〈アーマリン近大〉限りある資源を持続可能に導く水産養殖

和歌山の地で70年あまり、地道な水産養殖に励む近畿大学の水産研究所。ここで培ってきた技術を広く消費者に届けることを目的に設立されたのが、〈アーマリン近大〉です。天然志向が叫ばれるなか、真の意味で食の安全を追求するその一端を見るべく、白浜にある、近畿大水産養殖種苗センターを訪れました。

“達者な魚”を消費者のもとに

 養殖について深く知らなくとも、「近大マグロ」を耳にした人はいるかもしれません。これは、2002年に近畿大学水産研究所が、世界で初めて人工孵化から成魚の育成まで完全養殖したクロマグロのことです。1948年に誕生した同研究所では、ほかにも18種類におよぶ世界初の人工孵化による種苗(稚魚のこと)生産という成果を挙げています。
 近畿大学が掲げる「実学主義」のもとで、2003年に〈アーマリン近大〉という大学発のベンチャー企業を設立。こうした高い養殖技術を広く消費者に向けて知らしめ、ひいては養殖産業全体の活性化も企図しています。

 生簀養殖を行うために必要な区画漁業権をもつ〈アーマリン近大〉。訪れた白浜の水産養殖種苗センターにおいて、卵の孵化から稚魚までを育成し、日本全国の養殖業者に注文された尾数を適切に出荷しています。ここで育成する魚種のうち、全国シェアが高いものが、マダイとシマアジだそう。
「マダイは、年間約1300万〜1400万尾の出荷で、全国シェアの25〜30%。シマアジは、年間約300万尾の出荷で、全国シェアの75%を占めています」

 こちらの養殖センターで種苗育成を統括するのが、事業副本部長の谷口直樹さん。17年間、養殖業者とのパイプ役である営業職を務めたのちに現職に就任した、種苗育成と養殖業界を知るエキスパートです。
「マダイに関していうと、孵化してから45日まで室内の水槽で育て、約3㎝の大きさに育つと、海上の生簀に出ます。そこから、8〜10㎝程度育て、スタッフが一尾一尾検品の上、出荷していくのです」

 海上の生簀では、たくさんのスタッフがレーンごとに仕分けをしています。ここに導入され、世界的にも注目されているのが、マイクロソフト社と共同で開発しているAIを使用した自動選別システム。
「ベルトコンベアーに供給する量を、スタッフが見やすいように調整することまで実現しています。一度に供給される魚が多すぎるとミスが生まれやすいですし、少ないと捌ける量が減ってしまう。そのバランスをAIが取ってくるのです。コンベアー1レーンにつき、4人の目で検品します。その審美眼は、当社の根幹ですから」
 成長具合、体色の鮮やかさ、形状という点を主に選別された、クオリティの高い稚魚たちが、養殖業者のもとに出荷されていきます。
 そして、もう一点、高品質な種苗の出荷に欠かせないのが、親魚の育成です。選抜育種といって、よりよいDNAをもった親同士の交配によって、よりよい子供を代々につなげていく。ここの生簀では、同時に選抜された親魚候補も育てています。
 「私たちがよく口にするのは、“達者な魚”を育てよう、ということ。つまり、病気をせずに健康に育つ魚のことです。近親交配などにも配慮したロット管理のもとで、卵から稚魚、親魚を育成、良質な水産物を食卓に提供する。これが使命となります」

養殖業界を背負って立つ広告塔として

 「海を耕せ」。このスローガンは、同センターが設立当初から掲げるもの。枯渇が懸念される水産資源をいかに継続的に、安心・安全に供給するかを目指して運営されています。
「アーマリン近大の設立は、利潤の追求というよりもむしろ日本の養殖業界の発展のためと考えています。日本では、魚介の天然志向が高く、養殖魚はどうしても下に見られる傾向が強いですよね。でも、よく考えてみれば、コメのような植物はもちろんですが、和牛やブランド鶏など、高級食材だっていずれも養殖です。海に囲まれていて天然水産資源が豊富なだけに、そこと比較されてしまいますが、養殖という営みは、食の安全と持続可能な水産資源の確保に貢献する、価値ある産業なんです」

 実際に、出荷した稚魚は、いつ、どの親魚から生まれたか、などがロットで管理され、トレーサビリティがあるのが養殖魚。世界では、すでにSDGs(国連が掲げる持続可能な開発目標)の観点からも、水産養殖にも評価が高いといいます。
 〈アーマリン近大〉では、出荷する稚魚を一部、同センターの生簀で成魚まで育成しており、これを直販したり、直営する飲食店、その名も「近畿大学水産研究所」で提供したりと、直接消費者に届ける活動も行っています。
「近年日本では、世界的な人口増加を背景に、世界を見れば右肩上がりで伸びている水産養殖であるが、生産量が減少しています。当社がB to Cの取り組みを進めるなか、「養殖魚の地位向上」させ養殖業界全体の発展に貢献したい思いが強いです。他の養殖業者さんにも、さまざまな可能性を伝えていけたらと」
 実際、取引先である日本全国の養殖業者との関係性も深く、営業を長く担当した谷口さん本人もそうしたなかで、いかに“達者な魚”を納品するかに力を注いでいます。
「近大の稚魚を買ってよかった、と業者さんに言ってもらえると達成感が湧きますね」

 一方で日本の消費者には、養殖=食の安全を担保する持続可能な循環システムという考えが、いまだ十分に浸透していかないなかで、広告塔としての役割を自認しています。
「天然資源の枯渇が危惧されるなかで、そこに頼らない水産資源の循環は時代の要請にもかないます。世界にも、日本の養殖業界のクオリティを発信していけたらと考えています」

近大マダイ 焼味四種食べ比べセット 6,480円 商品を見る

商標化している「近大マダイ」を、〈アーマリン近大〉が運営する養殖魚専門料理店「近畿大学水産研究所 はなれ」の監修のもとで焼き魚のセット。同センターで成魚まで育成した新鮮な個体を、塩焼き・照り焼き・柚子風味・西京焼きの4種類を各3食ずつ、合計12食を個別にパッケージ。レンジで温めるだけで、出来立てに近い完成度に。身がふっくらして、味わい深い「近大マダイ」の魅力を、手軽にご堪能ください。

Photo_Kousuke Matsuki(image),Yuco Nakmura(item)
Food Styling_Midori Moniwa
Text_Masashi Takamura

 

 

 

和歌山ものづくり

 
和歌山ものづくり

 

この記事のお気に入り登録数: 1
シェアする