美術
2024/03/09 UP
「Apothanasia」
apo(離れる)+Thanatos(死)=死期延長、延命治療
ローマ時代の詩人オウィディウスが書いた、呪いによって泉の水面(水鏡)に映る自分の姿に見惚れてその場を離れることができなくなり衰弱死した青年ナルキッソスの悲劇の神話。
この物語を引用した初期ルネッサンスのユマニスト、レオン・バティスタ・アルベルティは、著書「絵画論」において、絵画をナルキッソスの技芸とし、水鏡を絵画の根源と語っています。
影そして痕跡と共に絵画の起源、あるいはメタファーに用いられる水鏡から展開するイメージとして私の作品を解釈し、それをナルキッソスの死に対する延命行為と位置付ける意図で「Apothanasia」を個展のタイトルとしました。
一般的にナルキッソスの逸話は自己愛、ナルシシズムの象徴として知られていますが、私の作品において、より重要な解釈は、欲望の対象が絶対に到達不可能なイメージであり、その不可能性は対象のイメージが自分自身のものであること以上に、水面に反射した光が生み出す虚像であるというものです。
水面に映る自らのイメージは近づこうとすれば吐息によって崩れ去り、掴もうとすれば指の間からこぼれ落ちます。
「虚」と「実」の境界となる水面は絵画の表面と見做すことができ、絵画が根源的に持っている不可能性は欲望を掻き立てる装置でありながら、同時にそれを隔てるものとしてそこに存在するのです。
今展の中心となるのは2012年から継続している「The Cracked Portrait」というシリーズで、鉛筆によるハイパーリアリスティックな人物描写とノイジーなエフェクトを、ヒビの入ったガラスで覆った作品です。
水面のようなガラスに走る亀裂は物質としての認識を保ったまま絵画のイメージ内部に滑り込んで描かれる人物を分割し、「現実に存在する物質としての3次元」、「絵画のイリュージョンによる虚像としての3次元」、「イリュージョンが壊れた2次元」、これらが1つのイメージとして折り重なった構造を作り出しています。
つまり私の作品が壊しているのはガラスやイメージ自体ではなく2次元と3次元、そして「虚」と「実」の境界であり、それらが入り混じる認識の中でナルキッソスの死は先延ばしになるのです。
毛利太祐
レセプションパーティー開催のお知らせ
2024年3月20日(水・祝)午後5時~7時
アーティスト来場
※諸般の事情により、予定しておりました イベントなどが変更になる場合がございます。ホームページまたは店頭でご確認ください。
《The Cracked Portrait 11》2024年
紙に鉛筆、ガラス
95.3×69.7×6cm
3,850,000円(額装込)
《ROSE》2024年
紙に鉛筆、ガラス
42×42×4.5cm
528,000円(額装込)
※数量に限りがある商品もございますので、品切れの際はご容赦ください。
※価格はすべて、税込です。
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