ユーズドを“新しい洋服”へ。経年変化によるデニムの濃淡をレディライクに<マリオンヴィンテージ>石田 栄莉子氏・清水 亜樹氏
伊勢丹新宿店が主体となり、株式会社ヤマサワプレスが所有する約20トンもの<リーバイス® 501®>ユーズドストック※を国内外のブランドやアーティストたちがアップサイクルしていくプロジェクト「デニム de ミライ~Denim Project~」。
ヤマサワプレスで丁寧に洗いにかけられた唯一無二のデニム生地に、新たな命を吹き込んだデザイナーたちのもとへ、プロジェクトの発起人たちがクリエーションの背景を知るべくさまざま視点で語り合います。
今回は、古着のアップサイクルを標準としてコレクションを発表し、TOKYO FASHION AWARD 2022を受賞した<MALION VINTAGE/マリオンヴィンテージ>の石田 栄莉子氏、清水 亜樹氏を訪ねました。自らも<マリオンヴィンテージ>の大ファンという伊勢丹新宿店 リ・スタイルのアシスタントバイヤー宮﨑 真理がお話を伺います。
※:ユーズドストック=着用されたデニムパンツ・デニム生地
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石田 栄莉子氏
<マリオンヴィンテージ>デザイナー
杉野学園ドレスメーカー学院ファッションデザイン科を卒業後、企業デザイナー、バイヤーとして8年間経験を積み、2016年に古着のアップサイクルブランド<マリオンヴィンテージ>をスタート。
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清水 亜樹氏
<マリオンヴィンテージ>デザイナー
高校卒業後、地元のセレクトショップに勤務。その後上京し、「Cher(シェル)」で 11年間バイヤー、店長を勤め、2016年石田と共に<マリオンヴィンテージ>をスタート。
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宮﨑 真理
伊勢丹新宿店 リ・スタイル アシスタントバイヤー
25年前にローンチ以来、国内外のレディースのデザイナーズをセレクトしている伊勢丹リ・スタイル。既存の価値観を覆すような発想と独創的な編集力を持って発信し、時代が求める半歩先を提案する。個人の価値観や人生観の選択肢を広げ、より一層の「共感」と「偶然」を目指している。
ユーズドデニムにみた、新しい未来のカタチ
宮﨑:展示会にお伺いした際に、デニム生地に箔プリントを施したものを拝見したのですが、ちょうどその時がデニムプロジェクトを始動しはじめた頃でした。ヴィンテージをリソースとして作られてるお2人なので、何かおもしろいことが一緒にできるのではないかと思ってお声がけさせていただきました。ヤマサワプレスのオープンファクトリーにいらしていただいてから本格的に制作がスタートしましたね。
石田氏:(ヤマサワプレスでは)デニムがすごくキレイに陳列されていて、プレス工場ならではの保管状態に驚きました。“リメイクもの”って汚れを気にする方も多く、デニムは特に匂い残りが強いのが特徴。ヤマサワプレスさんだったらそのネガティブな部分を払しょくできるノウハウがある。そこは結構強みなんじゃないかなと思いました。
宮﨑:ブランド設立当初からヴィンテージとユーズドをリメイクして取扱っている<マリオンヴィンテージ>さんですが、ユーズドを“新しいお洋服”へと再構築するようになった背景をお聞かせいただけますか?
石田氏 : 2人とも「Cher(シェル)」というセレクトショップで働いていた頃、古着のデニムを使ってカットオフデニムを販売していたんです。裾の端切れがもったいなくてずっと溜めていて、溜まった端切れで何か作ってみようと。その後、古着に付加価値をつけて販売しようと2人でアイデアを絞って決めたのが2016年。手作りでサンプルを作って社長にプレゼンすると即答でOKが出てブランドがスタートしました。代官山店では即完売。手応えがあったのですが、シェルは解散になってしまったんです。その時、社長から2人なら大丈夫と背中を押していただいたので2017年から独立して、<マリオンヴィンテージ>として2人でやっています。
デザインの面では、私はカジュアルでメンズライクなテイストで、清水はフェミニンなテイストとまったく違うんです。それぞれの良さがバランスよく表現できていることが、いろいろなお客さまに見ていただける理由でもあるのかなと感じますね。
宮﨑:デザインの工程は、元の素材を見てインスピレーションが湧くのですか?それとも、アイテムを解体してからデザインが見えてくるのでしょうか?
清水氏:素材の特徴をもとにデザインに落とし込むときと、単純に生地がかわいいから採用するときの2パターンあります。素材は幅広く、ネクタイやクロス・カーテン・クッションカバーなど良いと思ったら何でも使います。
宮﨑:今回のプロジェクトでみなさん苦労されたのが、素地であるデニムの一つひとつの縫製や生地が違うため、加工を受けて下さる工場さんがいないということでした。お2人はまさにそれを毎シーズン1点1点やり遂げていることが本当にすごいと思います。
石田氏:私たちも断られすぎてどこもやってくれないんじゃないかって毎回思いますよ。最初からダメだという工場さんもあれば、やっていく中でギブアップってなる場合もありますし。実はデニム生地の方がいつもよりもやりやすいと感じました。
リメイクを知り尽くした2人ならではの高いクリエーション
宮﨑:今回、レディライクなシルエットや得意のパッチワークなど、<マリオンヴィンテージ>の要素がたくさん詰まったデザインを作っていただきました。
石田氏:2022年春夏コレクションのテーマがテディ・ガールズという「60年代のパンクロックバンドの彼女」のイメージだったので、ちょっとボンテージ要素を入れました。
宮﨑:昨年の12月のプレス展でもすごく評判が良かったんです。<リーバイス® 501®>ってどちらかというと男性的な印象が強いアイテムであるのに対して、フェミニンでどこかセンシュアルさを感じるお洋服に生まれ変わりましたね。
石田氏:経年変化による色の濃淡がすごく可愛いですよね。新品のデニムでわざと加工したものではないというところが良い。<マリオンヴィンテージ>の服は、よく新品に見えると言われます。ただ取り外して取り付けるようなリメイクではなく、古着を生地として見ていますので、かなり細かい指示もしています。アップサイクルを始めた当時は立体感がうまく表現できなかったのですが、端切れを差し込むことで表情がぐっと変わる、というトライアンドエラーを5年間やってきて、やっと最近掴めてきたのかなという感じです。
<マリオンヴィンテージ>というサイクルを作りたい
宮﨑:TOKYO FASHION AWARDを受賞され益々注目度も上がっています。これから<マリオンヴィンテージ>が目指すことをお聞かせください。
石田氏:服を解体して裁断したり、工場さんでは通常受け付けていただけないようなものづくりが私たちのベースです。追々は自社工場を作ることができたらなと考えています。<マリオンヴィンテージ>をブランドじゃなくて、サイクルにしたいんです。今すでに当たり前の服作りから外れたことをしているんですけど、それをもう少し通常のサイクルに乗った普通の仕事として認めていただけるようにしていきたいと思っています。
清水氏:<マリオンヴィンテージ>のクラフトマンシップを認められ、そこで働きたいな、かっこいいなって思われるような場所になれたら嬉しいですし、自分たちがやっていることが当たり前と感じるような、そういう仕事にしていきたいと思っています。
宮﨑:現在リ・スタイル TOKYOで、シーズンごとにポップアップとして年に2回出店いただいています。お客さまも毎年楽しみにしていただいているイベントかと思います。
清水氏:すごく楽しいですよ。店頭には必ず立つようにしているのですが、自分たちが直接ブランドの思いを全部伝えられることはとても大きいです。あと、皆さんがお洋服を褒めてくださるじゃないですか。その嬉しい気持ちを吸収して持ち帰っています。
宮﨑:お2人の着こなしに憧れて、真似しながら買い物される方がすごく多いという印象です。ほかにはない唯一無二ブランドです。これからも応援しています!
本日は、ありがとうございました。
text:Yuka Sone Sato