【第2回 三越伊勢丹ミライアワード/後編】


ファッションを通じて新しい未来を示唆していくプロジェクト「ピース de ミライ」。次世代を担うファッションスクールの学生とも協業し、ユーズドデニムを使って作品づくりに取り組む「三越伊勢丹ミライアワード」を開催しました。後編では、2025年3月19日(水)に、文化服装学院で開催された、三越伊勢丹ミライアワードの審査とトークショーの様子をお伝えします。
トークショーに先立ち、メディア賞審査員「WWDJAPAN」編集長 村上要氏、リーバイス®賞審査員 リーバイ・ストラウス ジャパン社 マスターテーラー 田真行氏、環境大臣賞審査員 環境省地球環境局 デコ活応援隊(脱炭素ライフスタイル推進室)「ファッションと環境」タスクフォース 金井塚彩乃氏、伊勢丹新宿店賞審査員 近藤詔太本店長、バイヤーが来場。会場内に並べられた21のノミネート作品を、一点一点丁寧に審査しました。
村上要氏
田真行氏
金井塚彩乃氏
コンセプトやデザインのオリジナリティと新しさ、トレンドやマーケットニーズとの整合性のほか、「環境に配慮されているかどうか」「デニム生地の魅力が活かされているものか」など審査員たちは、実際の作品を見て、触れて、制作した学生たちにもコンセプトや制作過程について質問をしながら審査を進めていきます。
近藤詔太 本店長
伊勢丹新宿店 バイヤー
「ミライアワード大賞」の審査員であるステラ マッカートニー氏も会場にて、学生一人一人に作品のテーマや制作過程、制作期間などを質問し審査を行いました。
ステラ マッカートニー氏
審査後は、「ファッションの未来を彩る」をテーマに、<ステラ マッカートニー>ファウンダー&クリエイティブ ディレクター ステラ マッカートニー氏、環境大臣 浅尾慶一郎氏、伊勢丹新宿店本店長 近藤詔太によるトークショーを開催。司会をハリー杉山氏が務めました。
左から ハリー杉山氏、近藤詔太 本店長、浅尾慶一郎氏、ステラ マッカートニー氏
ハリー杉山氏:最初のテーマは「ファッションとサステナビリティについて」。こちらについて浅尾大臣にお伺いしたいと思います。
浅尾大臣:“地球”は誰のためにあるか?今ある地球は、未来の人から我々が借りているものだと思っています。いろいろなモノを買う、消費をすると経済にとってはよいことかもしれませんが、たくさんの人が次々に消費していくと将来使えるものがなくなってしまうかもしれません。地球が未来から借りているものであるのならば、今使っているものを再びいろいろな形に変え、サステナブルな形で戻していくことが大事だと思っています。今日はファッションデザイナーを目指す学生さんたちが多くいらっしゃいます。将来、自分の子どもや孫の世代にこの地球を残していくためには、どういうデザインをすればよいか、ということを考えていただきたいです。それが結果として、カッコいいファッションにつながればと思います。
ハリー杉山氏:今、この会場にはミライアワードのノミネート作品が並んでいます。ひとつひとつにデザイナーを目指す学生さんの魂や生きざまが感じられますが、近藤本店長、主催者として作品をご覧になっていかがですか?
近藤本店長:先ほど、一体一体拝見させていただきました。「ユーズドストックデニム」という使っている素材は同じかもしれませんが、皆さんの想いやクリエーションの力によって、ひとつひとつ表情の違う作品が出来上がり、驚くとともに心を動かされ、感動しています。この作品は4月9日(水)から伊勢丹新宿店のウィンドウに展示する予定になっているので、ご来店いただいたお客さまにも私と同じように心動く、ワクワクするような体験をしていただけたらと思っています。
ハリー杉山氏:続いてのテーマについて浅尾大臣に伺いたいと思います。「ファッションと次世代の育成について」どう感じていらっしゃるのか、今度どう サポートされていくのかお聞かせください。
浅尾大臣:先ほど、近藤本店長が心を動かすファッションを…とお話しされました。作り手は「ワクワクするファッション」を作り、それを買った方もワクワクする、双方に楽しめるというのがファッションの原点だと思います。僕自身は世の中にひとつしかない「オンリーワン」の製品が一番ワクワクすると思っていますが、それでは買う人も作る人も食べていけないので経済が成り立ちません。かといって大量に作ってしまうと無駄になってしまうかもしれないのでバランスをとることが大切になってきます。そんな中で、元々あった材料を使って新しいものを作っていくと、リサイクルにもつながります。今、多くの方がサステナブルに関心を持っているので、いかにサステナブルでありながらオンリーワンのものを作り、作る側の人も楽しみ、使う人も楽しむことが次世代の育成につながるのではないかと思っています。世の中のトレンドも変わり、「持続可能性」を意識する方が増えていますので、ぜひ皆さんのデザインでお客さまの心を掴んでいただけたらと思います。
ハリー杉山氏:サステナビリティ=トレンドとも感じるようになってきていますが、近藤本店長は次世代の育成に関してどう考えていらっしゃいますか?
近藤本店長:伊勢丹新宿店では「高揚感・ワクワク感」を提供したいと思っているので新しいデザイナーのファッションを取り入れることに力を入れています。こういった価値はこれまでと変わらないのですが環境問題を含め現代にはさまざまな課題があります。次世代の方にお願いしたいこととして、社会の課題を解決するための素材選びや使い方、デザインというものを考えていただきたいです。ファッションが与える影響は大きいので、ファッションを通じて、世の中に社会の課題を伝えていくことができると思っています。
ハリー杉山氏:サステナブルと日本のファッションの流れは近年変わってきているのでしょうか?
近藤本店長:変わってきている部分もあるのですが、そもそもの日本のものづくりの伝統、意識はサステナブルな要素が多いと思います。そういった部分に 改めて焦点を当ててみたり、新しい解釈を加えてみたりすることでもっとよい方向に向かうのではないでしょうか? 日本のものづくりのユニークさは、世界にも通用しますし、世界の方々にもよさを理解いただき、暮らしが豊かになるお手伝いができるのではないかと感じています。日本のユニークさをもっと伝えていきたいですね。
ハリー杉山氏:それでは、ここでステラ マッカートニーさんをお迎えして、トピックスをもっと深掘りしていきましょう!ステラさん、まずは皆さんにひとことお願いします。
ステラ マッカートニー氏:日本に来ることを楽しみにしていました。先ほどこちらにある学生さんたちの素晴らしい作品を見せていただき、作った皆さんにもお会いしてお話することができうれしく思っています。
ハリー杉山氏:ステラさんは2001年からいち早くファッションにサステナブルを取り入れ、カッコよく、クールに、セクシーであることを世の中に伝えてきたと思いますが、改めてステラ マッカートニーとしてサステナビリティとはどういうことなのか、どういった取り組みをしているか教えてください。
ステラ マッカートニー氏:私たちは環境のことを話すときに「サステナブル」という言葉を使いますが、もしかすると「サステナブル」がどんな意味か分からずに使っていることも多いのではないでしょうか? 私たちの使命は、この母なる大地、地球に住んでいる一人の人間として地球を守っていくことです。私はブランドを立ち上げた第一日目から地球に敬意を表して、自然とのハーモニーを築きながらこのブランドを続けてきました。今私が身に着けている靴もパンツもジャケットも、また靴を作る際に使う接着剤に至るまですべて動物由来のものは使っていません。たとえラグジュアリーブランドであっても、ファストファッションであっても、動物を犠牲にする材料を使うべきではないのです。材質を作る上では「イノベーション」が重要で、ぶどうやりんご由来の材料を使いながらも、セクシーでスタイリッシュなものを創りあげています。また、オーガニックコットンや海藻由来のケルプ素材のニットアイテムをつくったり、亜鉛を使わないクリスタルを使ったり、そういった材料を使ったサステナブルファッションを提案しています。
ハリー杉山氏:2025年SSのコレクションテーマについて教えてください。
ステラ マッカートニー氏:2025年のSSコレクションは「鳥」からインスピレーションを得ています。先ほど三越伊勢丹ミライアワードのエントリー作品を見せていただいたのですが、皆さん花や鳥、海など自然からインスピレーションを受けて作っていらしたのでそういうテーマが設けられていたのかと思ったのですが違いました。おそらく「自然」をコンセプトにした作品が多かったのは、皆さんが都会の学校に通っていて近くに自然が少ないからなのかなと思います。自分の周りに鳥が少ないということに気づいていらっしゃる方も多いと思います。私がいつも考えているのは、日々の生活において同じ見方をしないで少し見方を変えることです。鳥が空から地球を見下ろしているように、自分も毎日の生活の中でそういった目線で地球を見たらよいと思っています。
今シーズンは「Save What you love」、自分の愛しているものを救いなさいというテーマを掲げています。今シーズンのコレクションには、海に捨てられていたプラスチックごみを再利用したものや廃棄されたコピー機などからリサイクルした金属を使ったものもあります。
ハリー杉山氏:ステラさんのクリエーションが我々日本人に対して与えている刺激、影響を近藤本店長や浅尾大臣はどのように感じていらっしゃいますか?
近藤本店長:「サステナブル」というものが、何かをガマンしなければならないことのように思われていますが、ステラさんのクリエーションは決してそんなことはなく、明るくてポジティブですよね。サステナブルとワクワクすることを両立させている先駆者だと思っています。
浅尾大臣:ニットアイテムは、海に捨てられていたプラスチックボトルから作られているとのこと。今海洋ごみは深刻な問題ですが、そういったものをアップサイクルしてものづくりをする感性をぜひここにいる学生の皆さんにも持ってもらいたいと思います。またそれを見て、着て楽しむ方が増えることで肩肘張らずにサステナブルができるのではないかと思います。
ステラ マッカートニー氏:将来、ファッションデザイナーやファッション産業で働く人たちにはインセンティブがあるべきだと考えています。ファッションにおいて正しいこと、環境に優しい取り組みをしているデザイナーやブランドに対してきちんとインセンティブを与え、そうではない人たちには何らかの罰を与えるような規制や法ができるべきだと思います。
ハリー杉山氏:それではここからは学生さんの質問に答える対話の時間となります。まずは文化服装学院のユホンジュさんお願いします。
ユホンジュ氏:近年生成AI の活躍やテクノロジーの進化が目覚ましく、ポジティブにアパレル産業にも大きな影響を与えています。一方で大量な衣服はネガティブな要素も含み環境を破壊している状況でもあります。私たち学生は作る責任と夢の狭間で日々葛藤しています。皆さまの立場でアパレル産業を見たときに、近い未来はこうなっている、世界はこう変わってきているからもっと自由でいいよなど、私たち学生に夢を与える一言をいただきたいです。
ステラ マッカートニー氏:私たちは、デザインができる喜びを噛み締めながら、今までとは違う見方でいま抱えている問題を解決していかなければなりません。なぜならいまのやり方で私たちがものづくりをしていたら地球を傷めてしまうからです。イノベーションをしながら、ヴィンテージやリサイクル生地を使いながら楽しくものづくりをしていかなければならないのです。税制を整えたり、環境を破壊するファッションには何らかの罰を与えることも必要だと思っています。代替品を使ったり、技術を使ったり、皆さんが将来の希望なんです。
浅尾大臣:先ほど、ステラさんから税政策の話がありました。例えば自動車はいろいろな規制があり、日本でも環境に優しい燃料を使っていると税制上優遇があります。現状ファッションの世界には規制がありませんが、ある種の政策的な誘導をして、リサイクル素材を使っているもの、環境に優しいファッションを魅力的にしていくことも大切だと思います。
近藤本店長:楽しい、カッコいいものを作るうえで個人の想像力を発揮してもらいながら、地球環境を守るための素材を選ぶなど自分らしい選択をしてもらうことも大事だと思います。その選択をすることが皆さんのクリエーションではないかと思います。選択をすることが個性になり、価値につながっていくのではないでしょうか。
鞠子涼香氏:今多くのデザイナーたちは環境負荷の少ない素材や製造方法を積極的に取り入れていますが、若いデザイナーがサステナブルなブランドを立ち上げる際に最も重要だと考えるポイントはなんですか?
ステラ マッカートニー氏:私がブランドを立ち上げた頃に比べると、今は随分やりやすい状況にあるのではないかと思います。当時は、サステナブルなものを作ろうとすると素材は硬く、とてもバッグに使えるようなものはありませんでした。とにかく何かをはじめてみることが重要です。私たちは皆完璧ではありません。完璧になろうとすると何もやらないことが完璧になってしまいます。何か作ってしまうとそれは地球の負担になりますが、何か一番はじめにできることがあるとすれば、地球に生まれた人間として動物由来のものは一切使わないことです。
浅尾大臣:今は色々な新しいリサイクル素材があるのでそれを活用していくことが大事だと思います。今地球上にある衣類で、人類の衣類は十分足りているということを考えると、今ある衣類のデザインを変えることでサステナブルなファッションが作れるのではと。作られたものをどういう形で環境負荷が少なく最終消費者に届けるか考えるのも大事なところではないでしょうか? 皆さんそれぞれに工夫をしていただき、環境負荷が少ないながらもワクワクするようなものを作っていただけたらと思います。
ハリー杉山氏:続いて最後の質問です。エスモード・東京校の安倍由香梨さんお願いします。
安倍由香梨氏:今後のファッション業界を作っていく若者たちが今どんな視野を持つべきだと思いますか?また今の若者たちにどんな可能性を抱いていますか? サステナブルやジェンダーレスなどの社会問題やAI などの最新技術の観点からの回答をお願いします。
ステラ マッカートニー氏:色々なことに興味を持って、そして色々なことを自分で探してみてください。今のファッション業界の製造やサプライチェーンのやり方ではだめなのです。それに代わるものを探してみてください。今のファッション産業は大変競争が激しいので、皆で手を取り合い協力し合うことが難しいかもしれないのですが、それを皆さんでぜひ挑戦してみてください。そして、毎日闘ってください。私は今でも毎日変化を起こすために闘っています。自分がそういうやり方を続けていたらきっと賛同する方がでてくると思いますので、とにかく興味を持ち、闘うことを続けてください。その中でインスピレーションを得ることは本当に美しいことです。ものをつくることができるのは特権です。その特権には責任が伴うことも忘れないでください。
浅尾大臣:まさにものをゼロから作るのは特権です。ゼロから作ったものが環境に影響を与えるとなるとそれは義務を負っていることになります。なので、それをどうしたら環境に負荷がない形にできるかを考えることが大事です。環境省では「デコ活」というできるだけ二酸化炭素を出さない活動を推進しています。例えば服が廃棄され燃やされると二酸化炭素が排出されます。そうならないように、今あるものをうまく活用しながら新しいものを作っていただけるとよいと思います。その中で皆さんの持っている可能性を最大限に活かして欲しいです。
近藤本店長:自分と向き合って、自分らしさを大切にしていくこと。これだけ情報があふれていて、AI などのテクノロジーが進んでいて、さまざまなことが簡単に手に入るようになっています。そんな中でどんな素材を使って、どんな技術を使って、どんな売り方をしていくか、自分らしい選択をしていくことが皆さんの作るブランドの価値になっていくと考えています。伊勢丹新宿店にもたくさんのブランドがありますが、価値のあるブランドはお客さまからも評価されていますし、長く愛され続けていると思います。
ハリー杉山氏:ステラさん、浅尾大臣、近藤本店長の想いは、皆さんに届きましたか?本日はありがとうございました!
最後に記念撮影をおこない、トークショーは幕を閉じました。
三越伊勢丹ミライアワードのエントリー作品は受賞作品を含め、2025年4月9日(水)~4月22日(火)の期間中、伊勢丹新宿店 本館ウィンドウにて展示されます。未来のファッションデザイナーを目指す学生たちの作品をご来店の際にぜひご覧ください。
伊勢丹新宿店 本館ウィンドウ
※画像は一部イメージです。
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