ゲームから見える日常(衣食住)と非日常(文化)の融合【後編】
~MMORPG以後の時代の捉え方と未来予測~

竹本教授が開発したMMO型ビジネス教育ゲームのタイトル画面

前編では、福井大学で経営・技術革新工学の教鞭を取る竹本 拓治教授にゲームを研究するに至った経緯や、研究内容についてお話を伺った。
後編では、MMOを応用することで教育やビジネスに役立てる方法や、仮想現実が及ぼす未来の可能性について深堀していく。

※取材は感染対策を十分に行った上で実施しています。

― 前編で、ゲーミフィケーションという言葉がでたのですが、この概念はどういったものなのでしょうか。

プレイしている人は楽しんでいるだけのつもりなのに、いつの間にか勉強になっているとか、意識せずにナッジ理論によって何かをしているとか、そういう活用の仕方をゲーミフィケーションと言います。
シリアスゲームという概念は狭義にはデジタルゲームを指しますが、同様の趣旨を持つゲーム一般を含んで使われるもの、つまり広い範囲で使われています。

― 実際に竹本先生はどのようなゲーミフィケーションのゲームを作られたのでしょうか。

一つはお店を経営するゲームです。学生でもわかりやすいようにお弁当屋さんを経営しましょうという内容です。
2つのターンがあって、まずお店を作るターンがやってきます。店長を雇ったり、資金調達をしたり、お店の立地や内装を考えたり・・・これを参加プレーヤー全員が行います。
次に、プレーヤー全員で市場のパイを奪い合います。
ここでは価格設定を変えたり、品質を変えたり、仕入れ値を変えたり、そういう要素を入れて、何をどうすれば他の競争相手のシェアを奪って収益を上げることが出来るかを競います。
3ヵ月ごとに売上と経費、それを差し引いた利益・損失などの財務諸表も出てくる、そんなゲームを作りました。
これは大学の授業でも使っていて学生に人気です(笑)。

  • ビジネスゲームー立地選択

  • ビジネスゲームー従業員選択

次に、初心に帰って変動する生きた経済を学べる金融教育も作ってみようと考えました。リアルタイムで景気が変動するような関数を組んで、金の購入、株式の購入、FX、不動産取引が自由に選択できるそういうゲームも作りました。
5分間で1カ月進む設計で、5分間の間に自分で判断して取引や売買をする。
このようなオンライントレードゲームの類は従来からあるのですが、このゲームの違いはみんなで一斉に対戦でき、全体経済の動向が価格変動に影響を及ぼすことや、逆に参加者の行動の総合によりバブル経済や恐慌が発生するなど、ゲーム内の全体経済とリンクする点です。不動産の取引においても、他の人からも入札がかかるので、収益率を勘案しいくらで応札するのかを考え、そして購入した土地は自分で価格を付けて市場に出してもいい。家賃収入も入ってくるので、いくらで売りに出せば売れるのか、買う側ならいくら銀行から借り入れすればいいか、そういった判断を制限時間内に行い、他の人と対戦するというゲームを作ったりしました。

そろそろ第三弾をつくらないといけないなと思っています(笑)。

  • 金融取引ゲーム-ゲームプレイ画面

    金融取引ゲーム-ゲームプレイ画面

  • 金融取引ゲーム-結果考察画面

    金融取引ゲーム-結果考察画面

このように教育にも応用できるのですが、今、ある企業と共同研究で進めているのがゲーミフィケーションとナッジを使って、お客さんを誘導するプロジェクトです。
特定目的のみで立ち寄る人々に、自社の売り上げに結び付けるような仕掛けをどのように設計するか、ここにナッジとゲームの要素を使って何かできないか、と考えています。

この手法はWEBマーケティングの世界でよく使われているんですよ。ミニゲームでクーポンをつけるという手法は、もう浸透していますよね。
ただそれはライトゲームなので、エバークエストがピザ屋さんと連携していたように、もっとガッツリいけないのかと考えています。

実は昔にそのような試みがあり、ある商社が主体となって仮想商店街を作ったことがありました。
媒体がCD-ROMだったこと等、当時はその先見性のあるアイディアに対してテクノロジーが追いついておらず良い結果を得られませんでしたが、今ならうまくいくのではないかと思います。
例えば、MMORPGでは多人数がサーバーにアクセスしています。リアルの世界の密のような状態が、仮想世界で実現されているのです。そこにお店を出せばどのような効果が生まれるでしょうか。
ただ、今のMMORPGはファンタジー世界が多いので、もう少し現代から近未来に近い世界観でネームバリューのあるヒット作が出てくれば乗ってくる企業もあると思いますし、そういう世界になっていくと思うんですよね。

百貨店も集客力がある立地にあるからお店に人が入ってきますよね。しかし、MMORPGは集客力があるのに、そういう使われ方はしていないのです。これからの時代、できる限り家から出たくない人も一定数いるでしょう。このMMOの中でモノが買えるのであれば、外出は不要です。仮想世界からのログアウトの手間もありません。いちいち他のサイトにいかなくても良いのです。

法的にクリアしないといけないところはありますが、ゲーム内で稼いだお金がRMT的に使えれば、結構本気でゲームとの相乗効果を生み出せるはずです。

RMTは違法ではないのです。あくまで各社の規制です。今やってしまうと世間から非難を浴びてしまうかもしれません。しかし世間の考え方が変われば・・・これは我々の使命でもあります。ちゃんと理論構築し丁寧に説明をして、ゲーム内のお金が使えるようになってくれば、この経済規模は一気に膨らんでいくはずです。

ちなみにRMTは駄目ですが、逆方向はOKなんですよね。つまり、リアルなお金でゲーム内のものを買うのは問題ない。そこで、ゲーム運営会社がシステムを実装すれば、RMTの議論なしでもリアルなお金をゲーム内において、ゲーム以外の目的に消費するビジネスモデルは実現出来てしまうのです。

― ゲームを通して、我々のような百貨店にも新しいマーケットが開かれる可能性があるということですね。

そうです。D2C(ダイレクト トゥー コンシューマー(カスタマー))という、メ ーカーが直送で店舗を持たずに売るというやり方がありますが、消費者は何を売っているのか見えづらく、欲しい物があったとしても買う決断ができない。そこで、とあるネットショップ大手が百貨店に期間限定ショップを出しました。そこでは商品を売るのではなく見せるだけ。
このモデルは海外では複数の事例があります。リアルに店舗を出していますが、そこでは売らずショールームとして商品を展示しています。
今後の百貨店の一つの役割として、高感度なショールーム化があると思います。

このモデルを、越境ECで実現できないかというテーマにも取り組んでいます。
越境ECですと、店舗を持つということがかなりリスクなので、期間限定ショップですすめるなどが考えられます。
これは百貨店の場のイノベーションです。テナントではなくて、展示スペースとして貸す。百貨店自体は、売る場を仮想空間の方へ乗り入れていってもいいと思うのです。
その際に乗り入れていく場所は、ECサイトなどのプラットフォームではなく、集客力のあるMMORPGなどのコンテンツを選ぶこと。ECサイトの弱みの一つは、お客さんが高頻度でリピートするモチベーションがわきにいくいことです。ECサイト各社はセールを常に行い、集客を行っています。一方、ゲームはセールがなくても、一定数のユーザーは毎日ログインしますよね。現在ECサイトは数多ありますが、毎日ログインしなきゃいけないとは誰も思いません。このように、ゲームは大変強力な集客力があるのに未だ使われていないので、小売ビジネスのインフラとしてもったいない状態です。

― ゲーム内に実際にリアルな買い物ができる場があれば、立ち寄りたくなりますね。

そうなのです。ゲームをやっている人もずっと集中してプレイしているわけではなく、ボーっとしている時間もあります。そういった時間を上手く利用できればビジネスは生まれます。
モバゲーの南場智子さんは、「人の暇な時間をどう活用しようか」という発想でビジネスをはじめたそうです。同様に、多くのMMORPGにはCFP(コールフォーパーティ)というパーティを組むための操作があるのですが、マッチングするのに案外と時間がかかるのです。その時間に暇をつぶす場所がゲーム内には必要だと考えています。
結局、ビジネスは人の欲求をいかに満たすかということなので、ゲーム内のCFP不満を満たすビジネスは十分成立するかと。

福井大学 地域創生推進本部/大学院工学研究科 産業創成工学専攻 経営・技術革新工学研究室 竹本 拓治 教授

福井大学 地域創生推進本部/大学院工学研究科 産業創成工学専攻 経営・技術革新工学研究室 竹本 拓治 教授

― ゲームが教育の面やビジネスにも役立つことがよくわかりました。さらに社会課題に対してもゲームが有効と伺いましたが、こちらはどういうことでしょうか。

例えばSDGsがありますが、その前に実はMDGsというのもあったのです。MはミレニアムのMです。2015年までに達成しましょうという目標があって、その時は今ほど多くの人が振り向かなかったのです。しかし、SDGsになって注目されるようになったのは、純粋に最近温暖化などで肌に感じて“ヤバいよね”とみんなが思い始めたからなのです。
ならば、自分たちがヤバいと思える危機感を学べたり、こうしたらこうなるというシミュレーションをしたりというのがゲームにはできるはずなのです。

もうひとつゲームのいいところがあります。現実世界でシミュレーションをやろうと思うと物理的にモノを動かさなくなくてはならなかった。しかしゲームならば画面上で動かせますし、アニメーションのように自由な世界を描ける、こうしたことを活かさない手はありません。宇宙開発の分野でも、衛星の実験は地球上ではできないので仮想世界で学んでいくようになるはずです。

― とはいえゲームを作るには大変な労力が必要ですよね。

そうです。このため今は、既存のゲームタイトルをチェックして、使えそうなゲームをピックアップし、データを取っていくということをやっています。
そういう作業を繰り返して、今いくつかの分類をつくり、学びに寄与する知識教育型、危機を体感できる生存型、というように複数のゲームを分類しています。
ゲームの全てが良いわけでないのですが、役立つゲームも存在するということを研究しています。

― サブタイトルにもなっている「未来予測」についてはいかがでしょうか。

コロナによって鮮明になったのが、オンラインとオフラインの世界の融合です。
これがゲームによってさらに深まっていきます。
例えば教育です。コロナで対面授業がなくなりオンライン授業が一気に普及しましたが、コロナが収まっても対面に戻るかというと全部が戻らないと思います。オンラインの方が便利なことはオンラインでやろうと、多くの人が気づいたのです。
ビジネスの場でも、仮想上でモノを売る場面がもっともっと増えてきます。そうすると、人々の時間をつぶす場所というのが、リアルな場所とオンライン、この2つの場所を行き来するようになってくるのではないかと思います。
最初にも触れましたが、人の生活様式というのが、「寝ている間の夢の世界」「仮想世界」「現実世界」、この3つに区分されていくと私は思っています。

― だから「日常」と「非日常」の融合ということなのですね。世界がもうひとつ増えるという感覚ですね。

まさにその通りです。この仮想世界の凄さというのは、物理的な距離を選ばないので遠くの人とコミュニケーションがとれること。
今はまだ画面上でのやりとりですが、仮想世界でアバターを介してやりとりができるようになってくると、リアルでその場まで行く理由が極端に減ってくる。

― わくわくする未来ですね。

これまで技術ができて初めて人々が付いてくる形だったのが、これからは夢ベースというか理想ベースが先に出来上がり、そこに技術が付いてくるという世界に変わってきているのです。
仮想世界が、人々の夢を更に膨らませる可能性を持っているのです。逆にいうと、どれだけ壮大な夢を抱けるかが、これからの先進国の条件になってくるかなと思います。
これまではテクノロジーがあってこそ先進国として認められていたのですが、これからはテクノロジーが後からついてくるので、いかに仮想空間(夢)を真剣に考えられるかが重要です。
そこでいうと、日本はアニメもゲームも超先進国なので、もう一回、本当の先進国に戻れる可能性があると思っています。

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