:https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10355541_po_ART0009576925.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
(国会図書館デジタルライブラリ―、Takuji Takemoto(2010) “Considering Financial and Economic ICT Education using Massively Multiplayer Online System”より)

-それが成立するのは、対戦相手が人間だったり高度に発達したAIだったりするからということでしょうか。

そうです。ただ、この頃はまだAIはそこまで発達していませんでした。
今ではキャラクターAIがディープラーニングにより、人に近い行動を取るようになっています。ゆくゆくはMMOでなくとも、対NPCで同じような教育環境が提供できるかもしれませんね。

-おもしろいですね。初期の頃の研究と現在の研究では、どのような変化があったのでしょうか。

初期の頃は金融教育×ゲームだったのですが、徐々にモノづくりという視点に移っていきました。
私が最初に勤めた京都大学も今の福井大学も教育の対象は、主に大学院工学研究科院生または工学部生でした。
彼らの持つ課題の一つとして、3次元CADやコンピューター技術等があることを前提にして学びだしていくことが挙げられます
いわゆる職人技といわれる基礎の技術を学ぶことなく、IoTとかAIなどの既に作られたモノをくっつける教育になってしまっていて…これについては周りの先生も問題意識を持たれています。
しかし、モノづくりの基本って大学で1からやっている時間はないけれど、ゲームの世界では子どもたちはやっているんですよね。
実際に手を動かして作るということはしませんが、先ほどの「エバークエスト」のクラフトのようにモノづくりは基本的に「付加価値を付けていく」という概念だということを、ゲームを通じて自然に学んでいるんです。そこで、これを経済教育やアントレプレナー教育に使えないかということで、ゲーム×アントレプレナーシップ教育というところに軸足を移したのです。

特に日本が抱える問題で、起業準備率(トータルアントレプレナーシップアクティビティ)という指標があるのですが、調査対象国の中でいつも下から1番か2番なのです。日本人はほとんど起業しないということです。
その原因として、多くの人は「機会損失を嫌がるからだ」と片付けている。日本は高度に発達した先進国だから、自分で起業しなくても企業に就職すれば月々安定したお給料をもらえるし、それを失ってまで起業はしない、というのがその人たちの意見なんです。
一方で、ゲームの中ではみんな自営業を経験しているのです。ゲームの中で「月々1万ゴールド渡すから指示通り戦え」と言われてサラリーマン的に戦う人は(まだ)いないですよね(笑)。
実は「どうやって起業していいかわからない」とか、そもそも「日本で起業するのが楽しくない」といった要因があるのではないか、と私は考えています。
「だったらゲームの中でそういった経験を積めるのでは?」と思ったのがアントレプレナーシップ教育にゲームを結び付けようとしたきっかけなのです。

そして、民間の財団から研究費をいただき、ゲームのなかで学べるアントレプレナーシップを研究していました。それを発展させた1つが今の研究で、人はどういう状況であれば起業するのかを研究しています。人が自分でビジネスをはじめようとするアントレプレナーシップというのは、誰かから強制されて身に付くものではない。周りの社会環境や「起業したら楽しいよね」という、わくわく感がある場所でしかできないのではないか、と考えたんです。

私はよくタイにいくのですが、タイではかなりの数の日本人が起業しています。
たしかに日本企業も多く、そこに勤める人も多いため裾野産業が広がりやすいのですが、単身で向こうにわたり飲食業をはじめたり、人材派遣業をはじめたり、私の知り合いでも日本では当たり前の不動産仲介業を、タイではそういうシステムがなかったので数十年前に始めて成功した人もいます。

つまり、日本という国は起業するのがつまらない国なんじゃないでしょうか。
タイという場所にいくと経済成長を肌で感じられるし、成功確率も日本より高いように思います。例えば、タイムマシーン商法ともいいますが、日本のビジネスを途上国に持っていくとか。
なので、日本人は起業をしないと言われていますが、起業をする環境や、起業しようと思うきっかけがないだけなのではないかと思います。

竹本教授がタイ国立チャンカセームラチャパット大学訪問時に同大学スマーリー学長より記念品を授与された際の記念写真。その後、同大学より名誉博士号を授与される

竹本教授がタイ国立チャンカセームラチャパット大学訪問時に同大学スマーリー学長より記念品を授与された際の記念写真。その後、同大学より名誉博士号を授与される

では、人の心はどうやったら起業したいと思うのか。いくら日本の学生に、起業した方がいいよといっても起業する人は少ないのです。
2010年頃にイギリスのキャメロン政権が、政治に人の行動を変える法則を取り入れると言いだしました。ナッジ(nudge)理論という考え方です。
例えば税金の滞納が増えているとします、その際に税金の督促状を送るのではなくて、TVのCMで政府の納税率が何%ですと示すことで、直接的に本人には何もしないのに「納めなきゃいけない」と思わせる。そういう取組みを始めたのです。

そこで、日本でもナッジを使えば人の行動を動かせるかもしれないと思い、強制することなく、その人がやりたいと思えるように誘導する一番いいツールはなんだろうと考えたのです。看板やCMで広告を流すのも確かに良いです。しかし対象者が自分でやりたいことをやっている最中にそうしたいと考えれば理想です。ゲームならばそれが実現できるのではないでしょうか。その中でもMMORPGというのは没入感が強いのでナッジの効果も強い、そう思って研究し始めたのです。

ゲームとナッジ理論には親和性があるという定性的な主張はあります。それを私が定量的に、または根拠をもって示せればうまくいけばなにか賞でも獲れるのじゃないかと思います(笑)。
以前の民間の財団のみならず、近年では国に研究費の申請をしたら認めて貰えたこともあり、現在はナッジとゲーミフィケーションの研究をやっています。また消費者行動という視点では、仮想世界と現実世界を結ぶビジネスモデルの研究にもつながっています。

>>ゲームから見える日常(衣食住)と非日常(文化)の融合【後編】へつづく

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