【対談】気になるあの人に会いに行く。
ファッション・クリエイティブ・ディレクター 軍地彩弓さん |三越伊勢丹オンラインストア【公式】

【対談】気になるあの人に会いに行く。 ファッション・クリエイティブ・ディレクター 軍地彩弓さん

ファッションにとどまらず、東京のカルチャーやムーブメントを世に発信してきた三越伊勢丹のコンセプトショップTOKYO解放区。
長年バイヤーを務めてきた寺澤真理が、様々な業界のおもしろい人たちとおしゃべりをしながら頭の中を紐解いていきます。

軍地彩弓さん

“アラサー”という言葉を生むなど、編集者として時代を牽引しながら、今やドラマのファッションスーパーバイザー、企業のコンサルティング、情報番組のコメンテーターなどマルチに活躍する軍地彩弓さん。

常に時代の一歩先を見据える軍地さんが、新しい生活でのご自身の暮らし方の変化や今後の百貨店のあるべき姿などをどう考えているのか、お話をうかがいました。

コロナ禍で生じた問い。ファッションは不要不急なのか?

寺澤: 私、軍地さんをすごく尊敬しています。
TOKYO解放区を担当していた時も、軍地さんは赤文字やモード系など王道のファッションに携わっていらっしゃった方なのに、小さなインディペンデントな活動にまで注目していただいて嬉しく思っていました。
改めていろいろお話を伺いたいと思っているのですが、三越や伊勢丹とのつながりはいつ頃からですか?

軍地: 編集者の立場で言えば、2000年初頭の頃ですかね。当時、 “情熱バイヤー”と呼ばれる方々がたくさんいて。そうした方々とのつながりが一番大きかったですね。雑誌『GLAMOROUS』の時代には、中北君という当時リ・スタイルの担当バイヤーさんが面白いものがあると夜中でも車で運んでくれたりとか。私にとって百貨店の中でそんなに濃密にお付き合いすることって伊勢丹さんだけだったんですよね。
私もこの地区に住んでいたのもあって、すごく伊勢丹っ子なので。そういう意味でも、もう20何年来の付き合いですね。

対談風景1

寺澤: 軍地さんと、特に伊勢丹とは深いつながりがあったんですね。
今避けられない話題として、コロナ禍というものがあると思うんですけども。
軍地さんは今回のことを通じて、気づきや価値観の変化はありましたか?

軍地:コロナ禍もいろんなフェーズがあったと思うのですが、ちょうど不要不急な外出を控えねばならなかった4月に、私はたまたま引っ越さなくてはいけなくて。3月からは断捨離の1ヶ月だったんです。

20数年間住んでいたマンションの収納を全て開いて断捨離をしました。その時に何をやったかというと、5つの箱を作ったんです。
一箱目は、ボロボロで捨てなきゃいけないもの。二箱目は、フリマアプリなどで売るもの。三箱目は、ブランドのセカンドハンドに売るもの。四箱目は、必要なもの。五箱目は、預けるもの。

この作業がものすごく自分にとって価値変化する時間になりましたね。5つに分けることで自分にとってのエッセンシャルが、だんだん見えてくるんです。
整理したクローゼットに目をやると、自分にとって心を満たすものとコンフォタブルで身体を満たすもの。この2つが必要だということに改めて気がつきました。

断捨離を通じてやはり買いすぎだったなって、必要なものだけを買おうと反省しました。

対談風景2

そうなると、次に必要なものは何か? という問いが生まれるんです。ちょうどその頃に、“不要不急”という言葉が出てきたこともあって、自問自答になって。「ファッションは不要不急か?」と。

いっときは、もうお洋服は買わないくらいの気持ちになったんです。
だけど、5月以降の状況が少し緩やかになってきてお散歩やトレーニングの機会が増えると、ネットショッピングで気分がアガるものを探し始めたんですよね。

引っ越しもしたので、家のものも見るようになって。今まで、衣食住でいうと“衣”がすごくボリュームがあったのが、今度は食と住の方にバランスがいくようになりました。

9月なると、突然やっぱりお買い物行かなきゃ!って気分になって、この間の週末、伊勢丹に久々に行ったんですよ。そしたらものすごくウキウキしちゃって。まず、「伊勢丹に行くのに何を着よう」という気持ちも懐かしくって。

フェーズによって気持ちが変化して、やっぱり今はお買い物がしたいって思うようになった。だけど、去年の自分とは全然違うんです。

断捨離を経て自分にとって何が必要かを問い直したことによって、今買うものはこれからずっと愛するものを買おうって。
私にとってファッションは不要不急ではなく、絶対必要なものだ。私の心を満たしてくれるから。でも、そういうものだけを買う。なんとなくフラフラっと買っちゃうものはできるだけやめる。あと作り手が見えやすいものを買おうと。
 

自分のペースで大切に生きる。ライフスタイルに起きた変化。

寺澤:心の中とか、価値観を改めて整理できたんですね。私たちにとっても、ファッション業界が今まで薄々感づいてはいたけれど、着手していなかったことを改めて考え直すタイミングでもあったような気がします。

春夏秋冬と、ファッションはどんどん移りゆく。それは楽しいことでもあるけれども、こんなにやる必要あるの?って問われていたようなことも、改めて考えました。

対談風景3

軍地 :そうですね。業界全体でいうと本当に厳しいことだと思うんですね。
たくさんの犠牲を払っていますし、病気に罹った方やそれに関わっている方に対しては、心からお悔やみと感謝の気持ちで一杯です。

それを踏まえた上で、あえてプラスの面に目を向けるとするならば、EC開発が劇的に加速したり、組織のあり方や考え方が変化したりなど、デジタルを中心にどうやってライフスタイルを変えていくか。今まで残していた問題を否が応でも変えないと進めないということに気づかせてくれた出来事だと思います。

ファッション業界に長らくいて、こんなに経済が止まるという経験をしたのは初めてだったので、止まることで初めて無駄なものや私たちが本来向かうべき道に気づかせてもらえたかなって。

対談風景4

私自身も本当にライフスタイルがびっくりするくらい変わって。
今まで朝ごはんを取らないこともありましたが、今はきちんと作りますし、卵がどこからきたものなのかとか、自分の身体に入るものを意識的に選択するようになりました。
時間がないから、コンビニでおにぎりを買って、タクシーで食べたりみたいなことも減りましたね。
でもそれは、誰かに強要されたわけじゃなくて、自分のこれから心地よい生活をしようという考え方に変わったからなんですね。


寺澤 :大事に生活したり、大事に何かを選んだり、そういう感覚のほうに近いですよね。

軍地 :時間があるからね。でも一回この価値観を持ったら、自分のペースで生きやすくなったなって思って。今までは、外部から奪われる時間に追われていたんですけれど、実際に顔を合わせなくていい会議は全部Zoomに変え、その分の移動時間を素敵なことに使ったりできるのかなと思って。

対談風景5

温度のあるものが集まる百貨店にしかできないこと。

寺澤 :私もおうち時間の間に、仕事や自分の人生について色々考えたときに、百貨店に対して、無駄なものを売ったり作ったりする活動が全部無駄なことなのではないか?と、ネガティブな思考になってしまったこともあって。

でも、さっき軍地さんがおっしゃっていたみたいに、全部を大事に大切に愛でるように生きるとか、選ぶっていうこと。
それこそ百貨店の中にその楽しみ方があるんじゃないかと。私自身も今回の経験でそうしたことの大切さを改めて感じました。じゃあ、私たちはお客さまに何ができるかという問いへの答えになるヒントもそこにある気がします。

対談風景6

軍地 それにまつわる面白いなと思ったことがあって。
引っ越しで自粛期間中に家具を揃えなくてはならなくなり、伊勢丹をはじめお店が一律閉まっていたので、急遽、量産型のお店で家具を揃えたんですね。

そうしたら、やっぱりちょっと虚しくなったんですよ。量産型のものに囲まれているということに。
そこで、自分のお気に入りだけを集めた棚を作ったんです。それを作った途端に、気持ちがほっとして、地に足がついた。

軍地彩弓さんにInstagramより

お気に入りの棚の一部(軍地さんのインスタグラム@sayumi7 より引用)

それまでは、量産型のものに囲まれていると便利だけど、心が満たされてなかったんです。その時になにを思ったかというと、「伊勢丹早く開かないかな」って(笑)。

例えば良い器。自粛期間中に、塗りのお碗が欲しかったけど、すごく難しかったんですよ。
ネットで買えるけど、やっぱり触って自分の手のひらのしっくり感を知ってから買いたいじゃないですか。そういう時どこにいくかというと、やっぱり伊勢丹、そして百貨店だったんだなと。

百貨店に行かなくてもいいかって気持ちになっていた時もあったけど、断捨離を経て、気持ちがこもったものを買いたい。そういうものを集めている場所って、やっぱり百貨店なんじゃないかと再確認しましたね。

器ひとつとっても、目利きの人たちがいろんな作家の方と対話して集めたものが集まっているんだと思った時に、ああ、百貨店ってこういうためにあるんだって、オンラインだけではできないことだと。
軍地彩弓さんにInstagramより

愛用の小鹿田焼の器
(軍地さんのインスタグラム@sayumi7 より引用)

寺澤 :久しぶりに再開した時に、お客様から「開けてくれてありがとう」っていう言葉をいただいたっていうのを店頭のスタッフから聞いたときに、ありがたいなって。
売る、買うという行為に少し罪悪感を感じたりしたこともあったんですけれど、そういうことじゃなくて、やはり何かお客さまにお届けしたいなと強く思いまいした。
お役に立てることって、まだまだいっぱいあるんじゃないかなと思って。


軍地 :やっぱり今までのネットワークと、それを欲しいっていうお客さまを持っているっていうことは凄いことだなと思います。

この間印象的な光景があって、伊勢丹新宿店で<KEITA MARUYAMA>のポップアップを開催していた時に、私が行った時は週末だったので、人がいっぱいいらっしゃって。

お客さんが皆さんおしゃれして、ウキウキしていて。みんなの買いたい、何か新しいものに出会いたいっていう気持ちがエネルギーになって、1階が明るかったの、本当に。敬太さんと見ていて、「いつもと光が違う」って。キラキラ光の粒が舞っているみたいに感じて、泣きそうになっちゃって。

対談風景7

私も雑誌編集者っていう仕事を自粛中に何だったんだろうって思ったんです。ユーザーの欲しいものを伝えていたけれど、やっぱり買うっていうことを前提に人を煽るような仕事だったので、懐疑的になっちゃったの。

でも、そうだ私はこのキラキラの粒を作ろうと思っていたの! とあの瞬間に思えたんです。

気持ちを高揚させることで何か買いたくなって、帰ってからも、持ち帰ったその場の空気がエネルギーに変化する。老若男女にそれを提供できるのは百貨店じゃないと無理だなって思います。

寺澤 :多分それがファッションっていうことだろうし、洋服はもちろん、衣食住の全部がファッションであるし。リアルとネットとかも言われますけど、そういう垣根とか関係なくワクワクドキドキ楽しくなったりすることが、ファッションなのかなと。

軍地 :そう。できればオンラインでもワクワクして、あ、あれが欲しいこれも欲しいっていう気持ちにさせてくれたらいいんだけど。体験する探検する楽しみみたいなものは、オンラインでもオフラインでも共通でできるといいなと思うし、それができるのってやっぱり伊勢丹なのかなって。

寺澤 :そういうトライアルのサービスとかもやり始めたりしているんです。お子さまがいて外出できないというお客さまに向けて、ランドセルの販売をしたりとか。そうした試みは、きっと今後もっと喜ばれると思います。

 

■お客様からのQ&A
「REAL VOICE」
インスタタグラムでお客様から軍地さんへの質問を集めました!


寺澤 :インスタグラムで集まった質問の中から、いくつか質問させていただければと思います。まずは注目しているブランドはありますか?

軍地 :<PHOTOCOPIEU>が好きですね。私は展示会の時にそのデザイナーさんのことを教えてもらって、一瞬で好きになって。裏でも表でも着られたりとか、スナップ1つでシルエットが変わったりとか。ひとつずつちゃんと身体性がわかって作っていらっしゃるのですごく好きで。今2着持っているんですけれど。

寺澤 :私も好きです。私Tokyo新人デザインナーファッション大賞の審査員をやらせていただいて、ちょうどデザイナーの竹内さんが出ていらっしゃって。それと同時期に、伊勢丹の新宿店にあるリ・スタイルでのお取り扱いもちょうど始まって、すごく素敵だなぁって思って。今日着ているお洋服も<PHOTOCOPIEU>なんです。軍地さんが着ていらっしゃるのは、今シーズンの<TOGA>ですよね!

軍地 :私の体型とキャラにマッチして、なおかつデザイナーさんの顔が見えるっていうところでいうと、<TOGA>、<Mame Kurogouchi>、<COMME des GARCONS>。<Dries Van Noten>もドリスの考え方がすごく大好きなので。あとは<sacai>。阿部さんの思想もすごく好きだし。佐々木敬子さんの<MYLAN>もすごく好きですね。

そういう自分のエッセンシャルブランドに気付かされたっていうことも今回の断捨離のすごく大きいことで、それを大事にして、で、時々は浮気をしようかなと(笑)。


寺澤  :ついつい伊勢丹で買っちゃう偏愛アイテムは? 

軍地 :デパ地下が私にとって天国なんですけれど。いちばんずっと買っているのは<HOLLANDISCHE KAKAO-STUBE/ホレンディッシェ・カカオシュトゥーベ>のチョコレートがけの箱(バウムシュピッツ)が、もう食べだすと止まらないの! 

ホレンディッシュカカオシュトゥーベ<ホレンディッシェ・カカオシュトゥーベ>バウムシュピッツ 1,728円 商品を見る

あと、その隣に紅茶のコーナーがあって、伊勢丹オリジナルブレンドのダージリンブレンドのティーパックがすごく美味しくて、それはよく買っています。
あとは、ふらっと入っちゃう<とらや>の喫茶コーナーであんみつはよく食べるのと……ってありすぎじゃないか(笑)。あとは<仙太郎>さんに並んじゃう!

寺澤 :あぁ~!

軍地 :私は和菓子好きなので、<仙太郎>さんは必ず買うかな。
 仙太郎

<仙太郎>栗どら 324円 商品を見る


寺澤 :お土産によく持っていくのに便利とかそういうのもあったりされますか?

軍地 :<西光亭>のお持たせでリスの柄のクッキーのパックがあって、セリフが書いてあるんですよ。「ありがとう」とか「おもてなし」とか。 あのリスが好きすぎて、西光亭さんのお菓子も大好きで買っていて。お持たせ買う時に必ず伊勢丹さん行くので、この間発見したパッケージが可愛い、無花果の絵とかが書いてある……。

西光亭 <西光亭>くるみのクッキー 1,298円 商品を見る


寺澤 :<POMOLOGY/ポモロジー> 最近人気なんですよ。

軍地 :そうそう! 可愛い。パッケージが可愛いものをあげると、娘さんとかが絶対にその箱で喜んでくれるから。
私お中元は伊勢丹なんですね(笑)。その時も毎回パッケージが違う物をって。姪っ子に「お姉ちゃん、この間の箱可愛かった!」って言われるので、伊勢丹で贈っていますね。

寺澤 :<POMOLOGY/ポモロジー>は最近本当に人気で、まさに箱が。味も美味しいです! ご愛顧くださりありがとうございます。
ポモロジー

<ポモロジー>クッキーボックス フィグ 1,728円 商品を見る


寺澤 :続いての質問です。「なぜスタイルがある人をかっこいいと感じるのか」という質問なのですが、どう思われますか?

軍地 :私自身も自分にスタイルがないって思っていて。私の周りにはスタイルのある人がいっぱいいるんですよね。例えば、丸山敬太さんはご自宅もものすごく可愛くて、ソファから花瓶からヴィンテージの家具まで。

スタイルを持ってらっしゃる人の何がすごいかって、好きと嫌いがはっきりしてらっしゃるんですよね。そこに憧れるんですよね、きっと。
私はあれやらこれやら全部迷っちゃうんですよ。自分にとって必要か、そうじゃないかをちゃんとジャッジできるっていうことは、食べ物から何から生き方全てにおいて芯が通っている。

例えば、白洲正子さんも生き方全てに芯が通っていらして、良いもの悪いもの、正しいもの正しくないもの、美しいか美しくないか。野に咲く花を本当にそこにある竹に活けて美しいものを作れる人は作れる。千利休もそうですけど。

ずっとそういう人に憧れて、でも自分はそこになりきれないから、そういう素敵な人たちを取材して、雑誌や言葉で紹介することを生業として生きてきたのだろうと思っています。

例えば丸山敬太さんの丸ごとは真似できないけれど、敬太さんの好きなお菓子を一個買ってきたりとか、敬太さんのところにあるラグマットを買ってきたり。

私は自分がそうなりきれないから、吸収して少しでも身の回りを好きなもので囲むことで自分の心を満たせるように、循環できれば良いなとは思っていますね。


寺澤 :ありがとうございます。貴重なお話、本当に勉強になります。素敵なお話をありがとうございました!

 

軍地彩弓:編集者/ファッション・クリエイティブ・ディレクター
講談社『ViVi』編集部でフリーライターとして活動。その後、『GLAMOROUS』の立ち上げに尽力する。 2008年に現コンデナスト・ジャパンに入社。クリエイティブ・ディレクターとして、『VOGUE GIRL』の創刊と運営に携わる。 2014年に株式会社gumi-gumiを設立。『Numéro TOKYO』のエディトリアルアドバイザー、ドラマ「ファーストクラス」(フジテレビ系)や映画のファッション監修、Netflixドラマ「Followers」のファッションスーパーバイザー、企業のコンサルティング等幅広く活動。

 

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