企業の枠を越えてファッションの未来に向き合う「ピース de ミライ」の取り組みのなかで大切にしているのが、これからのファッションを担う若い世代にも参画を呼びかけること。担当バイヤーが専門学校を訪れ、三越伊勢丹の考えるサステナビリティについて、また、ファッション業界が直面している在庫や廃棄の問題についてお話しし、「ピース de ミライ」で目指すミライに共感していただける学生さんの参加を募りました。
▲文化服装学院での説明会
▲エスモード・東京校での説明会
日本で最初のファッション専門学校として100年以上の歴史を持ち、卒業生は30万人以上。国内外で活躍する数多くのデザイナーを輩出する文化服装学院。SDGsや環境問題に対してさまざまな取り組みを行っています。今回、作品制作を通して循環型のファッションを考えるきっかけにしてほしいという想いでご参加いただきました。
=お話をうかがったのはこちらの5名=
左から:髙林華珠さん・藤井優翔さん・石田凜々花さん・見奈美秀斗さん・藤森亮さん
(5名ともファッション高度専門士科3年生)
-はじめに、みなさんの作品のテーマを教えてください
藤森さん:僕がテーマにしたのは「浮上」。今回の作品に取り組むにあたって事前学習をしたのですが、そのなかで廃棄される残布や排出ガスなどさまざまな問題が浮かび上がってきました。その「浮上」をキーワードに、服を見る人の気持ちが浮上してほしいという想いも重ねています。服につけた花のモチーフは、細かく細断したデニム生地をチュールで包んでつくっています。
石田さん:私は「ギャザー」というテーマでつくっています。ヤマサワプレスに山のように積み重なっているデニムの姿を、そのまま服に落とし込みたいと思って。ギャザーをたくさん寄せて、山のように積み重ねていく構想です。トップスの部分は、デニムをリボン状にカットして織り直すことで、一枚の生地のように仕立てています。
藤井さん:テーマは「進化⇔無変化」です。進化の対義語は退化と思われるかもしれませんが、進化の逆は変化しないこと。退化も一種の進化であるというのをコンセプトにしています。リーバイス®は、変わらずに愛されてきたものの象徴。ある種無変化であったものをどう進化させるかがテーマです。具体的には、デニムパンツを再解釈してドレスをデザインしていて、スカート部分にサイドシーム(縫い目)のディテールやコインポケットのデザインをアレンジしています。
見奈美さん:僕のテーマは「ピース」。もともとビンテージが好きなんですが、いろんな時代のアイテムを組み合わせてコーディネートできるのは、いまだからできる楽しみですよね。年代を重ねたデニムをいまのトレンドのスタイリングで見せたいと考えて、Y2Kのテイストをデニムとツイードの組み合わせで表現しました。
髙林さん:私は「動き」をテーマにしています。もともとラッフルやフレアのデザインが大好き。風を受けたり、動いたとききれいに見えることを大切につくっています。リバティ・ファブリックスは、むかしから母が好きだった素材。子どもの頃よくお手製の服を着せてもらっていました。思い入れのある素材なので、ぜひ使ってみたいと思い、選んでいます。
-制作にあたって、むずかしかったことや印象的なエピソードはありますか?
石田さん:デニムの一部分だけを使っているので、一枚で大きな面を取ることができないんですよね。小さい生地をさらに細く切って、編み込むことで生地をつくりだしました。切って編む作業がすごく大変で…(笑)。でもこのデニムをいったいどんな人がはいていたのかな、と想像するのがおもしろかったです。ペンキがついていたり裾がほつれていたり、いろんな表情があるんですよね。
髙林さん:私もとにかくたくさんの素材を使ってラッフルをつくっているので、その作業は大変ですね。素材自体も900種類くらいある中からセレクトしたので、組み合わせが無限にあって(笑)。いま、どんな小さいハギレも無駄にしないよう一生懸命つくっているところです。
見奈美さん:僕は、普段やってはいけないとされていることに挑戦できたのが新鮮でした。普通だったらほつれないよう処理しなきゃいけないところを、あえてそのまま表に出してみたり。ロックミシンをかけないことでその分使う糸も少なく済みますし、サステナビリティがテーマだからこそできることだと思います。
-今回の取り組みに参加してみて、気づいたことや今後に活かしたいことがあれば教えてください
藤森さん:僕自身、サステナビリティについてそれほど知識はなかったのですが、今回作品をつくることでいろいろな社会課題を知ることができました。友人がつくっている作品を見て「こういう視点もあるんだな」と勉強になることも多かったですね。
石田さん:私は高校でオーストラリアに留学したとき、サステナビリティに対する意識の高さにびっくりしたんです。それ以来興味をもって調べていくうちに、大好きなファッションが地球に悪影響を及ぼしていることがわかりました。エシカルファッションについて学んだり、自分でも実践したいと思いながら、実際服をつくるうえでサステナビリティを両立することはすごくむずかしいことがわかったのも事実。今回作品づくりに取り組んでみて、生地の無駄がでない方法を探ることができたのはひとつの成果だと思います。友達の作品を見て、無駄になってしまうものをデザインに転換していたり、いろんな工夫があったので参考になりました。
見奈美さん:いまはあらゆる場面でサステナブルであることが前提になっていますが、正直自分では取り組めていない部分でした。なので今回は本当にいいきっかけになったと思います。あまり頭でっかちにサステナブルだから、と考えると自分らしさが出ない気がするので、今回は自分の身の回りのできることからはじめようと意識しましたが、今後はどんどん視野を広げていきたいですね。
180年以上の歴史を持つエスモードの東京校。国際色豊かな環境で、世界で活躍するデザイナー・パタンナーを育てています。サステナビリティの実践にも力を入れ、独自のカリキュラムも導入。今回は、サステナビリティの意識を高め、学生の喜びも叶える企画ということでご賛同いただきました。
=お話をうかがったのはこちらの3名=
左から:石原靖子さん・毛利壽乃さん・澤田アルトナイさん
(3名ともファッションクリエイティヴ学部2年生)
-澤田さんはどんなテーマで作品づくりをしていますか?
澤田さん:私は作品をつくるとき、自分の中にある感情を表現することが多いんです。今回は「癒えた魂」というのをコンセプトにしました。大変なことがあってボロボロになっても、前に進もうとがんばる姿が美しいというメッセージを込めています。
-ボロボロになっても前に進むというイメージは、デニムを再生させることにもリンクしていますね
澤田さん:そうかもしれないです。使わなくなったものを蘇らせるというストーリー自体に興味がありますし、リメイクは一度チャレンジしてみたかったこと。今回を機に、もっとトライしてみたいと思いました。
-デザインでこだわった部分はどこですか?
澤田さん:ステッチなど、単にストレートな線を描くのではなく、あえて完璧じゃない状態を表現したかった。ところどころ肌が見えるホールをつくったり、女性の身体を美しく見せることにもこだわっています。
あと、デニムは自分の手ですべて赤く染めることからスタートしました。赤は私のテーマカラーのひとつ。それに加えて、生命を象徴する色でもあります。当初は均一な色に染める予定だったのですが、素材の色がまちまちだったこともあって、やっぱり同じ色には染まらないんですよね。でも結果的にはそれがよかったと思っています。完璧じゃないというコンセプトを表現できているので。
-石原さんと毛利さんは二人でひとつの作品をつくられたということですが、コンセプトを教えてください
毛利さん:私が思ったのは、人生という限りある時間の中で、いま自分が本当にワクワクできるものをつくりたい。生きている「エネルギー」を表現したいということ。自分たちのつくった作品が伊勢丹に飾られて、それを見た誰かがまたワクワクしたり、何かを感じてくれたらいいなと思い、言葉で説明しなくてもエネルギーが伝わるようなデザインにしました。
実際デニムの素材を手にしたとき、こんなにボロボロになるまではき込んだということは、すごくお気に入りだったのかなって想像したんですよね。はいていた人の想いを想像するとそのエネルギーを感じたし、この作品を縫うことが私の未来につながっていると思うと、エネルギーが巡っているように感じたんです。だから、この作品のテーマは「エネルギーの循環」にしました。
-どのようにつくっているのですか?
石原さん:何枚もの生地を重ねて成形しています。私たちはミルフィーユって呼んでいるんですけど、自分たちやたくさんの人の想いが、ミルフィーユのように積み重なっていることを表現したくて。
毛利さん:使わせていただいた素材がデニムの股下の筒の部分だったので、そのピースを同じ長さに切り分けて、切り込みを入れてドーナツ状に添わせています。あと、チュールや綿の素材を入れることで軽さを出しているのもポイント。デザイン画を実際の服に落とし込むまでかなり試行錯誤しました。
-サステナビリティについて普段から取り組んでいることや、今後チャレンジしたいことなどあれば教えてください
澤田さん:服づくりで残ったパーツを捨てずに再利用したり、古くなってしまったティーバッグから飾りをつくったり。これまでもできることから取り組んできましたが、サステナビリティについては、いままさに知識を広げているところです。
私はオリジナルで生地をつくるのが好きで、最近では食べ物から生地をつくることにはまっています。コーヒーやゼラチンから素材をつくってみたり。こういったオリジナル素材は、たとえ服がいらなくなっても溶かして再生することができるんですよね。
石原さん:私はもともと和服が好きで和裁の勉強をしていたので、着なくなった着物を解体して新しく仕立て直すということはやったことがあったんです。着物を羽織にしたり、座布団にしたり。でも洋服では未経験で、すごくやってみたかったことにチャレンジできました。
毛利さん:サステナビリティについて授業で勉強して「なにかしたい!」と思っていながら、これまで実際の作品には落とし込めていなかったんです。今回実際にやってみて、一度役目が終わってしまったものに新しい価値を与えられることって、素直にすごくうれしいことだなって。これからの服づくりはサステナビリティの視点を大事にしていきたいと思いました。今回の作品づくりでダイヤ型に切ったデニムの残布がたくさんあるので、まずはこれを使って何かつくりたいですね。この作品は2カ月かけてつくってきたんですが、その間もうワクワクしっぱなしで(笑)。これからもワクワクするような生きるエネルギーを生み出しつづけていきたいです!
インタビューの後、さらに仕上げの作業をつづけて完成した作品の数々。2023年10月11日(水)〜10月24日(火)の期間中、伊勢丹新宿店のウインドウや店頭にてご覧いただけます。文化服装学院、エスモード・東京校に加え、エスモード・パリ校、多摩美術大学の学生さんの力作も並びますので、どうぞお楽しみに。
ピース de ミライ
~Revalue Fashion Project~
※画像は一部イメージです。
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。商品の情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。
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