パリコレ22年春夏に登場したユーズドデニム。デジタルと真逆にある時間軸をコレクションピースに<アンリアレイジ>森永 邦彦氏

デニム de ミライデザイナーインタビュー vol.2メインビジュアル

伊勢丹新宿店が主体となり、株式会社ヤマサワプレスが所有する約20トンもの<リーバイス® 501®>ユーズドストックを国内外のブランドやアーティストたちがアップサイクルしていくプロジェクト「デニム de ミライ~Denim Project~」。
ヤマサワプレスで丁寧に洗いにかけられた唯一無二のデニム生地に、新たな命を吹き込んだデザイナーたちのもとへ、プロジェクトの発起人たちがクリエーションの背景を知るべくさまざま視点で語り合います。
今回は、既存の枠にとらわれずに、常に新しいことに挑戦しながらファッションの在り方を追求する<ANREALAGE/アンリアレイジ>の森永 邦彦氏を訪ねました。
:ユーズドストック=着用されたデニムパンツ・デニム生地

  • ANREALAGE 森永邦彦氏

  • 森永 邦彦氏

    <アンリアレイジ>デザイナー

    2003年「アンリアレイジ」として活動開始。2014年よりパリコレクション進出。ANREALAGEとは、A REAL-日常、UN REAL-非日常、AGE-時代を意味し、洋服のある日常に非日常のファンタジーを描くべく、さまざまな芸術的アプローチで表現の模索を続けている。2022年春夏は映画「竜とそばかすの姫」とコラボレーションした作品やパリで発表したNFT作品11点がNFT鳴門美術館で落札され話題を呼んだ。

  • 神谷将太 バイヤー

  • 神谷 将太

    伊勢丹新宿店 リ・スタイル バイヤー

    2021年に25年周年を迎えたリ・スタイル。最新コレクションからヴィンテージまで、国内外のブランドを衣服に限らず独自のコンセプトで編集・発信しつづける、スタイリングショップ。一人ひとりの価値観・生き方というスタイルに、美しい選択を提案していく。

デニム素材が呼び起こす<アンリアレイジ>の琴線

伊勢丹新宿店 神谷(以下、神谷):森永さんは、今回のプロジェクトへのお声がけをした際に、ご参加の表明を即答いただいたという記憶があります。

森永邦彦氏

森永氏:あのとき、最初に大量のデニムが積まれた写真を見せていただいたんですよね。その<リーバイス® 501®>のデニムに強い印象を受けました。僕らはパッチワークをブランドとしてずっと続けてきて、そこで数多くのデニム素材を使ってきましたから、今このタイミングでこのような取り組みをすることで、この素材の塊を自分達の中に迎え入れることができればと思いました。当時、DIMENTION(22年春夏)のコレクション(細田守監督『竜とそばかすの姫』とのコラボレーションでアニメーションを駆使し2次元・3次元を超えるようなデジタルショーを発表)を制作するところだったのです。そこで、デジタルと真逆にある時間軸をコレクションにしたら厚みのあるものになるのでは、とも考えていました。

コレクション画像
2022年春夏 DIMENTIONのコレクション

神谷:森永さんご自身にもユーズドデニムとの接点があったんですね。

神谷バイヤー

森永氏:そもそも学生時代に、初めてパッチワークを作ったのがデニム素材なんです。ブラックデニムを洗濯機で洗ったり、車につり下げ引き摺ったりして加工を施していました。初めて<アンリアレイジ>という名前で東京コレクションに出たのが2002年の3月だったのですが、その時のコレクションも、ユーズドと新品のデニム生地を混ぜてすべてパッチワークをほどこしたというものでした。だから原点的なつながりがあるんですよね。今でこそテクノロジーやデジタルなイメージがブランドにはついていますが、元々ブランドの原点には“時代を超えるもの”というコンセプトがあります。元々は古着のリメイクがブランドの大半を占めていたんです。

意志が込められた異次元の装飾

三角形で構成されたドレス
三角形で構成されたドレス
三角形で構成されたクローズアップ画像
生まれ変わった角形のパッチワークのテキスタイル

神谷:今回完成した無数の三角形で構成されたドレス。古いデニム素材が一つひとつ緻密にレイアウトされていて、テキスタイルとして完全に生まれ変わっていました。三角形のパッチワークが誕生した背景をお聞きしたいです。

森永氏:1年前の1月ぐらいに、ずっと続けてきたパッチワークの原点を探しに奄美大島に行ったんです。日本で現状、最も古い装束が布をつなぎ合わせて作られた奄美の“ハブラギン”だと言われています。その語源は蝶々を示すハベラと、はべらぎ(はべらを着る)からきている奄美の言葉で、三角形のパッチワークで構成されています。奄美大島では蝶々に乗って先祖の魂が戻ってくると言い伝えられていて、絶対に殺してはいけないとても神聖なものです。古く、奄美の住民達は三角形を蝶々に見立てて、細かな縫い目まで三角に入れることでお守りとして服にあしらっていました。子供服の袖口など開いたところを三角にすることで、子供を守るという風習があった。医療のなかった時代ならではの人々の強い祈りが込められていたのです。

森永氏

そこから、ひとつの三角を起点に構成していき、アンリアレイジ的にハブラギンのパッチワークを作るという発想で展開していきました。映像では蝶々が集まるようにと細田監督にお願いしました。動かないものに命を吹き込んで、舞うようにするというコンセプトを、見事に表現してくださいました。

森永氏

神谷:プロジェクトではドレス以外にも合計4型作っていただきました。商品の特徴について教えていただけますか?

森永氏と神谷バイヤー
神谷バイヤー

森永氏:ライダースもブランドの原点として継続して展開しているものです。パターンが存在しておらず、一点ずつすべて違う模様に仕上げています。通常のパッチワークに比べて何倍も細かいんです。多分800ピース以上あるんじゃないかな。それから、パッチワークの裏を丁寧に一回ずつ縫ってアイロンをかけています。裏の始末がないものは着ていくうちに擦れていってしまう。普段見えないところも相当丁寧に作っているというのが特徴ですね。

三角デニム

繋がりで生まれる感動体験が紡ぐミライ

神谷:森永さんは音楽やデジタルアートなどと積極的にコラボレーションされています。変化のスピードがどんどん早まる世の中で、ファッションの在り方や百貨店の役割について、どのように見据えていらっしゃいますか?

森永氏:一旦デジタルやバーチャルにいくと思うのですが、そこで得る感動体験はまだ少ないと思っています。コロナが終わったその時に百貨店のようなフィジカルな場所はデジタルには替え難いものではないかなと。自分の昔の記憶では、百貨店に行くこと自体がエンターテイメントでした。親に連れて行ってもらってレストランで食事をしたりとか、そういう体験がいまだに心に残っています。自分の子供も百貨店に連れて行って、記憶に残るような体験をさせてやりたいと思います。

森永氏

神谷:私達は、デザイナーの思いをお客さまに伝える立場として、小売のサイクルの中心にいたい。工場ともお客さまとも繋がることができる私達は、そのサイクルを自分達が作れる存在なのではないかと思っています。今回の「デニム de ミライ」もただのリサイクル活動としてでななく、お客さまが本当に欲しいと思えるものを提案する必要があると思ったんです。クリエーションをしてくださる方々って唯一無二の存在ですから、そういう方々と一緒に未来を作っていけたらと思っています。

森永氏:伊勢丹新宿店が主導で別の百貨店や小売店と一緒にプロジェクトが進んでいるのが新しい百貨店の在り方だなと思います。プラットフォームとかハブ的な意味合いがもう一段階上に上がった、象徴的な取り組みですね。

森永氏と神谷バイヤー

神谷:ヤマサワプレスの山澤さんと最初に話したときに決めたことなんですが、これをやるならいろんな人を巻き込んでやりたいと。CSR活動として終わらせてはいけない。だからこそ一流のデザイナーさんとともに、ファッション業界に存在する大きい社会課題に皆で向き合っていけたらなと思っています。

森永氏:ファッション業界の環境負荷は、いちブランドで解決することはできませんからね。こういう機会で同じ志を持ったみんなと作っていくっていうのは魅力的だなと思っています。一過性ではなく、この先も長くヤマサワプレスさんともお付き合いして続けていくことに意義があると思うので、すごく良い機会をいただいたなと思っています。

神谷:森永さん、ありがとうございました!

photo:Hideyuki Seta
text:Yuka Sone Sato