2024.3.1 UP
バター生地、クルミ、キャラメルの3つの要素を絶妙なバランスで組み合わせた焼き菓子は、小ぶりながらも食べ応え十分! それをリスくんが描かれたフィルムで一つずつ包んだ。美しく焼き上がった断面を目視できつつも個包装されているため、自宅用のみならず手みやげとしても支持を集めている。菓子処〈鎌倉紅谷〉を代表する一品はひょんなことから生まれた。
「和菓子職人の祖父と洋菓子職人の父の二人三脚で1954年に創業しました。立ち上げ時から販売するサブレ『鎌倉だより』を作る際の二番生地を無駄にしないようにと、父が考案したものです。たしか1984年頃だったと聞いています。私が子どもの頃の店頭では祖父が手掛けた落雁やおまんじゅうと父が腕を振るったケーキが一緒に並んでいたんです。その中で生まれた焼菓子は『クルミッ子』の仮称で呼ばれ、5個入りは巾着袋に、16個入りなどは源頼朝をあしらった箱に詰めていました。和菓子舗らしい包装をしていました。ちなみに名前は父の中でしっくりくるネーミングに出会ったら、変えるつもりでいたようです。そのため品札に書く表記も『くるみっこ』『クルミっこ』などバラバラで統一されていませんでした」(有井宏太郎さん)
先代たちが名称を考えあぐねているうちに「クルミッ子」として浸透したため、正式に採用される。有井さんは社長のバトンを受け取ると同時にパッケージの一新に踏み出した。
「職人が丹精込めた一品をもっとたくさんの方に知っていただきたい。その想いから箱を変えました。私たちが拠点を置く鎌倉のアイコンとも呼べる源頼朝の肖像は荘厳なデザインではあるけれども、焼菓子が入っているとは想像しづらいと感じたのです。どうすれば『クルミッ子』の魅力が伝わるか。職人や店頭に立つスタッフに聞き取りを重ねました。また、デザイナーにも入っていただき、アイデアを練る日々を送ったものです。その結果、かねてより包装フィルムに描いていたリスくんを全面に出すことにしたのです」
代表取締役の有井宏太郎さん。「『おいしい』の先にある気持ちを一番大切にする」をビジョンに掲げる。
2019年に横浜みなとみらいの港を一望できる一角にKurumicco Factoryをオープン。キャラメルの甘い香りに包まれたカフェとガラスで隔てたファクトリーでは職人が丹精を込めて「クルミッ子」を作っていた。牛乳と砂糖が煮詰まったらクルミを混ぜて固めたら、バターがたっぷりの生地に挟む。焼き上がったものをカットし、リスくんが描かれたフィルムで包装して完成。出荷の直前までの流れを見届けられる貴重な空間だ。
「“見せる”工場はいつか実現をしたい夢でした。お菓子づくりの主役である職人の技を皆さんとシェアしたかった。ガラスに鼻を押し当てて見入る子ども達も多く、その眼差しはここで働くスタッフ達の励みになっているようです」
ちなみにここで作られたクルミッ子も伊勢丹新宿に並んでいる。
要となるキャラメル作り。砂糖の焦がし具合を見極めたキャラメルにクルミを投入。
熱いうちにしっかりと素早く伸ばす。キャラメルはすぐに固まるため手際の良さが肝となる。
下生地を敷いた天板に固まったキャラメルシートを重ねる。
バター生地をめん棒で均一に 伸ばす。熟練の技が光る瞬間だ。
固まったキャラメルシートに 生地をかぶせ牛乳を薄く塗り、 空気を抜くための穴を開ける。
オーブンから出てきたばかりの「クルミッ子」。 こんがりとした焼き目が美しい。
リスくんの絵柄が描かれたフィルムに個包装。いざ、出荷へ。
愛らしいキャラクターと味わいが想像しやすいネーミングが相まって、その知名度は瞬く間に全国へと広まる。近年では<ピエール・エルメ・パリ>や「ルーヴル美術館展」とのコラボにもチャレンジした。
クルミッ子(10個入/缶)2,160円
甘さとほろ苦さが同居するキャラメルは職人が五感を研ぎ澄まして、砂糖の焦がし具合を見極めたものである。ゴロッとした食感のクルミは渋みや苦みが少ないカリフォルニア産を使用。それらがしっかりと絡むように攪拌したものを挟むバター生地は、素材の風味が生きるようにと、1日寝かせるそう。そうして、季節や天候によって微調整を加えながら焼き上げていく。シンプルながらも手の込んだ3つの要素がみごとなハーモニーを奏で、口福に包まれる。また、小ぶりのサイズも魅力である。
petit paquet (プティ・パケ) (1缶)2,268円
おなじみのリスくんがバターとはちみつをベースにしたクッキーに変身。 さらには抹茶や小豆を用いた「小さい鎌倉だより」など詰め込んだ。伊勢丹新宿店をはじめ、ほか2店舗のみで販売。運良く店頭で見かけたら迷わず手に入れよう。
クルミッ子 キャラメルソース(10袋入)600円
「クルミとパイ~クルミッ子キャラメルソースを添えて」「フロマージュ浮島・YUKI」にも添えられているキャラメルソースが単品で登場!甘さとほろ苦さが同居し、バターのコクも感じるまろやかで濃厚な口当たり。アイスクリームなどのスイーツへのトッピングに限らず肉や白和えなどに加えると、味に深みを与える。
肉料理の一例がこちら。「鶏ハムの粒マスタードキャラメルソースがけ」は「クルミッ子キャラメルソース」に粒マスタードとマヨネーズを加えて混ぜた。パンや野菜とも良く合う。クロワッサンサンドなどアレンジメニューも楽しめるそう。
粗めに砕いたクルミとミックスナッツに「クルミッ子キャラメルソース」を絡めて焼いた「餃子の皮でなんちゃってフロランタン風」。サクッと食感と甘じょっぱい味わいはコーヒーや紅茶だけでなく赤ワインとのペアリングも堪能できる。
クルミとパイ~クルミッ子キャラメルソースを添えて~(4本入)891円
八幡宮前本店2階で営んでいたカフェ「Salon de Kurumicco」で密かに人気を集めていたプティ・フールのパイスティックを家庭でも楽しめるようにと、開発。たっぷりとクルミが乗ったサクサクのパイ生地に、別添えの「クルミッ子キャラメルソース」をかけていただく。量を調整できるため自分好みの味に仕上げられるのも嬉しい。
CHOCCO(8個入)1,944円
<鎌倉紅谷>の新境地にも注目。第4のチョコレートと呼ばれるルビーチョコレートとブロンドチョコレートを贅沢に使用して生まれた。フルーティーな風味とベリーのような酸味が特徴の前者は、ゆずのコンフィを加えたラズベリー味のクッキーでサンド。カカオニブの食感が楽しいココアクッキーで挟んだのはブロンドチョコレートだ。キャラメルのような香ばしい味わいにヨーグルトを彷彿とさせる酸味が堪能できる。
「リスくんがさまざまな縁をつないでくれています。およそ40年かけて情熱を注いできたことによって、皆さんに受け入れていただいた。これからも信頼を積み重ねていきたいです。また、いつかは海外の方にも『クルミッ子』のおいしさを届けたい。特に米国のカルフォルニアはクルミの故郷でもありますしね」
(有井宏太郎さん)
『おいしい』の先にある気持ちを一番大切にする<鎌倉紅谷>の心得も、みごとに象徴している。
Text:Mako Matsuoka
Photo:Takao Ota,Yuya Wada