あの6つ子が刺繍チェーンになってやってきた!人気刺繍ブランド<tamaoworld>のアトリエで「おそ松さん」コラボレーションの制作背景に迫る
プリントと刺繍を用いてファンタジックでユーモラスな世界観を表現するブランド<tamaoworld/タマオワールド>。アニメやゲームといったメディア芸術分野とのコラボレーションの実績も多数あり、インドの刺繍工房の職人と共にハンドメイドで制作されるアイテムには熱心なファンも多い。そんな<タマオワールド>の生みの親でありデザイナーの沼田 真央氏に、今回の「おそ松さん」コラボレーションや刺繍制作について、企画を担当した東(ひがし)(三越伊勢丹メディア芸術)が東京のアトリエでお話を伺いました。
※上記の画像はサンプルとなり、現品とは異なります。
<タマオワールド>のはじまり
在学時に感じたフェルトと刺繍の可能性
東:本日はよろしくお願いいたします。まずはブランドの成り立ちを教えていただけますか?
沼田氏(以下沼田):大学在学時にワークショップでシルクスクリーン*1を体験したことがはじまりでした。その時からフェルトという素材に可能性を感じて、紙ではなくフェルトに刷っていました。
ただ、シルクスクリーンは場所も必要ですし版を重ねるのも大変で。もう少し自分に合う色を付ける技法がないかと探していた時に出会ったのが「刺繍」でした。
*1:シルクスクリーン=メッシュ状の版(スクリーン)にインクを通過させる孔をあけて印刷する手法。昔は版に絹を使っていたことから現在でもシルクスクリーンと呼ばれる。
東:卒業後にすぐ独立を?
沼田:いえ、最初は会社員として働きながらホームページを作ってバッグなどを売っていたのですが、10年程前に台東区のデザイナーズビレッジ*2に入居をすることが決まり、そのタイミングで独立をしました。
*2:デザイナーズビレッジ=台東区にあるデザイン関連のビジネス分野での起業を目指すデザイナーやクリエイターを支援する施設。
刺繍の技術が受け継がれるインド
東:インドの職人さんと一緒に作られていると伺いました。インドとの出会いはいつ頃から?
沼田:当初は全部自分で刺繍をしてハンドクリッカーで型を作って抜いて革に貼る、という手法で制作していたのですが、発注が増えてくるにつれて自分の手だけでは追いつけなくなり、量産するための工房を探した結果、インドに行き着きました。
東:なぜインドだったのでしょうか?
沼田:刺繍というのはマンパワーが必要なのです。日本はどうしても効率化が優先されて土壌があまりない。一方、インドは人口も多いですし、何より民族衣装のサリーを着るので、文化として刺繍が根付いている。ですから、代々続く刺繍職人の家も多く、腕の良い職人さんもいらっしゃいます。
量産ができるようになったことで、今回のようなコラボのお話も受けられるようになりました。
ただ、絵型とか設計図だけを送っても私が思い描いていたものができてこないので、最初のサンプルは私が全部刺繍して、材料もインドで揃えた素材を主に使うことによってブレを少なくしています。
東:マンパワーが必要ということは分業制で?
沼田:分業制ですね。実は刺繍はインドでは男性の仕事なのです。最後の検品やかがりなどの仕上げの作業は女性が行うのですが、階も完全に分かれていて、地下の作業場で刺繍職人は作業しています。
私が取り引きしている工房の社長さんは女性なのですが、インドだとかなり珍しいですね。
女性の従業員もかなりの数雇っているので、女性の経済進出の支援になれば、と私も考えています。
東:インドの女性進出は進んでいるのですか?
沼田:分野によるかもしれませんね。女性が会社を立ち上げるというのは一昔前までは考えられなかったことですから、少しずつ進んでいると思います。
東:海外の工房さんとの取り引きということで、ご苦労をされることも多いのでは?
沼田:インドの人って「できない」って言わないのですよね。相手に悪いから。
「できるよ」って言ってくださるのですが、本当にできるのか、気を遣って言っているのか未だによくわからない時があります(笑)。
特に今回のようにキャラクターのアイテムは、線の一本が全体の印象を左右しますからね。「毛の方向もすべて真似してほしい」とインドまで行ったこともあります。
東:一筋縄ではいかなそうですね・・・。
沼田:大変な分、他社さんもなかなか参入してこないので、逆にそれがうちの強みになっています。
日本やほかの国でも同じようなものを作れるとは思いますが、クオリティの高いものでも何万円もしたら気軽に買えないじゃないですか。「手の込んだものを手の届きやすい価格で売る」ということを信条にしています。
東:量産とはいえ、手作業のぬくもりを感じますよね。
沼田:そうなのです。(インドの人は)センスがあるのかな。イギリスの影響があるのかヨーロッパテイストの材料もマーケットにはたくさんあって、ものづくりの観点からみると魅力的な国ではありますね。
塗り絵のような感覚で飾り付ける独自の制作方法
東:沼田さんの制作方法を少し教えていただけますか?
沼田:私はポリエステルフェルトに昇華転写という技法で絵柄をプリントして、塗り絵のような感覚で色をつけていきます。
東:塗り絵のように?
沼田:そうです。絵柄の色に合わせて、どんな材料を乗せるかを決めていくのです。例えば服の部分にはスパンコールを乗せてみようか、とか。
今回でいうと、十四松の黄色のスタジャンには、刺繍糸だけだとのっぺりしてしまうので、スパンコールやビーズを入れています。
最初からコレでいくというのはあまり決めずに制作していますね。
東:たくさんの材料がありますね。カラフルでかわいい!
沼田:難しいのはキャラクターの設定と同じ色がないことも多くて。インドは素材がきちっと管理されているわけではないので、現地に行ってあればあるし、なければないという感じ。イメージを損なわないようになるべく近い色味のものを探して作ります。
東:目に見えない努力がたくさん詰まっているのですね。
沼田:他社さんと同じことをやりたくないので、どういう方法が自分の表現に合っているかなと考えながら、材料と制作方法を探求しています。
色味にこだわった6つ子の刺繍チャーム
東:アニメやゲームといったIP*3とたくさんコラボをされていますよね。こういった取り組みはいつ頃から?
*3:IP=知的財産。アニメ・映画・ゲームのコンテンツやキャラクターのこと。
沼田:10数年前からでしょうか。結構いろいろとやっています。
輪郭がハッキリしたものとの相性が良いので、キャラクターとは親和性が高いのです。
東:キャラクターコラボとほかの案件との取り組み方の違いはありますか?
沼田:そうですね。やっぱり世界観を知ってから取り組みたいので、まったく知らない作品は人間関係がわかるくらいには把握してから取り組みますね。それでハマっちゃうことも多くて(笑)人気があるものには理由があるな、と。
東:では「おそ松さん」も?
沼田:1話から観させていただきました!色彩に独特の蛍光感があって、それを落とし込むのが難しかったですね。
東:確かにキャラクターの主線も黒ではなく、青ですよね。
沼田:そうそう。影も少し青みがかっている感じで、刺繍にも反映しています。色合いが独特で斬新な印象を受けましたね。
東:今回制作していただいた刺繍も再現度が高いですよね。立体的ですし、カラフルな刺繍でファッションアイテムとして昇華されている気がします!
バッグに付けて歩いたらかわいいと思います。6つ子、全員揃えたくなっちゃいますね!
沼田:パーカーをビーズにして、中のシャツを糸にすることによって、凹みが出て立体感を演出しました。シャツの柄もうまくできましたね。
東:通常まずはデザイン画などで版権元さまに確認いただく場合が多いのですが、タマオさんの場合は最初の段階でほぼ現品に近い形まで作られるのですね。
沼田:そうですね。印刷と刺繍ではまったく印象が異なるので、私たちも刺繍まで仕上げてから出すことの方が多いですね。
刺繍はやり直しがききますから、版権元さまから修整が入った場合でも糸やスパンコールの色を変更するくらいは比較的簡単にできるので、印象が違ったら縫い直すということを繰り返します。
動物などの小さいキャラクターを作る時は、人間のキャラクターとの等身のバランスを指摘されることは多いですね。もちろん設定を調べてから制作するのですが、二次元の世界を立体化するにあたり、設定に忠実に作っても実物はバランスの印象が変わる場合があって・・・。
その点、「おそ松さん」は作りやすかったです!
東:エスパーニャンコをラインナップにいれるか実はちょっと悩んでいました(笑)「おそ松さん」は等身のバランスが絶妙ですよね。高くもなく低くもなく、よく考えられているなと。
ファンの方へメッセージ
東:最後に作品ファンの方へメッセージをお願いします。
沼田:一つひとつハンドメイドで大切に作っていて、今回もかわいく仕上がったと思います。ぜひファッションアイテムとして身に着けていただき、一緒にイベント等へ連れて行っていただければ嬉しいです!
東:おっしゃるとおり、ファションとして幅広い年代のファンに取り入れていただきたいですね。本日はありがとうございました!
お話を伺った方
株式会社ハナカラクサ代表
本屋、画材会社を経たのち<tamaoworld/タマオワールド>立ち上げ。ちなみに“tamao”というブランドネームは小学校時代のあだ名から。台東区内の若手デザイナー支援施設、台東デザイナーズビレッジ出身。
イラストのインスピレーションは非現実な小説の世界や、行ったことのない外国の写真集や空想から。2012年頃からインドに生産の拠点を移し、年に数回インドに行き、土着的な技法を取り入れながら商品開発に勤しんでいる。
©赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会