〈日根野勝治郎商店〉京都で三代続く悉皆屋のホープが描く未来

日根野勝治郎商店

和装文化華やかなりし京都。和装にまつわる多彩な業種があるなかで、〈日根野勝治郎商店〉が拠り所とするのが、「染め悉皆」という仕事。この家業を継ぎながら、未来へ向かうべく、新たな一歩を踏み出しているのが、三代目の日根野孝司さんです。京染めの伝統を未来へつなぐ存在として大きな役割を果たしています。

 

染め悉皆というおしごと。

栗ごはんの炊き上がりの様子

 悉皆という仕事をご存知でしょうか。悉(ことごとく)に皆(みんな)と書くその名前のとおり、着物にまつわるあれこれを解決してくれる、いわば「何でも屋さん」。悉皆という仕事を細かく見ると、染めに特化していたり、修繕に特化していたりと、それぞれ細分化されています。〈日根野勝治郎商店〉の三代目当主、日根野孝司さんが代々受け継いできたのは、染めに特化した「染め悉皆」という業種。いわば、京染めの総合プロデューサーといえるでしょう。

栗ごはんの炊き上がりの様子

 白生地と呼ばれる白地の織物に対して、得意先から色や柄などのオーダーを受け、その内容に応じて、付き合いのある約150箇所の染色加工場いずれかに発注して納品するのが、染め悉皆業者の主な役割です。「京友禅とひと口に言っても、型染め、ぼかし染め、手描き友禅などさまざま。これまでの付き合いのなかから職人さんの特徴をよりよく出せるものを差配して、注文していきます」(以下、日根野孝司さん談)

栗ごはんの炊き上がりの様子

 近年は、「和装離れ」が叫ばれていますが、そうしたなかでも、〈日根野勝治郎商店〉が発注する染め工房を訪れると、熟練の職人たちが慌ただしく作業をしています。行っていたのは、枠場ぼかし染めと呼ばれる技法。和服に使用される約38㎝幅の反物に対して、刷毛を使って手早く着色していきます。

栗ごはんの炊き上がりの様子

「染料が乾燥する前にムラなく仕上げるためには、手早さと正確さが大事。一筆たりとも間違えることはできません。反物がまるっきり無駄になってしまいますからね。職人さんたちも、50〜60年続けている熟練中の熟練。こうした技術は、一朝一夕には生まれません」

栗ごはんの炊き上がりの様子

 京都市内の喧騒から離れた住宅街に構える工房から、職人が作業中に聞くラジオと、作業の音が響き渡り、なんともいえない風情を漂わせています。

 

逆転の発想で、染めの世界を広げる。

 

 そんな日根野さんは、悉皆のプロデューサーという側面とともに、2つのブランドを牽引する起業家としての顔も持っています。そのひとつが、〈京都の染屋がつくった™〉です。悉皆の仕事で付き合いのある工房が染めた生地をさまざまな商材に落とし込んだブランドとして立ち上げています。「〈京都の染屋がつくった™〉は、私たちでないと作れない、京染めでしか表現できないものを作っています。普段からいろいろな染めをしているのが、我々の強み。例えば、和装における八掛、平たく言えば“チラ見せ”させる裏地ですが、これは京友禅の見せどころなんですよ。このように我々の得意とする多彩な技術を用いることで、幅広い色彩表現が可能となっています」

 アイテムは、リボンとストラップが取り外し可能な「カメレオンタイ」や、「キヌマスク」、アップルウォッチ専用の替えベルト「カメレオンバンド」など、いずれも「これが京染め?」と驚く独自の発想に基づいたものが並びます。

栗ごはんの炊き上がりの様子

「いろいろな染めができるからこそ、逆にバリエーションがあったら面白いと思えるものを作っています。例えば、カメレオンタイはリボンとストラップを、カメレオンバンドはアップルウォッチのストラップは上と下を、あえて別売りにしています。というのも、柄と柄を組み合わせる楽しみがあったら面白いじゃないですか」

 日々何か面白いことはないかと考える日根野さんのアイデアは、多岐に及びます。今、大手コンビニエンスストアにも置かれて話題となっているのが、もうひとつのブランドである〈SOO(ソマル)〉で作っている「おふき」と命名された正絹のメガネ・スマホ画面拭き。

栗ごはんの炊き上がりの様子

実は、こちらのほうが、〈日根野勝治郎商店〉のブランド〈京都の染屋がつくった™〉よりも先だったんです。正絹の染め物ってどうしても敷居が高いですよね。百貨店の呉服売り場でしか見られない京友禅の魅力を、もっと広く伝えていきたいというのが動機です」

 そこで思いついたのが、京友禅手染め絹の眼鏡拭き「おふき」。京染めされた正絹の生地を手作業でカットし、「たとう紙」と呼ばれる和服を保管する和紙をオリジナルでアレンジした包装紙に包んだ商品ですが、これがヒットしたそう。

「いつも言うんですが、これ、実際は普段着物に使っている布なんですよ(笑)。絹は静電気が起きにくく、やわらかくてしなやかなので表面にも傷をつけませんし、蚕の繊維は長いので細かな毛もつかず、汚れも拭きとりやすいのでメガネ拭きにいいな、という私のひらめきで。これを私たちの染めで作ったらおもしろいなと。そこで、たとう紙にパッケージしたところ、お土産品として高評価で、2017年のグッドデザイン賞も受賞しました。そこからさまざまなコラボレーションにも繋がっています」

 

「売り場の人に愛されなければ意味がない」

 

 初代日根野治郎さんが、悉皆の営みを始めたのは、1952年。当時から続くノウハウが三代にわたり生かされているのが、〈日根野勝治郎商店〉の強み。
「祖父が滋賀県から丁稚として京都の問屋に奉公し、独り立ちをした際に悉皆業を選んだと聞いています。祖父は自分が幼い頃に亡くなっており、記憶は曖昧ですが、それを継いだ父の姿を見ており、一般の人には馴染みが薄いはずの悉皆業も身近に感じられました」
 大学では経済と建築を学んでいた日根野さんですが、家業を継ぐことに積極的だったと言います。
「サラリーマンをずっとやるよりは、幼い頃から見てきた悉皆の仕事に興味がありましたので、家業をついでみようと。実際やってみると建築の物作りとあまり変わらないことに気づきました」
 物作りの楽しさを感じながら、京染めの魅力を発信する仕事に、やりがいを感じている様子。大学での学びが現在の物作りやデザインの発想にも生かされているといいます。
「私と妻で、商品企画やパッケージから、販促物のデザインまで手掛けています。たまたま、妻が大学でデザインを学んでいたことも大きな助けになっていますね。それは、結婚後に知ったことなんですけど(笑)」

栗ごはんの炊き上がりの様子

 “京都の文化の継承を”と大上段に構えると、とにかく距離を置かれがちな昨今。日根野さんは、独自のスタイルで京染めの普及に精を出しています。
「率直にいうと、私たち染屋は、染めた生地を何かに使ってもらえればいいんです。それは和服に限らず。和服の振興に固執する必要はないのかなと。むしろ、いかに京染めを身近に思って楽しんでもらえるかが大事。それが、ブランドを続ける原動力にもなっています。私たちがやっている小物の染めは、それ単体ではコストが見合わない。和装の流れの中で、職人さんたちのやり方を変えることなく仕事していただくように考えるのも、私の仕事だと思います。リソースを最大限有効に活用するためにはどうしたらいいか、このことを日々考えています」
 悉皆のプロデューサー気質が三代目の日根野孝司さんにも色濃く受け継がれているようです。


「好きなものを自由に選んで、着て、楽しむ。これが豊かな生活だと思うんです。ここに私たちの京染めも入れたらなと思っています」
 そのためには、売る人に愛されることも大事と強調する。


「うれしいことに、今私たちの取引先は皆、こうしたストーリーや想いを理解していただいています。それってとても大事だと思うんです。売る人に愛されないものが、買っていただけるわけがない。そういうなかで、京染めの魅力をさらに発信していけたらいいですね」

 

栗ごはんの炊き上がりの様子

 

友禅のグラデーションが美しい「KINUMASK(きぬますく)」。京染めを施した正絹の生地を外側に、本藍染めを施した木綿生地を内側に、中には洗える不織布を配した3層構造。絹自体の吸湿性、放湿性、保温性、UVカット効果も生かしています。日根野さんご自身が2ヶ月試したという木馬社製のグログランテープを採用したストラップは、長いために結び目を自在に設定可能。マスクケースとして使用可能な抗菌・防虫効果もある特製桐箱とセットで。

Photo_Kousuke Matsuki
Text_Masashi Takamura

KINUMASK+ 角型 はこちら
KINUMASK+ 丸型 はこちら
 
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