【対談】気になるあの人に会いに行く。
河瀬大作さん/NHK エンタープライズ |三越伊勢丹オンラインストア【公式】

【対談】気になるあの人に会いに行く。 河瀬大作さん

ファッションにとどまらず、東京のカルチャーやムーブメントを世に発信してきた三越伊勢丹のコンセプトショップ【TOKYO解放区】。長年バイヤーを務めてきた寺澤真理が、様々な業界のおもしろい人たちとおしゃべりをしながら頭の中を紐解いていきます。

河瀬大作さん

『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』や『おやすみ日本 眠いいね!』などの番組を手がけている河瀬大作さん。寺澤自身も「この人と一緒なら大丈夫」と信頼している河瀬さんのもとにはその人望を慕っていろんな人が集まってきます。プロデューサーのお仕事についてやご自宅が全焼したという火事によって学んだこと、河瀬さんが仕事において、人との関係性において、大切にしていることなど、生きるヒントを語ってくれました。

おもしろいという実感があれば大変でも人は動く


寺澤:  河瀬さんとの出会いのきっかけは、2019年1月に当時、伊勢丹新宿店本館2階にあったTOKYO解放区で「眠る」のイベントを開催したときでした。私はバイヤーだったんですけれど、眠りをテーマにするなら河瀬さんがプロデューサーをされているNHKの深夜番組の「おやすみ日本 眠いいね!」を伊勢丹新宿店から放送したいって思ったんです。河瀬さんにお話しするために会いに行ったのも突撃って感じでした。

河瀬:  「伊勢丹の寺澤です!お会いしたいんですけど!」って、寺澤さんはものすごい勢いでしたね。

寺澤:  私、そんなに勢いありましたか(笑)

河瀬:  ものすごく前のめりでした(笑)。ただ、深夜のデパートってみんなあまり見たことないはずなので、伊勢丹から放送するのはおもしろいかもって思いました。「おやすみ日本 眠いいね!」は生放送でしたから、いろいろ大変だったんじゃないですか?

対談風景1

寺澤: はい、もちろん会社を説得するのも大変でしたし、企画としてはまだふわっとしていた時期でもありましたが、河瀬さんとなら乗り越えられるって思いました。河瀬さんはそのノウハウをもっているはずだって、お話しした瞬間にそう感じました。

対談風景1

河瀬:  お客さんがいる時間はセッティングができないし、お客さんが来る前には撤収しないといけないし、放送する条件としては控えめにいっても「最悪」でした(笑)。技術や演出のスタッフも大変だったと思いますけど、みんなおもしろいことをやっているという実感があったので動いてくれましたよね。

寺澤:  私は2018年12月の「おやすみ日本 眠いいね!」の放送日にスタジオに見学に伺わせていただきました。生放送という一瞬のためにすごく多くのスタッフさんが携わっていることに驚きましたし、とにかく現場の雰囲気がアットホームでした。そのアットホームさについて「プロデューサーが河瀬さんだからでしょうね」って、スタッフの方はおっしゃっていました。プロデューサーの方によってそんなに変わるんだって思いました。
 

みんなが集まりたくなる「この指止まれ」がプロデューサーの仕事

河瀬: テレビのプロデューサーとディレクターの違いってわかりにくいと思うんですけど、『おやすみ日本 眠いいね!』に関していえば僕はこの番組ってこういう番組だよねって全体を考える役割です。例えば伊勢丹の放送回のときにディテクターが「こんな放送をしたい」っていっても、それが『おやすみ日本 眠いいね!』という番組らしくなかったら「それは違うんじゃないの」って言う人です。ときにはスタッフに無理をしてもらうこともあって、とにかくきつい山だけれど登りきった先にはすごくおもしろいことがあるから「とにかく登ろうよ」って雰囲気を作るのもプロデューサーだと思っています。この番組自体が決めごともないですし、進行もゆるいし、放送終了時間も決まっていませんからね※。放送時間の終わりが決まっていないのってスポーツ中継ぐらいですから(笑)

※視聴者のみなさんが押す「眠いいね!ボタン」が目標値に達するまで、番組が終わらないというシステム。

対談風景1

寺澤: 確かにそうかもしれないですね。

河瀬: あえてゆるくしているんですけど、そのゆるさのためには努力が必要なんですよ。『おやすみ日本 眠いいね!』は生放送で構成もあっちこっちに飛んじゃうんでいつなにが起きてもいいように準備をしておかなきゃいけないんです。それは結構な手間で、ゆるく見せようとすればするほど裏ではいろんな人が動いているんです。

寺澤: 私はスタッフさんの動きをずっと観察していたんですけど、無駄なことをしている方はひとりもいらっしゃらなくて。その現場を見てチームだなって思いましたけど、河瀬さんはチームワークをどのように心がけていますか?

対談風景1

河瀬: 僕は番組作り以外もいろんなプロジェクトに関わっているので一緒に仕事をするメンバーは固定されていないんです。プロジェクトごとにアサインしたり、されたりテンポラリーなチームがぱっとできあがる。みんな他に仕事を抱えていながらプロジェクトに参加していて、やりたい人間が集まっているのでモチベーションがそもそも高いと思います。

寺澤: 配属みたいな感じではないんですね。
 

対談風景2

河瀬: そういうのもありますけど、僕のやり方はプロジェクト制です。だから「この指止まれ」で、どれぐらいおもしろい指を立てられるかが僕の仕事です。プロデューサーにもいろんなタイプの人がいますけど、「こんなおもしろそうな仕事があるから一緒にやらない」って指を立てるのがいちばん大きい仕事だと思っています。

寺澤: それはプロジェクト自体がおもしろそうだから指に止まろうって思うかもしれませんが、この人と一緒ならおもしろいことができそうってのもありますよね。

河瀬: それはもちろんあります。僕は条件は関係なく、頼まれたら絶対に仕事を断らないという相手が何人かいます。その相手は僕が困ったときには助けてくれる人たちで、だから僕も恩返しをしたいという想いはあります。

火事になったことで学んだ「FUKKO DESIGN」でやるべきこと

対談風景2

寺澤: 河瀬さんから「FUKKO DESIGN※というのをやるのでお手伝いしてもらえませんか」って声をかけていただいたとき、私は活動の実態はよくわからなかったですけど「河瀬さんとなら大丈夫だ」って思い参加させていただきました。河瀬さんはFUKKO DESIGNを立ち上げた直後にご自宅が火事になられたじゃないですか。その時のFUKKO DESIGNのメンバーはすぐに支援に動きましたよね。それは河瀬さんの人望だと思いました。火事の翌日、SNSに河瀬さんご家族を支援する「かわせ大作戦」というグループがメンバーによって立ち上げられたのも感動しました。自分が楽しい、うれしい、わくわくすることが結果的に多くの人たちを喜ばせることもあるのに、仕事が絡むとどうしても計算みたいなものが働いていた当時の自分にとって、あのメンバーの行動を見た時にいろいろ考えさせられました。

※日本全国で多発する地震、台風、豪雨といったあらゆる災害に対し、組織をこえて集まったメンバーがさまざまな経験やスキルを生かして今までにない支援を行う団体が「FUKKO DESIGN」。河瀬さんは発起人の一人。

対談風景2

 

河瀬: 僕は火事になってFUKKO DESIGNをやっていくうえで大切なことを学んだんです。火事の当日はFUKKO DESIGNの仲間と台風の被害が大きかった千葉に向かっていて家を離れていたんですけど、同じように外出していた妻から「家が燃えているらしい」と連絡があったんです。火事といってもボヤ程度にしか考えていなかったんですけど、自宅にいる息子と娘に連絡したら長男が泣きながら「家が燃えてる!」って言うから急いで帰ったら躯体だけが残っていて、あとは全部燃えていました。その時に一緒にいたメンバーのひとりから「河瀬さんは助けてもらうことが苦手かもしれませんが、今回は大変なことなので躊躇せず全力で助けてもらってください」って言われたんです。「助けて」って言うことも大事ですけど、「助けてください」って言いやすいようにすることがFUKKO DESIGNとしてやるべきことのひとつかもしれないって思いました。

寺澤: 確かにそうかもしれないですね。

河瀬: 糸井重里さんからは「FUKKO DESIGNがやることはメニューを作ることかもしれないね」って言われたんです。復興に対してなにかをしたい気持ちはみんな持っているけど、なにをすればいいのかわからない。例えば「被災地でおばあちゃんの話し相手になる」というメニューがあれば被災地に行く人はいるはずだって。実際に自分が火事になったときに助けてくれた人たちは具体的なメニューを言えばすごく動いてくれました。自分が経験したことは、FUKKO DESIGNをどうしていくかということにすごく繋がっていると思います。

対談風景2

寺澤: 河瀬さんはSNSに今必要なものとしてウィッシュリストをアップされていましたよね。それを見て私にもできることがあるって思いました。

河瀬: やっぱり正直であることはすごく大切なんですよね。本当に困っていても「助けてください」って言うのは勇気がいるんですけど、素直に気持ちを伝えることによって人の気持ちは動くんです。それは普段の仕事でも同じでうまくやってやろうとか、かっこつけてやろうとするとそれは見透かされて、やっぱり人の気持ちは離れていきます。SNSでいろいろ可視化されている時代だからこそ、正直であることの大切さが問われているような気がします。

寺澤: 見透かされるってのはわかります。だからこそ私たちだったらお客さまに、河瀬さんだったら視聴者にきちんと想いをもって接したいと思いますし、そうしていれば気持ちは伝わりますしわかってもらえるはずですよね。

河瀬: 気持ちって見えますからね。

対談風景3

寺澤: コロナ禍で価値観が変わったというのは当然私にもあって、大事な人やモノのために丁寧に時間を使いたいと思うようになりました。発信したことが100%受け入れてもらえるわけではないですけど、受け取ってほしいという相手にさえ伝われば、そのことに時間や想いを大切に注ぎたいなと。

河瀬: 寺澤さんにとってメニューは人なのかもしれないですね。自分のなかに潜在的にあるものを実現してくれる、カタチにしてくれる人たちがいるんでしょうね。僕は具体的にやりたいことは無くて、ドキュメンタリーを担当していたディレクター時代に「お前がやりたいことはなんだ」ってよく問われたんですけどそれにずっと違和感があったんです。アプローチはなんでもよくて、大きい意味でスティーブ・ジョブズが言っていた「より良い社会を残したい」ってことなんです。僕が一緒に仕事をしたいと思う人たちはみんな同じことを考えていて、だから僕が貢献できることがあるなら僕というリソースをいつでも解放しますって言っています。

寺澤: これまでたくさんの番組を作ってこられていますけど、ずっとそういう感じなんですか?

河瀬: そうですね。「より良い社会を!」とは言わないですけどね(笑)。でも「誰かのため」っていうのがないと人って動けないと思いますよ。僕は脳科学者の茂木健一郎さんと『プロフェッショナル 仕事の流儀』という番組を一緒に立ち上げていろいろと教えてもらったんですけど、小児心臓外科医の方を取材させていただいたときに茂木さんが人にとっての最高の成功報酬について話しをしてくれたんです。それは「笑顔」なんですよ。子どもの手術が終わって先生が「大丈夫」って言えば家族はみんなすごく喜ぶわけで、外科医の先生はその笑顔のために手術をしているんだって。僕らの仕事も笑顔に繋がることがひとつのモチベーションですからね。

人には誰にでも「善意のボタン」というものが必ず付いている

寺澤: 私は今日いろいろお話しをさせてもらって、やっぱり河瀬さんとお仕事するのは楽しいなって思いました。

河瀬: そうですか?ありがとうございます。

寺澤: その先にまだ自分の知らない出会いがあったり、得ることがあったり、そんなことを楽しいと思って仕事をしているんだろうなって感じました。
 

対談風景4

河瀬: 番組作りでもFUKKO DESIGNでやろうとしていることもそうですけど、前提として「いいこと」っていうのは逆に人の気持ちを惹きにくいパラドックスがあるんです。だからなにかを伝えるのにどうすれば楽しく正しく学べるのかを考えることはすごく大事なんです。被災地の復興っていうのは時間もかかるし、エネルギーも必要なのでできる人はそんなに多くないんです。でも僕は人には必ず「善意のボタン」というのが付いているって信じていて、ただそれは押しにくい場所に付いてるはずなのでそれを押しやすくするためのメニューを作ろうと思っています。

寺澤: 私は河瀬さんが息子さんと火事になった後に伊勢丹新宿店にお買物にいらしたとき、妹さんたちのために頑張ってくれたお兄ちゃんとの大切なひとときなんだろうって思ったら、自分が日頃から口にしている「お客さまのために」を本当にできているかって心底考えました。

河瀬: 火事で燃えてなにもないのに息子は長男だからいろいろ思うこともあったのかモノを一切欲しがらなかったんです。その頃「眠いいね!」のスタッフが「自分の妻は子どもの頃に火事になって、本当はぬいぐるみが欲しかったけど大変そうな親を見ていると言えなかったそうです。だから、うちの妻が河瀬さんの娘さんたちにぬいぐるみを買ってあげたいって言っています」ってメッセージをくれたんです。僕自身も火事になって物欲が抑圧された時期があって、息子もそれに巻き込まれていた感じでした。火事になった直後、ある人から「家に閉じこもらないでたくさん外食してください」って言われたこともあったので逆に散財してやろうって、「いちばん欲しいモノを買っていいよ」って値段も見ずに買い物をしました。

寺澤: それで息子さんの雰囲気は変わりましたか?

河瀬: 急に変わったということはないですけど、ひとつの大きなステップにはなった気はします。

寺澤: 河瀬さんは周囲の人に恵まれいる方なんですね。「堂々としていてください」とか「大きい声で助けてって言ってください」とか言ってくださる方は少ないと思います。

河瀬: やっぱり正直に自分が思っていることを口にするって大事なんですよね。僕がすごいんじゃなくて、人がすごいんです。「人間は進化する過程で人を助けるというDNAを失わずに持ち続けている。それは人類にとってすごく幸福なことかもしれない」って僕に言ってくれた人がいます。僕は火事になって想像を絶するほどいろんなモノを失いましたけど、目に見えない大切なモノをいっぱいもらったと思っています。

寺澤: 今日はあらためていろいろなお話しをきかせていただいて良かったです。ありがとうございました。


 

 

 

河瀬大作:株式会社 NHKエンタープライズ 番組開発部長 エグゼクティブプロデューサー   1993年NHK入局。「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「プロフェッショナル 仕事の流儀」、「おやすみ日本 眠いいね!」など、幅広いジャンルの番組を手掛ける。日本テレビと共同制作した特別番組「NHK×日テレ 60番勝負」で2013年ソーシャルテレビアワード大賞など受賞多数。

 

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