美術

工芸作家紹介 練上 松井康陽氏 インタビュー

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2021/02/05

陶芸作家である松井康陽(まついこうよう)氏に、プロフィールや取り組んでいる練上技法についてインタビューしました。

 

松井 康陽(まついこうよう)

1962年 茨城県笠間市に生まれる

1985年 筑波大学芸術専門学群彫刻科卒業
月崇寺(げっそうじ)陶房に入る

1994年 日本工芸会正会員に認定

 

――作品の制作方法について、簡単に説明をお願いします。

練上は素焼きと本焼き、2回焼きます。まず外側は鉋をかけて、きれいに削り出してから素焼きをします。その後、やすりをかけてきれいにして、釉薬をかけて、本焼きします。

練上の基本は、色土を薄くスライスして重ねることから始まります。20~30㎝角の色土を作ってから、薄い板を用意する。僕が使っているのは大体2㎜から15㎜。それをまた組み合わせてもっと厚いものとか。要求によってはその間に更に薄い板を組み合わせて0.5㎜増やすとかしながら。色土をステンレスの針金で板の厚さに合わせてすーっとスライスしたものを静かに持って台に置く。またスライスした土を重ねていく。それで模様の半分の土の層を作る。

できた層を重ねて、真ん中合わせにする。この作品は、白いところ同士を重ね合わせたものです。

A

壷の形にするには型の上で貼りつけて成形する。中型は外側ができあがってある程度硬くなったら壊して取ってしまいます。

グラデーションの幅がすべて違うのは、色土を切る時に板の厚さを変えているから。まず白い部分は2㎜で始めて、次の層は5㎜、6㎜、7㎜…と重ねていく。この基本の技法を変形させると他のシリーズのような作品になります。

このシリーズのモチーフは、タマムシの翅です。家の周りにタマムシがたくさんいるんですが、タマムシの翅は見ていると色が変わる。色ではなく、光の屈折なので角度によって見え方が変わるんですね。玉虫の厨子をやきものでもやってみようということになった。それをきっかけに色のバリエーションを変えて制作しています。

――自然からインスピレーションを受けているのですね。

そうですね、ただ練上の場合、自然をそのまま表現しようとするとそんなにうまくはいかない。もし自然をそのまま表現するのであれば絵画の方が絶対得意ですよ。練上の場合、対象を模様化しないと使えません。最初の頃、紅葉とか楓とかをモチーフにしていて、いかに本物に近づけるかということを追及してその作品で賞を取ったこともあるのですが、あまりにも工数がかかりすぎて…このまま続けるべきか考えて、もう少しデザインというか模様化して表現しようと変えたんです。葉っぱのようなもの、タマムシのようなものであって、それそのものではない。そこから色や形を借りてきている、ということです。

これは葉っぱをイメージしたシリーズです。

このグラデーションも一層一層の顔料の量を調整して作っています。さらに、層の間に朱色のような黄色の顔料を入れた土を間道として間に挟んで、模様を作っている。

色粘土を作るのに、基本10色くらい使っているのですが、3日かかります。顔料をただそのまま入れたのでは玉になることがあるので最初乳鉢で擂って、泥状にしてから粘土に混ぜます。機械で最初練り込んだ後、手練りで空気を抜く。

 

――手練りにはどれくらいの手間がかかりますか?

一色につき大体7.5㎏の粘土を練り込むのですが、200回練った後、ひっくり返してまた200回練ります。

 

――もし空気が入ったまま粘土を使ったらどうなるのでしょうか?

乾燥段階でそこから裂けて割れてしまいます。

 

――壺の底はいつ成形するのでしょうか?

中型を外したらつけます。

底を取り付けたときに、きれいなカーブになるように作ります。

 

――底にカーブをつける理由は?

カーブをつけないと縮み方が違うので、どこかが割れてしまうんです。カーブをつけるとカーブに縮みが逃げてくれる。

同じ理由で壺の球体が一番作りやすいですね、ひずみが分散して均一になるから。平面の作品を作るのが一番大変。

 

――壺の口の部分はどのように成形しているのでしょうか?

中型はまず口が閉じているものを作っています。それに粘土を貼りつけた後、粘土に穴を開けて手で粘土をひたすら寄せて立ち上げて口の部分を成形していきます。

 

――穴を開けた時に出る粘土の余りはどうなさるのですか?

無駄にしていないです。それはあとでぐい吞みにしてしまう。そういったものや切れ端がぐい吞みになっています。そうしたら「ぐい吞みの方が面白い」と言われてしまいました。笑

それは父から言われてきたんです、「切れ端は大事にとっておけ」と。「作品そのものには精々お前の考えたことしかできない。だけど、この切れ端を合わせたらお前の考えたこと以上のものができるだろう」と。父も切れ端をぐい吞みなどにしていました。それを見ていたので、無駄にしなければ活きてくるかなと思って。

 

――先生の作品に使われている「椋灰(むくばい)」とはどのような釉薬でしょうか?

「透明釉」は、大体「石灰釉」か「長石釉」というものがあって、長石釉は自分で作って、石灰釉は市販のものを使ってブレンドしているのですが、それだけだときれいすぎてしまう。少しマット感を出すために椋灰を入れています。ゆず肌っぽくなるような。石灰釉だと、ペターっとした照りになる。長石釉は入れすぎると濁る。そのバランスを取っているのですが、それでもてらてらしすぎてしまう。家は椋の木が生えているのでその葉っぱを焼いて、灰にしたものを混ぜると少しマット感が出てくる。

――たしかに、マット感はあるけれどもツヤっとしていますね。

ケイ酸分の強い葉を使うとマットになるんです。椋の葉をよく使うやきものは詳しくはないけど、木葉天目茶碗。見ていると葉脈の形がたぶん椋の葉だろうなと思う。

 

――それは父、康成氏(注:国の重要無形文化財「練上手」保持者)が使い始めたのでしょうか?

そう。「掃いて集めとけ」って。

 

――お家に椋の木があっていいですね。

いや、結構大変なんですよ。鉄分が入ってはいけないので、集めたものを1回洗うんです。洗って乾かしてから焼くので大変な手間です。椋の葉が、欅などと決定的に違うのは白い灰にならないこと。燃え切らないんです。黒い炭状で終わってしまうんですよ。

 

――燃えにくいということですね。

そう、その分無機質が多い。ケイ酸分が多い。だから釉薬に入れると燃え切らなくてマット感が出るのではないかと思います。

あとは、釉薬のかけ方です。極々薄くかけるとつや消しになってきます。ただし、釉薬を全くかけないと色が鮮やかに出ないのです。

釉薬は焼いている時、溶けながら土の中に食い込むんです。そうすることで顔料の色を引き立てる効果がある。あとは、釉薬をつけると汚れが付かない。最近になって自分の作った湯吞を使い始めた。そしたら茶渋が付かないのでこれいいねと。鮮やかな色の湯吞だとお茶がきれいに見えないかと思っていたんだけど、意外と良かった。お客さまも割と鮮やかな色のぐい吞みもお好きで。やっぱりパワーを感じるんですかね。

 

――ご家業としては「月崇寺(げっそうじ)」のご住職でいらっしゃるそうですが、ご住職のお仕事も陶芸のお仕事も継ぐことが決まっていたのでしょうか?

子供が僕しかいなかったので、子供のころからもうお寺とやきものを継ぐってことは、言われていたわけじゃなくて、そういうものだと思っていました。

月崇寺の歴史は400年程あります。

松平家の菩提寺で、松平康重という人が造ったお寺です。

 

――父、康成氏の時代からやきものを始められたのでしょうか?

そうです。お寺って昔は、父が来た頃は、そんなに豊かではなかったんですね。副業として何かしなきゃいけないとなって、いろいろやっている中で、その一環としてやきものがあったらしいです。

たまたま祖父が、長野県で染物屋さんをやっていて、趣味人でいろんな骨董品を集めていたので父は子供のころから骨董品とか美術品を見ていたらしい。大学在学中も戦争だったし、戦争が終わっても授業がなかなか再開しない。だから東京の博物館とかしょっちゅう行って美術品を観ていたので目が肥えたようです。それで絵や陶芸をやり始めた。
 

もしかすると陶芸家の特色かもしれませんが、器械好きなんですよ。だからいろんなもの作っちゃう。道具とかを。特に練上とかそういうものって、市販の道具ではできないんですね。自分でオリジナリルの道具を作らないと。そういうこともあって、工作が好きで、器械が好きで、器用で。
それで、やっと練上ができたんだと思います。結構繊細さが要求されますから。

 

――確かにちょっとでもズレると作品が変わってしまいますよね。

変わりますね。まぁズレるのも面白いんですけど、基本割れないように作るということに非常に神経を使います。

 

――それは土を組み合わせているからでしょうか?

そう、組み合わせるときに空気が入っちゃう。空気が入ると焼いたときにそこから割れてしまう。いかに空気を入れないでやるかが肝。一番難しいところ。

ろくろで引けば、連続的になる。ろくろは引いている時に練っているんですね、一種。表面を引っ張って練っている感じだけど、練上はそれがない。だから、最初(成形する前)に土に空気を入れないように作っておかなきゃいけない。

 

――空気が入らないようにするコツはありますか?

最初に板を重ねる時、水を撒いてやるということですね。霧吹きで水を撒いてその上に重ねるんです。そうすると、水って面白くて、接着剤にも離型剤にもなる。カーフィルムと同じ原理で、水を撒いて空気を押し出す。粘土も同じで、薄い粘土の層だと空気が入っているとポコッと膨らむ。それをヘラで押し出します。押し出し切れなかったものは、針で穴を開けて出します。

 

――1枚1枚重ねるごとにヘラを使うのですね

そういうことです。左官用のヘラとかお好み焼き用のヘラとか、なんでも使います。それもメンテナンスしないと、ヘラは真ん中が一番圧力がかかるので真ん中が凹んでくるし、ケガする。ずっと使っているとナイフみたいになっちゃうから。顔料は石の粉なので研いでいるようなものなんです。

 

――父、康成氏の作品は表面が荒々しい表現も多くありましたが、松井氏の作品はどれもなめらかですね。作風の違いはどこから生まれたのでしょうか?

自分が好きなものを作っているから。性格ですかね。
友人が美術館で父の作品を見て、「お前にはダイナミックさはないのか」と言われたけど、それは性格なので…

 

――松井氏は几帳面なのでしょうか?

几帳面でしょうね。だからこそ、最初はデザインも悩んだのです。工程上、練上はまっすぐが苦手なので、どうしても揺れたり、曲がってきてしまう。それが嫌だった。

でも、神谷紀雄先生(陶芸家)に「曲がっていた方が面白いよ。」と言われて。「そうか、揺らぎか。それでいいのか。」と許容して。神谷先生にそう言ってもらって助かりました。同業者は見ていますからね。自分ではなかなか客観的に見られないですから、そうやって言ってくれる方がいるとありがたいです。

 

――笠間という陶芸家の多い環境というのは影響がありますか?

やっぱりありますね。「皆何やっているのだろう」と気になります。他の作家の作品を見ると色や形など刺激を受けます。特に笠間って他の窯業地と違って、皆違うことをやっているんですよ。バラエティが豊かなのでヒントになることがいっぱいありますね。

最近、「かさましこ」という言葉ができて、「笠間」と「益子」を組み合わせて。

 

――笠間と益子は近いのですか?

近いです。笠間市から峠を越えて7,8㎞西に濱田窯(注:濱田庄司氏開窯)があります。

 

――笠間と益子の違いはありますか?

笠間は元々、門前町・城下町なので、益子とは雰囲気が違いますね。笠間は稲荷神社をメインに発達した街です。昔は佐白山に山城もあったので、益子よりも歴史が古いんじゃないかな。

 

――父、康成氏には技法を教わったのですか?

教えてもらったというか、ずっと一緒にやっていれば自然に身につくというか。大学を卒業してから制作を始めました。大学では彫刻を学んでいました。父に「陶芸をやるんだったら、陶芸をやる前に他のことをやっておいた方がいい」と言われたんです。最初から陶芸に行ってしまうと、お前の場合はそこにしか視点がいかなくなるから違うことをやっておけ、ということでしょうね。

彫刻でなくても良かったのですが、たまたま家に粘土がいっぱいあるので。彫刻の受験の練習ができるので。笑

父の影響は強いですね。
陶芸をやるということも、やると決めていたというかそれが僕のデフォルトというか。

 

――そこに抵抗はなかったのですか?

そんなにはなかったですね。むしろ抵抗があったとしたら、父と比較されること。それはどうしようもないことだけど。敵わないのに比較されるから気にしていたけど、最近は気にしないようにしています。父がすごいのは当たり前なのですが、だからといってそれを苦にしたらだめじゃないですか。それと、出会ったことが良かったと思えた方がいいので。最近は比較されたことを言われても「そうですよね」と。

――ずばり、「練上」の魅力はなんだと思いますか?

色々とありますが、この頃は色に興味を持っています。

実は僕は色弱なんです。若干、赤緑色弱があって。だけど、それでも色にはこだわりたいので、自分にはこんな風に見えるけどどうなんだろうと調べたりします。

父も染物屋の息子ということもあってファッション誌をよく見ていました。それで最近自分も分かったのですが、服飾デザイナーというのは本当に色に対して繊細ですね。ミッソーニ(注:イタリアのファッションブランド)いいなと思って。色彩のグラデーションにちょっと差し色を入れたりして、それが本当にはまっているんですよね。ああいう色彩感覚ってやっぱりすごいなと。自分なりにそういうこともやってみたいなと思っています。ファッションから着想を得ることも父から受け継いだのだと思います。

 

――「練上」は大変な手順や手間が必要ですが、本当に魅力的ですね。

練上の技法の力をより効果的にしていきたいと思っています。

 

――ありがとうございました!

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