美術

宇佐美圭司 「アテネの学堂」

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2024/03/09 UP

この度三越コンテンポラリーギャラリーでは宇佐美圭司「アテネの学堂」を開催いたします。

 

日本の戦後美術史を代表する画家である宇佐美圭司は1940年大阪府吹田市に生まれ、和歌山県で幼少時代を過ごします。

画家になることを志し、東京都国立市にアトリエを構えた宇佐美は活動初期から美術史、音楽、詩など、あらゆる分野の芸術と密接に関わりながら独学で絵画を学んでいきます。

 

宇佐美にとって大きな転機になったのは、1965年にアメリカで一冊のカルチャー誌「LIFE」を手にしたことでした。

その中に掲載されていたロサンゼルスのワッツ地区で起こった暴動事件における1枚の報道写真から「たじろく人」「かがみ込む人」「走りくる人」「投石する人」の四つの人型を抽出し、宇佐美はあえて暴動という政治的な文脈から切り離し、それらを記号化させて画面の中に展開していきます。

 

そこには新たな抽象絵画の創造への強い思いと、絵画を制作するうえで空間を司る構成を拒否し、人型を重ねることで抽出された構造を主体とした絵画を展開することで、当時の世界の美術の動向に有効に接続させる試みがありました。

 

また、この時期から日本ではあまり見られなかった3メートルからなるラージスケールの作品を意識的に多く制作していきます。

 

欧米の美術の潮流であった大画面にアジアの美術特有の絵肌の「キメ」を加えた作品は国内外で高く評価され、1972年に第36回ベネチア・ビエンナーレに参加。1970年にはExpo’70の鉄鋼館にて芸術監督を務めました。

 

一定の評価を確立した宇佐美の作品ですが、1991年に海岸沿いの立地の良い高台に広がる海が見渡せるアトリエを新築し、福井県越前市に移り住んでから大きな変化がみられていきます。

 

それまで構造を主体とし、建築的であり、数学的なイメージで捉えられていた宇佐美の作品は雄大な自然から大きなインスピレーションを得ることで、神秘的な要素が加えられ、極めて有機的に昇華されることにより、人類に共通する根源的な課題への哲学的な定義を行うものへと移行していきます。

 

今展では宇佐美の晩年の制作において分岐点となる2004年に発表された「アテネの学堂」シリーズの作品を中心に展示を行います。

 

《アテナイの学堂》はルネッサンス期を代表する芸術家ラファエロ・サンティの最も有名な作品の一つで、ヴァチカン宮殿内の「署名の間」に神学、法学、哲学、詩学をあらわす壁画のうちの哲学をあらわす壁画として1509年から1510年にかけて描かれました。

盛期ルネッサンスの古典精神を見事に具現化したラファエロの代表作を題材に選び、「時間の回復」をテーマに宇佐美は制作を行いました。

 

それは静止した一つの時代の有効な精神性を現代において回復させる試みであり、あらわされるのは人類の知識によって培われた時間軸を備えた大きな円環であり、それらは歴史の流れでもあります。

 

「アテネの学堂」シリーズはルネッサンス芸術を現代の解釈でリバイス(見直す)する宇佐美の新しい試みの最初の作品であり、今シリーズから宇佐美の集大成となるレオナルド・ダ・ヴィンチの《A Deluge (大洪水)》を題材とした代表作「大洪水」シリーズへと展開していく重要な位置付けとなる作品になります。

 

心を寄り添わせ、耳を傾ければ、多くの言葉を語りかける宇佐美圭司の作品を、多くの方にご高覧いただく機会になりましたら幸いです。

画像

円形劇場・底抜け

ドローイング

2000年制作

インク、水彩、紙

H62.5 × W99.5cm 額付

 

画像

学童・過去の声・500-1

2002年制作

油彩、カンヴァス、フレーム

H248.5 × W333.3cm

 

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