衣替えシーズンに必見!技術力・復元力が光る<ウォータークリーニング>

伊勢丹新宿店メンズ館8階にある<ウォータークリーニング>をご利用いただいたことはありますか?――「スーツの汚れを1着1着職人のシミ抜き技術で落とした後、特殊水のクラスタルウォーターで洗い、専用プレス機とハンドアイロンで本来に近い状態に仕上げる」と文字で説明しても、なかなか理解してもらえないかも知れませんが、<ウォータークリーニング>を運営する、創業49年になる「ナチュラルクリーン」の工房では、ビスポークスーツや高級ブランドのアイテムを、1着1着の特徴に合わせて“ウォータークリーニング”か、好適なケアを行っています。今回は、「ナチュラルクリーン」の取締役代表代行 中田 輝道さん、松村 誠さん、及川 勉さん、日名川 茂さんにお話を伺いました。

なぜウォータークリーニング(水洗い)をするのか。特殊な“水”と「汗汚れ」の関係

―――“水”が違う
中田輝道さん(以下、中田):水洗いクリーニングを行っている店はたくさんありますが、高級ブランドの繊細な衣類を通常の水道水や井戸水で洗うと、サイズや質感の変化が大きくなり、そのあとの復元が難しく、着ることが難しくなることも・・・。「ナチュラルクリーン」では、地下400メートルの縄文時代の地層から採取した水を特殊なスリットを通過させて活性化した粒子の細かいクラスタルウォーターを使用し、更にマイクロバブルを加えることで、衣類に出来るだけダメージを与えず洗浄力を上げ、通常の水では洗えない特殊水洗いを可能にしました。また、皮革製品洗いの特許*も1995年に取得しています。
*皮革製品の洗濯方法(水洗いによる)特許第2735522号

―――“汗汚れ”に対してのベストなケア方法とは
中田:高温多湿な日本で着る服にとって最大の敵は汗です。特に特殊な繊維や凝ったディテール・縫製の高級ブランドの洋服にとって汗は難敵で、衣類に残る汗の成分(塩分・アンモニア・皮脂)が、生地の黄ばみ、変色や変退色、劣化の原因となります。汗は水溶性なので、化学溶剤で洗うドライクリーニングでは取り除くことができません。汗による変色や衣類の劣化の根本問題である“汗汚れ”を解決するのがウォータークリーニングです。

軽く首の後ろにあてたキッチンペーパーに、汗に反応して色が変わる溶液を吹きかけると、一瞬にして色が変わる。このように、自分自身が思っている以上に汗をかいていて、ケアが必要なことがわかる。

スーツを水洗いして汗汚れを落としたら、機械と職人の腕で本来に近い状態へ復元する

―――水洗いを想定しないお洋服も多いのでは・・・
中田:元々水洗いを想定していない衣服や特にビスポークスーツなどは一点物なので、独特の縫製を施しているものも多数あります。水洗いをすると形が大きく崩れ、見えない部分の芯地の縮みや変形、接着の剥がれ、色のシミ出しなどが起こり、本来の状態に復元するのに非常に手間と時間を要しますが、落とすべき汚れを取り、仕上げの熟練者たちの技術で本来の状態に近い復元を行っています。
 

―――本来の状態に近い復元を実現するために
中田
:水洗い仕上げの難点を改善するため、スーツの縫製工場のジャケット製作ラインで使われているものと同じ各部位の専門プレス機のラインを導入しています。プレス機の強い圧力で、衣服のフォルムに合わせて一気にプレスすることで、ハンドアイロンだけでは難しい形状の保持性と美しさを再現させることを目指しています。

―――取り扱いアイテムは
中田:「ナチュラルクリーン」では、ビスポークテーラーなどの専門家と研究会を作っており、ファッション性やデザイン性の高いハイブランドの服飾製品などの1点1点に合わせた最良の洗いやケア、仕上げ技術や復元方法の技術を研究し、実践しています。従ってスーツをはじめ、ダウン、ラグジュアリーブランドの高級衣類はもとより、バッグ・靴・ドレス・着物まで広く取り扱っています。

―――飽くなき探求心
中田:仕上げを担当する及川をはじめナチュラルクリーンの技術者たちは、プレス技術に留まらず、服飾文化やビスポークの芸術的なスケールの深さを定例的に学ぶ「テーラードプレッシング研究会」を催して、一流のテーラーや服飾関係者を講師に招き、スーツをはじめとするハイブランドの洋服を本来の姿に復元するための学習と研鑽を重ねています。

ウォータークリーニングに関わるスペシャリストが語る違いとは。ウォータークリーニングの3大技術に迫る! 

1)【技術力:水洗い編】さまざま経験によって培われた対応力

ナチュラルクリーンの技術部長で、クラスタルウォーターによる水洗い歴24年になる松村 誠さん。京都大学薬学部出身。

松村 誠さん(以下、松村):ウォータークリーニングの魅力は、幅広い対応力です。私たちは、毎日仕事や通勤で着用するスーツの汗や汚れを落としてさっぱりさせるような、日常に即したクリーニングから、ハイブランドのクチュールを、繊細な技術を駆使してディテールを再現するケア、さらに長年の時を経た思い出のこもった一品を、時を超えて蘇らせる復元技術まで、幅広い対応が可能です。

松村:ウォータークリーニングは使っている水が違うので、品物を傷めることなくきれいに洗い上げることができます。水洗いを謳(うた)うクリーニング店は多々ありますが、洗うことは出来ても繊細なハイブランドの製品を仕上げられるところはほとんどなく、1着1着確認をしながら総合的に判断してどのようにケアしていくかを決めていくレベルの高さが他店との違いです。
 

松村:前処理をして、1着ごとに素材に合わせて、洗っていく作業は、これまで多様なアイテムを洗いにかけてきた長年(24年)の経験を元に、洗う時間や脱水の時間もそれぞれの洋服に合わせて、変えていきます。

松村:特に水洗いが必要なのがパンツ(トラウザーズ)で、上着は直接肌に接しませんが、パンツは肌に直接触れるので、思った以上に汗汚れが激しいものです。色が落ちないような処置を施した上で、水で洗ってあげた方が汗汚れがさっぱりと落ちて、大事に長く着ることができます。

2)【技術力:アイロン・仕上げ編】ハンドとマシンによる美しい共演で新たな息吹を

主にスーツとダウンのアイロンプレスを担当するチーフで、テーラードプレッシング研究会の責任者でもある及川 勉さん。

及川 勉さん(以下、及川):一般的なクリーニング店と私たち「ナチュラルクリーン」では、アイロンの考え方が違います。一般的なクリーニング店のアイロンは、シワを取るために引っ張る・伸ばすかけ方でかけていきますが、「ナチュラルクリーン」では、スーツの縫製工場にある専門プレス機のラインを駆使し、さらに技術者の手によるアイロンワークで、洗濯前のサイズと形に戻していきます。私たちはシワを消すアイロンと、元の形をつくるアイロンを使い分けて仕上げていきます。

及川:マシンとハンドの合わせ技の理由は、特にビスポークやハイブランドのスーツ、ジャケット、パンツなどは一点一点素材や縫製、仕立てが違うので、洗い上がりの復元・再現が難しいもの。高級スーツの生地は湿気を嫌うので、アイロンのスチームの量の調整も難しく、さらにお客様の見る目も厳しい、難しい仕事です。

及川:何層にも重ねられたジャケットの胸の芯地や肩のパッドをプレスするには、マシンプレスの圧力の強さが必要で、マシンプレスだけでは出来ない細かい整形=クセ取りにはハンドが不可欠。マシンとハンドが合致してはじめて一点一点の服に新しい命が吹き込まれます。

3)【復元力:復元・再現編】着物と洋服の復元の違いと挑戦し続ける想い

最後に登場するのは、人間国宝の着物や美術館などの貴重な品物の修復を手掛ける日本でも有数の修復師の日名川 茂さん。

「自分のプライドをかけて、他では不可能な復元・修理をやっています」という日名川さんの仕事を一躍有名にしたのは、2018年にテレビ番組で、44年前(当時)のニナリッチのオートクチュールドレスを、「フランス時代に着ていたドレスをもう一度着てみたい」という依頼で、ドレスの全体の黄ばみ、シャンパンのシミ、潰れた花びらの装飾の修復を見事に行いました。7年前に「ナチュラルクリーン」の中田代表代行と出会ってから、ハイブランドの服飾品の修復復元を手掛けるようになり、「自分に与えられた新しい仕事」として、プレタポルテ、オートクチュールなどの高級衣類にも積極的に取り組んでいるそうです。

日名川 茂さん(以下、日名川):私が受ける復元品は、着物やデザイン性・芸術性の高いハイブランドの洋服、高額なレザージャケットやバッグなどのアイテムです。いずれも素材、縫製、生地、デザインのどれを見ても質が高く、生涯をかけて長く着用するようなものばかりです。

日名川:着物は直線裁ちで正方形なので、ほどいて手入れして仕立て直したり、反物に戻すことができますが、洋服は様々な角度の縫製があり、ほどいて手入れして縫製し直すことはほとんどしません。また、洋服の素材は化学繊維や天然繊維の混紡が多く、素材の特質を見極めることが非常に難しいものです。

日名川:洋服ならではの縫製、加工、装飾技術、デザイン、染色のすばらしさを感じながら修復復元する仕事は、新たな復元技術の創造に向けて、とても挑戦的な意欲にかき立てられます。いろんな思い出が詰まった服を捨てるのはもったいないので、お気に入りの服は着るべきです。汚れたりシミが出たら、思い出とともに修復して甦らせます。

クリーニング作業工程に潜入!実際にスーツを出してみました!

今回、メンズ館5階 メンズテーラードクロージング アシスタントバイヤー小薗渓太のベージュ・無地の麻のスーツをクリーニングに出してみました。

出した時には、首回りの皮脂と汗による汚れ、両脇の表裏共に汗ジミあり、左胸内ポケットの内側にインクのシミ、背中左裾に黒いシミ、背中の裏地に糸引き、パンツの膝裏に深い着用ジワがあり、シワの谷間やふくらはぎの外側部分は、汗と摩擦により青色、パンツの素材の色素が消失してオレンジ色に変色している。という7項目がチェックされました。

①    伊勢丹新宿店8階<ウォータークリーニング>にて、商品を出すと、まず上記の汚れや気になる箇所の確認、仕上げの希望も含めて、お客さまのご要望を伺います。

② 商品が工場に到着したら、ジャケットやパンツのポケットなどにしつけを行います。最初に、“元に戻す”ためのベースとなる状態を整えます。

③ スーツの裏地の糸引きを直す(かけつぎ担当:岡野さん)
針を使い、全て手での作業。集中して、ほんの数分で、まるで何もなかった状態に!

④部分的にそれぞれ(襟や脇の汚れやシミ)の汚れを取る(シミ抜き担当:小池さん)
上から溶液を当てて下から吸い取るようにして、汗の成分を丁寧に落としていきます。

(写真下)左側未処理、右側は汚れ落とし済。あまり汗がついていないといっていた首回りも汗汚れが。

この時に、汗汚れや油汚れに合わせて、溶液を変えながら落としていく作業を行います。特に、頑固なワキ汗は丁寧に落としていきます。
 

漂白剤は筆で塗るようにして、使う洋服(素材)に合わせて、全て使用する量も調整しながら丁寧に汚れを落とす作業を進めます。また、使う筆も素材に合わせて選び使用していきます。

⑤    洗い(洗い担当:松村さん)
前処理を行い、脱水、水洗い、脱水をしていきます。今回は4~5分程度でしたが、洗いをかける時間は素材と汚れを見て毎回決めています。

また、もともとがドライクリーニング店でしたが、環境や衣類や人体に優しい特殊水洗いを目指し、15年前までは全て水洗い一択だった時期もありましたが、長年の経験から現在はそれぞれの素材に合わせた洗い方を行うようにしています。商品によってシリコーンドライクリーニングも行っており、こちらも一点ずつの素材に合わせて手洗いによる(オプション)一点洗いを行っています。

⑥人体整形(形を整え・乾燥) (担当:中田さん)
脱水後、形を整えて、それぞれの商品に合わせた整形乾燥機を使用し、乾燥させていきます。

 

⑦ 仕上げ加工・プレス (担当:及川さん)
お客さまのお好みの加工を承り時に伺うので、希望に合わせて仕上げをしていきます。ハンドの時に生地の目を見ながら整え、元の形に戻していくイメージで、各パーツごとにプレスできる機械で順番に整えていく作業を行います。

⑧ 染色 (担当:今井さん)
汗などで変色している部分を直していきます。少し赤みがかっているところに、補色となる青を差し込み色を馴らす作業で、丁寧に色を合わせながら行います。

After

クリーニングに出す時に気になっていた脇下の汗ジミやジャケットの後ろの汚れも綺麗に落ちました。

日頃のケアと出すタイミング

―――日常でできるケアは
松村:帰宅したときに、濡れタオルで汗をかいた部分の汗を吸い取ってあげるだけで汗の濃度が薄くなりますが、汗じみで黄色くなる前に、早めにクリーニングに出すこともお勧めします。

―――出すタイミングが難しい
及川:見た目は汚れていないようでも、手や肌に触れた服は汚れています。“着用したシーズン終わりにクリーニング”というより、シミや色などの変化に気づいた、手遅れにならないタイミングで、大切なスーツを清潔な状態に保つことを心掛けてください。

―――値段はいくらからですか?
中田:基本料金としては、スーツは8,250円~で、ワンピースは7,700円~となりますが、1着ごとに最良の復元のために何ができるかを確認してご提案しお見積りとなります。

 

早めのケアで、永く大好きなお洋服を愛用していただくことができるので、ぜひこの機会にプロの職人による<ウォータークリーニング>で、好適なケアを始めてみてはいかがでしょうか。

 

店舗情報

ウォータークリーニング

場所:伊勢丹新宿店メンズ館8階 イセタンメンズ レジデンス
対応商品:メンズスーツ・ワンピース・ダウンコート・カシミヤコート・レザージャケット・皮革袋物バッグ他
価格:メンズスーツ 8,250円~、ワンピース 7,700円~、ダウンコート 9,450円~、レザージャケット 16,600円~

※商品の状態に合わせてお見積りさせていただきます。

 

Text:Makoto Kajii
Photograph:Tatsuya Ozawa

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