2024.3.1 UP
得意としているのは、フランスの伝統的な焼菓子。洗練されてはいるがフランス人にとってはなじみ深い、いつも何気なく食べているようなお菓子が並んでいる。大切なのは、日常に寄り添うお菓子を作るということ。素材にこだわりつつも卵を割るのも、材料をボウルに入れて混ぜ合わせるのも、すべての工程を職人が自分の手で行う。
一つひとつの工程を職人が丁寧に進めていく。
看板商品「プティ フラン パリジャン」のカスタードクリームも一から手作り。鍋を火にかけ、温めながら泡立て器でかき混ぜ、手に伝わってくる感触でカスタードクリームの硬さを確認するのだ。最後に型から抜くのもやはり手作業。プリンのように柔らかく、慎重さが必要な作業になってくる。
その日の気温や湿度によって力加減や混ぜる時間を調整する。
バート・ブリゼ(甘くないタルト型)に熱々のカスタードクリームを流し込む。
材料はいたってシンプル。だからこそ、一つひとつこだわって選んでいる。例えば、小麦粉はフランス・VIRON社の「ラ・トラディッショナル・フランセーズ」。これは、日本では中力粉〜強力粉に分類されるタイプだ。
通常、日本で焼菓子に使われるのは、グルテンの少ない薄力粉であることが多い。しかしあえてこれを使用するところに、パン屋が作ったお菓子ならでは醍醐味が潜む。つまり、口に入れた時に強く感じられる小麦の香りと力強い風味。バゲットでも使われている銘柄で、焼き上がった時の香ばしさもたまらない。
粉はやや黄色味がかったクリーム色。硬く香ばしいクラストができる。
日本在住のフランス人から「故郷の味に似ている」と評判の「プティ フラン パリジャン」。フランスではすでに中世から作られていたとされる「フラン」がルーツにあり、ブルターニュ地方の伝統菓子「ファーブルトン」とも近い。食べ進めるごとに卵の風味が広がり、甘い香りに思わず頬が緩んでしまう。サクッとしたタルト生地と、もっちりした弾力のカスタードクリームのコントラストに心が踊る。
プティ フラン パリジャン(1個)831円
タルト生地にカスタードクリームを流し込み、こんがり焼き上げている。
フランス西部の港町・ナントに古くから伝わるお菓子に、「ガレット ナンテーズ」というクッキーがある。<ル・デタイユ・デュ・グルニエ・ア・パン>ではこちらにもVIRON社の小麦粉を使用し、フランスパンを作るのによく使われる平釜(デッキ・オーブン)でじっくり焼成する。ガリッとした歯応えがあり、ザクザクと軽快な音が口の中で響く。ミネラルを多く含み、口当たりがまろやかなフランス産の「ゲランドの塩」が隠し味となり、バターの風味、アーモンドの香ばしさをぐっと引き出す。
ガレットナンテーズ(12枚入)2,773円
大人も子供も楽しめる味わい。しっかりと食感がありながら、口溶けがいい。
生地の表面に塗るドリュール(卵液)には、卵から卵黄を取り出して使用。しっかりと焼き色が付くように、まんべんなく塗るのが肝心だ。栃木県産の「那須御養卵」は黄身が明るく、濃厚な味わい。
ちなみに、「プティ フラン パリジャン」のカスタードクリームにも「那須御養卵」のコクと甘みが活かされている。
強度がつきやすく割れにくい菊の形をした型で生地を抜き、一枚一枚にドリュールを塗る。
<ル・デタイユ・デュ・グルニエ・ア・パン>で使う卵はすべて「那須御養卵」。
表面にあしらった波模様がかわいらしく、手土産にもぴったり。
独特の歯応えは、焼成の段階で生地から出てくる蒸気をうまく逃がすことで作る。焼き始める際、オーブンの扉にフォークを挟んで隙間を作るのは、そのための工夫だ。こうして乾燥させながら焼き、蒸気が抜けたらフォークを抜き取って密閉する。「焼き切る」ことで生まれる特徴が、この店らしい魅力の一つだとも言える。
フォーク1本分のわずかな隙間ができあがりを左右する。
「那須御養卵」の明るい色味が効果的に活かされ、きれいに色が出ている。
お酒と合わせるなら「サブレトリュフ」がおすすめ。その名の通り、トリュフが主役と言っても過言ではない一品だ。口溶けのよい生地に刻んだ黒トリュフを練り込み、さらに表面にもトリュフオイルをたらり。しょっぱすぎないので白ワインとも相性がよく、焼きを浅めにしているためサクサクとした軽い食感が心地よい。
サブレトリュフ(100g)1,480円
価格帯もよく、気を使わずに受け取ってもらえる贈答品としても喜ばれている。
家族や友人の誕生日を祝うなら、ルビー色のチョコレートを纏った色鮮やかなケーキ「アメリ」はどうだろう。イチゴとライチのムース、フランボワーズのジュレが仕込まれていて、フルーティな酸味が華やかに舞う。普段の焼菓子に加えて、日常の延長にあるイベントにぴったりのケーキが揃っているのも、使い勝手のいいパティスリーの条件。もちろん、自分用のご褒美にするのも悪くない。
アメリ 735円
トッピングの木イチゴや赤スグリもかわいく、見ているだけでも気持ちが華やぐ。
「ババオロム」はラム酒をたっぷり使ったリッチな味わいのケーキ。弾力のある生地にシロップが染み込み、お酒のほのかな苦みが色っぽくもある。それでいて、ブーランジェリー発のパティスリーだけあって小麦の風味が立ち、焼菓子らしい香りとカスタードクリームの甘みが絶妙のバランス。トータルしてほどよい甘さにまとまっていて、食後のデザートにもいい。
ババオロム 601円
オレンジピールやハッカク、シナモンなどのスパイスを一緒に煮詰めたシロップに、ラム酒を加えた香り高いガトー。
店名の「デタイユ」とはフランス語で細部(ディティール)という意味。そして、細部を切り取ることを「デタイエ」と言い、菓子製造の現場では型で生地を抜くことを「デタイユ」と言う。<ル・デタイユ・デュ・グルニエ・ア・パン>は、ブーランジェリーから菓子部門を「抜き取った」ことにちなんだ店名。現在実店舗は伊勢丹新宿店のみ。伝統菓子を通じてフランスの豊かな食文化を体験しよう。
Text : Maiko Shindo
Photo : Yu Nakaniwa,Yuya Wada