ひとつになる季節、かけがえのない歓び。
皆川 明さんインタビュー
三越伊勢丹のクリスマスキャンペーン『One』。昨年に引き続きクリエーティブを手掛けるのはアーティスト・皆川 明さん。今年のクリスマスのために描き下ろしたメインビジュアルを中心に、ロゴマーク・ラッピング・メッセージカードなど、トータルなアートワークで、あたたかで心躍るクリスマスの世界を生み出しています。創作活動の裏側や、クリスマスに関するエピソードを語っていただきました。
―昨年スタートした三越伊勢丹のクリスマス『One』。あらためて『One』という言葉に込めた想いを教えてください。
『One』には、“ひとりひとり”であるということと“みんながひとつになる”という意味が込められています。2022年にテーマを考えたころ、その時の世界の状況でとても大事な事柄を表してくれる言葉として選びましたが、今年になってさらに大切な言葉になったと感じています。
―『One』のロゴマークは、皆川さんがちぎり絵で制作したロゴに、毎年違ったモチーフがあしらわれます。今年は「星」と「花」があらたに加わりましたが、その意味とは?
星も花も、どちらも人にとって身近であり、多様性を持っているものです。星は、わたしたち地球上に住む誰もが、夜になると見ることができます。同時にわたしたちの身近な景色の中には花が咲いています。身近なものと、遠くを思い描けるもの、そんなふたつの要素をモチーフとして加えてみました。
―続いて今年描き下ろしていただいた絵について。カラフルなコスチュームをまとった、はねを持つキャラクターたちが連なっています。この絵はどんなことを表しているのでしょうか?
このキャラクターたちは、クリスマスの“オーナメントの精”をイメージしています。最初からそう決めて描きはじめるのではなく、絵を描くことはとても偶発的なものなので、キャンバスに向かうまでは自分でも何が生まれてくるのか分かりません。
手を動かしながら、はじめは一組の男女がいて、それに繋がる人々が生まれてきて・・・だんだん森の中に妖精たちがいる風景が浮かんできたのですが、途中でこの人物たちがモミの樹に飾られているオーナメントで、自ら踊っている姿だったら楽しいのでは、店内の装飾ともリンクしたら面白いかもしれない、とアイディアが膨らんでいきました。そこで、それぞれにモチーフ(模様)を持たせたり、背景を、明るい光の中にいるようなイメージに塗り直したりして、最終的に現在の絵になりました。
―見ていてとても明るさや楽しさを感じる風景です。すべてのキャラクターが誰かと手を繋いでいますね。
絵を描きはじめる時、今の社会の空気が求めている平和や繋がりを示唆するものを表現したいな、という想いがありました。今年はコロナ禍を経て、人と人の距離が近くなるクリスマスでもあると思います。手をとり踊る姿には、人と人が繋がり合える歓びや幸せが表れていると思います。
―創作活動をする時、気持ちを高めたり集中するために、何かしていることはありますか?
絵を描く時には、なるべく、よい意味で緊張するということが大事だと思っています。特に今年のクリスマスキャンペーンは2回目になるので、お客さまたちに昨年とは違う世界を見ていただきたいなという気持ちがあります。自分でもこれまでに描いたことのないような、自分も嬉しくなるような絵を描くぞ、という意気込みをこめて、期待を自分に課すような気持ちで緊張を高めていき、ひたすら頭の中で構想を繰り返していく。でも、いざ描く時には一度力を抜いて、リラックスして描きはじめます。スポーツとちょっと似ているかもしれませんね。
―こうして生まれたオーナメントの精たちは、店内のあちこちに登場します。また妖精たちのモチーフ(模様)で、あらたにラッピング用の紙袋も誕生しました。皆川さん自身は贈りものをするときにラッピングにこだわりますか。
僕は包むのがとても苦手で・・・。でも、包装紙を選ぶとか、包むという行為に、相手を大事に思うという気持ちが表れると思うので、贈りものをする時は、プレゼントを選ぶのと同じくらい、どの紙にしよう、どの紐にしよう、とこだわりますね。どんな手紙を添えようかな、ということも考えます。
―メッセージカードはいつも添えますか?
なるべく手書きで書きたいと思っています。文字にはくせがでるから、誰が書いたのか、誰からもらったのか後々までわかっていいかな、と思います。万年筆が好きなので、メッセージを書く時にも、インクの色や文字の太さなんかを、カードを贈る相手に合わせて選んだりします。
―ショッピングバッグにかけられるメッセージカードも、今年は5種類に増えました。お客さまにもぜひプレゼントにメッセージを添えていただけたらいいですね。
そうですね、ひと言でも、そこに言葉が書いてあるときっと歓びが大きくなると思います。
―ご自身のブランド<minä perhonen>に加えて、海外での展覧会や異業種とのコラボレーションなど、多岐にわたるプロジェクトでいつもお忙しい皆川さんですが、自由にクリスマスを過ごせるとしたら何をしたいですか?
僕は北欧の北極圏やアイスランドのような荒涼とした冬の中に行って、旅をしてみたいな、と思います。もちろん東京での華やかなクリスマスの世界も大好きですけれど、そういう静かな場所で友人たちと過ごす旅ができたらいいですね。
―最後に、今年のクリスマスを迎えるお客さまたちへメッセージをお願いいたします。
クリスマスというのは、一年が終わるころに、次の新しい年を想いながら、身近な人たちとあたたかな時間を一緒に過ごすタイミング。世界中のみなさんが歓びを感じられる素晴らしい季節で、大事な行事だと思います。その歓びや楽しさが享受できていることは、とてもかけがえのないことなんだな、ということも同時に思いながら、素敵なクリスマスを過ごしたいですね。