POWER OF FASHION 〜伊勢丹新宿店のウィンドウの力で前を向く〜

時代と向き合い「I LOVE YOU」を表現した91名の若手作家

新宿の街が活気を失った。そのひとつに伊勢丹新宿店の休業もありました。新宿店の装飾担当の堀口佳祐が、かつて作品にパワーをもらったというアートディレクターの藤田二郎氏に声をかけ始動した、「POWER OF FASHION」をテーマにしたウィンドウ企画。「新宿の街に再び光を」、その始まりから結実まで、ふたりの思いを聞きました。

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シャッターがおりた伊勢丹新宿店、その光景のショックさが取り組みの始まりだった

ウィンドウでメッセージを発信したいと思ったきっかけは?

左:MD計画部新宿店担当(イベント装飾)堀口佳祐
右:アートディレクター 藤田二郎氏

ウィンドウでメッセージを発信したいと思ったきっかけは?

堀口:自分は2019年から装飾担当のチームに所属しているのですが、それ以前は装飾とはまったく関係のない部署でした。それでも伊勢丹新宿店で働くひとりとして、ウィンドウはお店としての姿勢やメッセージを発信するとても大切な場所だという思いは持っていました。ただ、ここ数年は伊勢丹新宿店としての独自のメッセージ性が薄くなっているような気もしていたので、役割を見直す気持ちで今回の「POWER OF FASHION」というテーマでウィンドウ装飾に取り込もうと、チームで決めたんです。

堀口:この取り組みをやろうと思ったきっかけは、やっぱり休業になったことが大きかったです。休業後も残務処理で出社する日があったんですけど、完全にシャッターがおりた伊勢丹新宿店、歩いている人もまばらな新宿の街、その光景の寂しさが個人的にすごくショックでした。

営業停止中の伊勢丹新宿店ウィンドウ

堀口:日中に完全にウィンドウが閉じているのを初めて目にして、やっぱり伊勢丹新宿店のウィンドウというのは新宿の街の華やぎや楽しさにかかせないものだって再認識したんです。それで、営業再開後の装飾会議のときに、自分が感じた寂しさや思いをチームのみんなに話して、今回の取り組みをメインで任せてもらいました。

ウィンドウビジュアルを藤田さんに依頼した理由は?

ウィンドウビジュアルを藤田さんに依頼した理由は?

堀口:6年前に婦人服フロアで「音楽」をテーマにしたプロモーションを担当したことがあって、そのときは直接お会いしていないんですけど、藤田さんの作品をイベントスペースに飾ったんです。ファッションにも負けない華やかさに自分自身も魅了されたので、その2年後に今度はご本人にお声がけをして藤田さんの作品だけを集めたエキシビションを開催したら、お客さまからの反響がすごかったんです。藤田さんの作品は色が鮮やかで力強さもありますけど、優しさも感じられて、ウィンドウ装飾のテーマが、今回の「POWER OF FASHION」に決まったとき、自分としては藤田さん以外の人選はアタマにありませんでした。

藤田:ウィンドウという場所を手がけること自体が初めての経験でしたし、堀口さんからの企画主旨を聞いたときは伊勢丹新宿店の存在感そのものだけでなく、メッセージテーマも壮大すぎて、自分にオファーがあったことがちょっと信じられなかったです。信じられないという一方で、伊勢丹新宿店の周辺はよく通りかかるので、「このウィンドウでなにか世界観を表現できたらいいな」という思いも持っていました。なので夢が叶ったともいえます。

「自分にしかできないこと」で応えようとした、アートディレクターの決意

伊勢丹新宿店からのテーマをどう解釈しましたか

伊勢丹新宿店からのテーマをどう解釈しましたか

藤田:伊勢丹新宿店はやっぱり新宿の街のシンボルでもありますよね。堀口さんからも「シャッターがおりた伊勢丹を見て暗い気持ちになった」と聞いていたので、その闇を照らすような光を感じる作品にしたかった。とにかく「色」にこだわって表現しようと思いました。グラフィック表現を仕事にしている人間は数多いのに、そのなかで自分に声をかけてくれたわけですから、自分だからできること、自分にしかできないことで応えようって気持ちは強かったですね。コロナ禍とアートワークは無関係とは言わないですけれど、あまりそこばかりを意識するのはやめようと思いました。単純にポジティブな気持ちになれる作品にしたかったです。

堀口:そもそもは自分が藤田さんの作品の世界観が好きでオファーしたということもあって、仕上がった作品はこちらのイメージ通りでした。やっぱり藤田さんらしさがあふれていて、依頼して良かったです。「POWER OF FASHION」は、新宿に訪れる人、新宿で働く人、新宿そのものにまで力を与えたいというというテーマだったので、藤田さんの作品からはそれをしっかり感じ取ることができました。

藤田:アートワークのストーリーとして、最初は闇なんですけど、そこに光が差し込んできて、最後には色が溶け合っていきます。色が溶け合う、混ざり合うというのは、今回のウィンドウ装飾のテーマが「POWER OF FASHION」だったので、融合したり、調和したりして、人と人が力をあわせる、力を結集する、そんな思いを込めています。自分にとって「FASHION」というのは心のゆとりや余白のようにも捉えていて、合理的な考え方とは真逆のものです。だからこそ人の気持ちに明るさをもたらしてくれるものだと思っています。

作品ができあがっていく過程はどんな感じだったのでしょうか

作品ができあがっていく過程はどんな感じだったのでしょうか

藤田:ビジュアルイメージとして定着させる前に、まずは自分にとって生命の象徴といえば花なので、最初はひたすらいろんなパターンの花を描き続けました。ただ、花を直接的に表現しようとは考えていなくて、着想を広げていくための作業です。最終的には色に包まれた花、浮かびあがる花のシルエットというのが作品のキービジュアルになりました。大きいサイズの作品はこれまでも経験はありますが、ウィンドウほどの規模は初めてだったので、どんな見え方になるのかというのはつねに意識していましたね。空間を感覚的につかむために伊勢丹新宿店のウィンドウの前には何度も足を運びました。

作品ができあがっていく過程はどんな感じだったのでしょうか

堀口:最初に藤田さんからご提案いただいたのは2方向あって、そのどちらにも花は描かれていませんでした。こちらとしては藤田さんらしい色彩表現だったのでどちらも気に入りましたが、藤田さん自身がメッセージ性をもっと強くしたい、ブラッシュアップをしたいとおっしゃって、再度ご提案いただいたのが今回の作品です。元々オファーをした時点でスケジュールとしてはかなりタイトだったにも関わらず、さらに進化に取り組んでくださってありがたかったです。チームのなかでも意見が割れることはありませんでした。満場一致という感じでしたね。

藤田:堀口さんは自分の作風を知っていましたが、チームのなかには自分のことをまったく知らない方も当然いました。これだけの大役としてみなさんを不安にはさせたくなかったので、意見が一致したときは役割を果たせたとホッとしました(笑)。

より多くの人の記憶にメッセージを残したい。その思いをARにのせて

藤田さんにとって伊勢丹新宿店はどんなイメージですか?

藤田さんにとって伊勢丹新宿店はどんなイメージですか?

藤田:百貨店なんですけど、遊園地みたいなイメージがありますね。ファッションフロアは当然華やかですけど、食料品フロアなんかもすごくワクワクします。そのワクワク感は遊園地に抱く感情に近いというか。だから、伊勢丹新宿店を自分らしく表現した今回のお仕事も、そのワクワク感というものが影響していると思います。個人的な思いになりますけど、伊勢丹新宿店にはやっぱり新宿の中心地で光を放つ存在であってほしいです。

堀口:伊勢丹新宿店らしさという意味では、中央のウィンドウではARを使ってメッセージを発信しています。なぜARかというと、今回のメッセージを視覚だけでなく聴覚にも訴えかけたくて、音楽にのせて届けたかったんです。音楽って自分がそうなんですけど、それを聞いていた情景を記憶に刷り込ませる力があると思うんです。藤田さんが手がけたビジュアル、音楽、メッセージが一体になることで、今回の取り組みをより多くの人の記憶に残せるんじゃないかなって。音楽も以前からお付き合いのあるアーティストの方々がオリジナル曲を作ってくれました。

藤田:ARによって自分の手がけたビジュアルに動きが生まれて、視点を追いかけてくるような感覚がすごく新鮮でした。音楽を監修いただいた方も過去に一緒に仕事をしていたことがあったので、こちらの意図をしっかり組んでくれて、作品にぴったりのBGMが生まれたと思っています。

AR体験風景

堀口:自分にとって今回の「POWER OF FASHION」は藤田さんだけでなく、音楽を監修いただいた方も、ARを手がけてくれた方も、これまでお世話になった方々が惜しみなく力を貸してくださって、その力が集結して実現した企画です。信頼関係の集大成というか、本当に感謝しかありません。

藤田:こんなにもうまくいくのかなっていうのはありました。途中で躓くこともあまりなかったですから、プロジェクトとしては珍しいケースかもしれないです。

チームの情熱はひとつ。ウィンドウを目にした人がなにかを感じてくれたら。

伊勢丹新宿店にとってもウィンドウの新しい役割を示せそうです

伊勢丹新宿店にとってもウィンドウの新しい役割を示せそうです

堀口:百貨店のウィンドウはブランドのシーズンコレクションを披露する場でもありますし、伊勢丹新宿店としてもそれはやらなければいけないことです。ですが、「POWER OF FASHION」ではすべてのウィンドウで約2カ月間も企業メッセージを発信します。「新宿の街に再び元気と明るさを」という自分の個人的な思いからスタートしたことですが、それに関しては会社の理解も早かったです。あのシャッターで閉じられた店舗を目にして、「なにかやれることがあるはずだ」ってきっと誰もが感じていたはずです。装飾担当である自分ができること、それがウィンドウを使った取り組みでした。

伊勢丹新宿店にとってもウィンドウの新しい役割を示せそうです

藤田:伊勢丹新宿店が新宿の街を明るくする、それを通りがかりの人に感じてもらう、そうすることで心にゆとりや余白が生まれて、元気になってもらえたらと思います。

実際にウィンドウに飾られたビジュアルを目の前にして

実際にウィンドウに飾られたビジュアルを目の前にして

藤田:パソコンの画面で見るよりも実物はやはり力があるので圧倒されました。設営にあたってくださったスタッフの方々のプロの仕事ぶりにも感動しました。例えば、照明によって自分が想像もしていなかった色に見えるウィンドウが偶然にも生まれたり、すべてが高い次元に仕上がったと思っています。

堀口:最初に藤田さんの情熱があってこそともいえると思います。僕らは、それに引っ張られた部分も大きいので。伊勢丹新宿店のお客さまも、新宿に遊びに来られた方も、あのウィンドウの前を通りかかったすべての人が、なにかを感じていただけたらと思います。

実際にウィンドウに飾られたビジュアルを目の前にして

藤田:こちらの理想で言わせてもらえれば、最初は間近で見て、その後に少し離れて全体を見渡していただいて、「自分はこの面のウィンドウが好きだな」って思ってもらったり、「あなたはどのウィンドウが好き?」みたいなコミュニケーションが生まれたりするとうれしいです。本当に今回のプロジェクトに携わった全員の情熱によって完成まで辿り着けたと思います。

POWER OF FASHION
□7月29日(水)〜9月22日(火・祝)
□伊勢丹新宿店本館ウィンドウ

「自分を仕立てる」時間
藤田二郎(FJD)
幼少時代から画家である父の影響で絵を描き始め、これまでメジャー、インディーズ問わず300枚近いCDジャケットデザインを手掛ける。CDジャケットのほか、書籍のアートディレクションや、日本科学未来館プラネタリウムコンテンツ「MEGASTAR-Ⅱ cosmos」公式パンフレットのアートディレクション、渋谷ストリームエクセルホテル東急 館内サインのアートディレクション、デザイン、アートワークなどを担当」
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