2024.3.1 UP
日本びいきのパティシエは数多くいるけれど、セバスチャン・ブイエさんの日本愛は特に深い。初めて訪れたのは10数年前。以来、年に3、4回は来日し、仕事以外に旅行も楽しみ、土地や人とのつながりを大切にしている。
「来日するたびに、人や食材に対するリスペクトの精神、そして食文化には感銘を受けますし、新しい菓子のアイデアもくれる大切な場所です」とブイエさん。
「食の都」として名高い、フランス・リヨンで父が営んでいたパティスリーを引き継いだのが2000年。以来、伝統的な職人技は継承しつつ、常に感性を刺激する独創的なお菓子が人気を集め、今ではフランスで10店舗以上のお店を構え、海外出店は日本でのみ展開している。
パティシエ兼ショコラティエでもある彼の特徴が際立つ「マカリヨン」は、店のスペシャリテ。マカロンをパリッと薄いショコラでコーティングした一品で、伝統菓子のマカロンと出身地のリヨンを掛け合わせたネーミングにも、ブイエさんの思いを感じる。「マカリヨン」の味も姿も忠実に再現しているのが、日本の職人たちだ。
実は、日本に出店した当初はリヨンのお菓子、フランスのお菓子をいかに伝えるかに力を入れていたというブイエさん。でも、職人たちの技術の高さや感性の豊かさに触れて「日本のテロワールを生かした商品も作ったら面白そうだ」と新たな試みに着手。日本で手がけたお菓子がフランスで人気になるなど、両国に店を構えたことの相乗効果が生まれた。
「日本に店を持たなければ、競争の激しいフランスの菓子業界で、ここまで私のキャリアは続かなかったかもしれません。それほど、日本でのインスピレーションは大きな存在です。私と同じ価値観を共有していて、真摯にモノ作りに励んでくれる職人たちには、心からの信頼と感謝を寄せています。今後もフランスらしさを大切にしながら、シンプルに美味しく、心が贅沢になるお菓子を、日本の職人たちと作っていきたいです」
マカリヨンの製作工程のひとつ。チョコレートコーティング用の機械(エンローバー)を使って、パリッと薄く仕上げる。
コーティングしたチョコレートに気泡ができないよう、一つひとつ丁寧に筆を入れることで、見た目だけでなく舌触りにも違いが出る。
マカリヨン(6個)2,160円
フランス定番の菓子マカロンを、パティシエでショコラティエでもある、ブイエさんならではの感性で、オリジナリティ溢れる独創的な菓子に進化させた一品。リヨン本店でも通年販売中のスペシャリテ。ショコラ風味のマカロンに、プラリネガナッシュをサンドし、ミルクチョコレートでコーティングした「プラリネ ノワゼット」や、ショコラ風味のマカロンにオレンジのコンフィチュールをサンドしビターチョコレートでコーティングした「オランジュ」など、定番人気のマカリヨンの6個入りアソート。
「マカリヨン」と並び定番人気の「タルトレット」の作業工程。タルト生地にマドレーヌを入れ、プラリネローズに生クリームを加えたクリームを絞り入れる。
タルトレット(6個)2,160円
タルト生地にマドレーヌやフィナンシェなどを入れ、フルーツやナッツを重ねたタルト。実は、日本人スタッフのアイデアで始まり、フランスでも逆輸入の形で取り入れられ、人気となった商品。ゆず風味のマドレーヌにグレープフルーツピューレ入りプラリネローズの「リヨン トーキョー」など6個入りのアソート。季節限定商品もある。
2023年11月には、パン屋でもお菓子屋でもない、特別な“おやつ”が買える店<グテ>の東京1号店をオープンさせた。フランスでは2015年にスタートした新業態で、常に新しいことに挑戦するブイエさんの思いがこもった店だ。店内のデザインも多才な彼の手によるもの。
リヨン名物の赤いプラリネ「プラリネルージュ」の鮮やかな縞模様が目を惹くクロワッサンや、クランブルとキャラメル、プラリネのソースをのせたブラウニーなど、パティシエのひと手間が加わったお菓子やパン、約50種が所狭しと並ぶ空間にワクワクする。もちろん、並べ方にもブイエさんのこだわりが反映されている。
「どういうものが喜ばれるかな、これもいいんじゃないかな、といつも欲張ってしまって、日本のスタッフには多すぎではって言われたけど、たくさんあるほうが楽しいよね(笑)」
東京・学芸大学にオープンした<グテ>。店内で次々焼き上がるこだわりのおやつの香りに嗅覚も食欲も刺激される。
マカロン(6個)1,512円
自家挽きしたアーモンドを加えて焼き上げた香ばしい食感が特徴。ビターチョコレートを使用したガナッシュや、フランボワーズのコンフィチュールなど、定番人気のフレーバー6個入りのアソート。マカロンは、ほうじ茶のガナッシュや、木頭のゆずと温州みかんのコンフィチュールなど、日本に触発されたフレーバーが揃う、季節限定商品もある。
いつもお客さんをびっくりさせ、喜ばれるものを作りたりいと情熱を傾けるブイエさんの思いが詰まった店。温もり漂うおやつに、日本人スタッフのアイデアや、新たな日本の食材が使われる日も近いだろう。
Text : Mikiko Itakura
Photo : Kazuyoshi Aoki,Yuya Wada