
お気に入りの古道具や古家具を取り入れたヴィンテージのある暮らし、その魅力とは。
独自の視点でセレクトした世界各国のヴィンテージアイテムを取り扱う、東京・新木場の「カシカ(CASICA)」にてトータルディレクションを手掛ける鈴木善雄さんに、伊勢丹新宿店のバイヤー上杉智恵がお聞きしました。

店舗のプロデュースや内装設計を行う(株)CIRCUSを引田舞と主宰。東京・新木場の複合施設「CASICA」では古物の買い付けからイベントの企画、ブランディングまでトータルにディレクションを行っている。
写真右:伊勢丹新宿店バイヤー 上杉智恵
感性で選んで、好きに使う
上杉:さっそく本題ですが、古道具や古家具をいまの暮らしに取り入れるコツのようなものはありますか?
鈴木:コツというわけではないですが、自分が好きなものだけを集めていけばそれなりにまとまると思います。流行っているから、みんな持っているからという理由でなく、ほんとうに自分がいいなと感じたものなら10年先も愛せるのではないでしょうか。
上杉:そうですよね。流行りやみんなと同じものではなく、自分の感性に従ってものを集めて暮らしの中に取り入れたいです。
鈴木:あとは日本のものだけでコーディネートするのでなく、たとえばキリムやペルシャ絨毯とあわせたり、古いものと新しいものをミックスしたり、そういう感覚がいまの東京らしさかなと。

上杉:「ミックスする」というのは、伊勢丹が提案しているスタイルにも通じます。
鈴木:ぼくたちが古いものを扱うのは「もったいない」という感覚だけでなく、それそのものが本当に美しいと感じているからです。たとえば蚕の糸を巻いていた糸巻き器を現代の生活で使うことはあまりないでしょうが、ものとしてただ美しいと思うし、なにか違う用途で使ってもいいですよね。
上杉:古いものを美しいと感じて、現代のライフスタイルにミックスして使えたら楽しいです。
鈴木:お茶の世界では「見立て」といって、たとえば切った竹に花を生けて花器に見立てたりするわけです。古物は見立ての世界なので、好きに使えばいいと思います。
それに日本の古家具は畳の時代に作られており、いまのものとは寸法が違うんです。だから古いものをそのままとりいれるのではなく、現代にあった新しい使い方を見つけてほしいですね。

経年変化という愉しみ
上杉:古道具、古家具にはじめて興味を持った方には、どのようなアイテムがおすすめですか?
鈴木:小さいものが取り入れやすいとは思います。たとえばこういう建築廃材を使ったフレームとか。

鈴木:とはいえ、やはり予備知識や先入観を持たずにものを見て、自分の価値基準で選んでいただくのが一番だと思っています。
普段は「ブランド」というものに頼ってお買い物される方も多いですよね。ブランドという客観的な評価に寄りかかることで安心感を得ている部分もあるはずです。ぼくたちはその価値観も変えていきたい。100円のものでもあなたが良いと思えば10,000円のものよりも価値がある。それを楽しんでほしいんです。
上杉:カシカは植物も豊富ですね。
鈴木:カシカの植物は、専門の園芸業者さまにセレクトしていただいています。家の中に少しグリーンがあるだけで気持ちいいですし、ヴィンテージとの相性も良いですよね。古道具、古家具のショップってドライフラワーだけになりがちなんですが、古いものの中にいきいきとしたものがあるだけで空間もいきいきとしてくるんです。

上杉:たしかにグリーンでずいぶん印象が変わりますよね。あと古い家具はメンテナンスも気になります。
鈴木:カシカでは仕入れた商品はまずしっかり洗浄します。ただ、どこまできれいにするかも難しいところです。きれいにしすぎると味もなくなっちゃうので、ほどよいところでとどめることも大切にしています。
上杉:古いもの魅力とはなんでしょうか?
鈴木:難しいですね……昔から好きだったので。中高生のころジーンズを買って自分でユーズド加工を施したりするんですけど、その頃はピシッとしているのが恥ずかしい、こなれてないのが嫌だというのがあったかもしれません。家具も真新しいものを部屋に入れると妙に浮いて違和感があるんですよね。
あとは「経年変化」が好きで、美しく朽ちていく、変わっていくものでないと魅力を感じなくて。だからぼくは古いものしか興味がないわけじゃなく、カシカでは新しいものも扱っていて、それは「未来の古道具」だと思っています。現代の作家の作品が古道具となる50年、100年先へと、その灯火をつないでいかなければと思っています。

100人中1人だけが欲しいものを
上杉:カシカはなぜ新木場に? 不思議な場所だなと感じました。
鈴木:きっと東京でも有数の不思議な場所ですよね。新木場は1969年に木場公園を作る際、そこの材木商の方たちに移転をしてもらってできた街だそうです。だから基本的には材木屋さんしかなくて、住んでいる人もいません。埋め立て地なので歴史がないし、神社がないし、祭りもない。そういうところも逆におもしろいですよね。
あと東京の中心でカシカのようなお店をやると、売りたいものを売るよりも、売れるものを売るしかなくなることも理由です。そして古家具、古道具は木がメインなので、やはりこの街が最適だったと思います。

上杉:カシカの商品はどのような基準で集められているのですか?
鈴木:これもやはりまずは自分が好きかどうか。そして作家のプロダクトの場合は実際に使ってみること。人気のある作家さんだからといって、焦って飛びついたりすることはありません。
古物に関しては売れるから仕入れているわけじゃなくて、むしろだれが買っていくんだろうとワクワクしながら仕入れています。100人中1人が反応するようなものをセレクトしていることがカシカの個性になっているし、この場所の楽しさになっています。

上杉:カシカの中にいると、日本のような、どこか別の国にいるような不思議な感覚になります。伊勢丹のポップアップはお洋服がメインのフロアになるのですが、この感じを再現したいですね。
鈴木:そうですね。いまファッションに興味がある人は、ライフスタイル全般に対してこだわりを持っているように感じるので、興味を持っていただけるのではと思います。
商品一覧を見るCASICA in ISETAN
□10月14日(水)〜20日(火)
□伊勢丹新宿店本館2階=センターパーク/ザ・ステージ#2
【連動イベントのご紹介】
NO MI NO 伊勢丹新宿・蚤の市 第二回
□2020年10月18日(日)~21日(水)
□伊勢丹新宿店本館6階=催物場