美術
2020/06/09 UP
「審査を終えて」
審査は激戦だった。
審査にはまるまる1週間以上を費やした。
たった20作しか入選しないのだが、素晴らしい作品が200作近く揃った。
作者の身体性が、ちゃんとともなっているか?
つまりフィジカルに等身大の存在感がそこにあるか?
新鮮な感動、驚きはあるか?
そしてその素材でなくてはならない必然性は?
アルゴリズムで描けない世界観か?
などを考慮すると、30作位が、どれが入ってもそれなりの理由があるというところまで審査は進んだ。
それに加えてプロセスが見えることを重視した。
私には、かつて巨匠ジョージ・シーガルを出光美術館にお連れした時、等伯を見て、ここには盟友ジャクソン・ポロックと同じプロセスがある、と感動していた姿が鮮烈に残っている。
「よく覚えていて欲しい。造形芸術に大切なのは、いかにプロセスが見えるかということだ。
映画は終わりだけ観てもわからない。交響曲も第4楽章だけ聴いてもわからない。
小説も終わりだけ読んでもわからない。
そこに至るプロセスが芸術作品の内実だ。
完成度だけ競うのは、工業製品だ」
と彼は言った。
芸術としての先導性はあるか、または追随的か、ということも大切な判断材料だった。
しかし先導的な作品は、そうあるものではなかった。
三越美術営業部の部長、バイヤーたちの意見を踏まえ、最後まで入選作品の入れ替えは行われた。
そして長い審査は終了した。
ここには、日本画という閉塞感のある世界に穿たれた20の突破口がある。
日本画家 千住博
【第1回三越伊勢丹・千住博日本画大賞 受賞作品】
◆大賞 千住博賞
全 民玉 「不確かな世界 ―落ちた星―」
◆準大賞 三越伊勢丹賞
吉岡 由美子 「地磁気」
◆三越美術部賞
大浦 雅臣 「Hopes」
【第1回三越伊勢丹・千住博日本画大賞 入選作品】
青木 秀明 「孔雀図 ―荘厳極まり―」
安藤 緋那 「菊理媛命」
王 青 「夜の地鉄」
開藤 菜々子 「うつろふ」
笠井 遥 「はなつ」
川上 椰乃子 「嵐が来る日」
甲村 有未菜 「Sea of memory」
津田 親重 「雪解」
中村 貴弥 「富士結晶山景図 ―標の道―」
並木 功 「海洋mandala」
西川 礼華 「共通言語」
野村 京香 「道」
廣瀬 佐紀子 「岩陵」
深作 秀春 「難破船」
三浦 春雨 「betweens」
楊 喩淇 「夜の隅」
𠮷田 幸紘 「一月在天」
(敬称略・五十音順)
審査結果についてのお問い合わせはお答えしかねますのでご了承ください。
「令和の日本画 / 三越伊勢丹・千住博日本画大賞に寄せて」
三越本店美術部には、戦前から今日に至るまで、日本画の巨匠とともに激動の時代を歩んできた伝統があります。
その三越本店美術部から、令和の新しい時代をともに歩める未知の感性の日本画家を紹介してほしいと依頼されました。
それで私はこの大賞展を思いつきました。
戦後、日本画は、敗戦とともに強い批判を浴びました。日本画というジャンルの否定にとどまらず、将来のこの分野の存続をも断ち切る如くの風当たりがありました。その中で、三越本店美術部と縁の深かった東山魁夷、杉山寧、奥田元宋、髙山辰雄たちは、圧倒的な否定論など物ともせず、戦前からの精神性、技法は留保し、一方岩絵の具や和紙は素材として積極的に用いて、新しい見方や美学に挑み、幾多の名作を制作しました。そして総括は次の世代に託し、日本画を私達にバトンタッチしました。
私も、その空気感の中で画業初期から国際的に活動する今日まで、度々三越本店美術部で個展を開催させていただきました。滝や崖のシリーズは「こんなの日本画ではない」との批判にもさらされてきました。しかし振り返れば、同じく三越と縁の深かった横山大観も、そして速水御舟、菱田春草も、戦前から皆同じ様な緊張感の中で、孤高の画業を押し進めてきたのです。
伝統の正体は、「継承」ではなく、異なる価値観や多様性を受け入れて「挑戦する」ことにほかならなかったのです。
すなわち「挑戦する」日本画こそ、三越本店美術部がともに歩んできた伝統であります。
1回や2回の公募展受賞で世の中に出られるほど、日本画の層は薄くありません。しかし今回は、受賞者には栄えある三越本店美術画廊の個展の提案を含むもので、多くの最高の収蔵家たちの収集を前提にした注目があります。
美術関係者たちとの出会い、日本中の美術館、世界の美術ファンからの反応も大きいと思います。派生する展覧会の可能性もあるでしょう。
その意味で、今まで存在しなかった、日本画のコンクールが始まると言えます。
審査は厳正、公正です。
年齢、国籍、技法は問いません。
これが令和の日本画、という挑戦の志があれば、奮って出品されたらいかがでしょうか。
日本画家 千住博
千住博
1958年東京都生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業。
同大大学院博士課程満期退学。これまでにヴェネチア・ビエンナーレに
2回出品し、95年には絵画作品としては東洋人で初めて名誉賞を受賞。
そのほかミラノ・サローネなどにも出品。2011年に軽井沢千住博美術館開館。
16年「平成28年度外務大臣表彰」を受け、17年「第4回イサム・ノグチ賞」受賞、
18年には「日米特別功労賞」受賞。作品はメトロポリタン美術館を始めとする
世界主要美術館に収蔵、展示されるなど、国際的な評価も高い。
現在、京都造形芸術大学学長を経て、同大学院教授。
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