2023.3.10 UP
金平糖は、1546年(天文15年)にカステラや有平糖などとともにポルトガルから伝わったとされる南蛮菓子のひとつ。砂糖を結晶化させたこの菓子は、公家や高級武士などごく一部の人々しか口にできない、それはそれは高価なもので、ポルトガル人宣教師が織田信長に謁見した際、献上したのも金平糖だったという。ただ、製法までは伝わらず、日本人の手で作られるようになったのは、江戸時代に入ってから。長崎から始まり、やがて九州、江戸の街にも広まっていく。そんな金平糖を、教わる師もいないまま、京都で作り始めたのが、当時、油屋をしていたという清水仙吉。<緑寿庵清水>の創業者である。
明治末期の本店の様子。車に“金米糖”の文字。昭和初期までは、この字を当てていたそう。
京都・百万遍にある本店には、慶応年間初期の古い釜が残る。仙吉は、どこからか見つけ出してきたその釜で、ああでもない、こうでもないと、試行錯誤しながら、独自の製法を編み出していったという。そして、金平糖が伝わってからおよそ300年後となる1847年、京都・百万遍の地で<緑寿庵清水>の暖簾を掲げる。以来、今日に至るまで、仙吉が編み出したその製法を代々受け継ぎ、金平糖を作り続けている。
慶応年間に使われていた釜は、いまも大切に保存。
創業当初は、釜を背負い、各地を売り歩いていたというが、なんといっても、たらいほどの大きさの釜である。数ができない。そこで、2代目の時、いまに続く直径2メートルの大釜を開発する。以来、代々の当主は専用の大釜を持ち、それぞれ微妙に違う釜の形に合わせながら、金平糖作りの修業をしていくのだという。<緑寿庵清水>の金平糖にはレシピはない。五感を頼りに、釜の温度や傾斜角度、回転速度、蜜の濃度などを調節しながら、仕上げていく。金平糖作りは、「コテ入れ10年、蜜掛け10年」と言われ、体得するまで20年以上かかるのだそうだ。
真夏には60度を超えるという工房で、職人が毎日8時間以上、つきっきりで金平糖に向き合う。
その製法は、気の遠くなるような根気と技術を要するもの。まず、200度前後に熱した大釜を回転させ、ここぞというタイミングで核となる素材を入れる。砂糖の金平糖の場合は、イラ粉と呼ばれる小さな粒を核に、砂糖の蜜をかけて、コテでほぐし、乾燥。この“蜜をかけてはコテでほぐす”作業を、朝から晩まで1日8時間あまり、ひたすら繰り返す。
砂糖の金平糖の核となるイラ粉。当初はゴマやケシの実を核にしていたという。
イラ粉が、釜の上から下へ転がっていく時、200度の釜に触れた部分の蜜が乾いて固くなり、少し出っ張る。すると、そこに蜜がつきやすくなり、3日目ぐらいから、特有のイガができ始める。釜が傾斜し回転しているので、イガは1か所ではなく、何か所にもできる。金平糖作りは、この最初の工程が特に大切だ。
3日目ぐらいから、イラ粉に小さなイガが出始める。
8日目ぐらいになると、イガが均一に出揃ってくる。欠けずに、きれいなイガができるよう、さらに蜜がけ、コテ入れを繰り返す。金平糖作りの奥義は、音を聞き分けること。金平糖がカラカラと高い音を立てて釜の中を流れ落ちている時は、良くできている証拠だという。
8日目ぐらいで、イガが出揃う。
約14日目にして、ようやく砂糖の金平糖が完成する。きれいなイガが均等にでき、色艶が良く、噛んだ時にほろほろとほどけていくような食感に仕上げることを旨とする。蜜を乾燥させて作る菓子だけに、大敵なのは湿気。梅雨の時期は、完成するまでにさらに日数がかかるそう。
砂糖の金平糖の完成。約14日間かけて、直径1センチほどの粒に。
3代目のころまでは、羊羹などほかの和菓子も手がけていたが、4代目の時に金平糖専門店となる。そして、新たな一歩を踏み出す。砂糖味が当たり前とされる中、砂糖以外の素材を加えた金平糖を作り始めたのだ。たとえば、フルーツを加えれば、酸がイガで溶けやすくなるし、高温で火を入れるので、素材の風味も飛びやすい。チョコレートなどの油脂しかり、塩分しかり。砂糖以外の素材を加えると結晶化しにくいとされる中、研究と試作を重ね、口の中でほろほろとほどけると同時に、素材の味が広がる、いままでにない金平糖を作り上げた。最後の工程で、蜜と素材の味を交互に重ね、砂糖味よりもさらに長い、16~20日ほどかけて作るという。ただ、その素材を加えることで、どう結晶化するのか、作ってみなければわからないため、新しい味が完成するまでには、2年以上の歳月がかかることもあるそうだ。さらに現在の当主である5代目は、核となる部分にイラ粉ではなく、柚子やサツマイモなど、素材そのものを使った“角平糖シリーズ”を考案。<緑寿庵清水>は、江戸期から続く伝統の製法を守りながら、新しい味に次々と取り組み、いまでは80種を超える金平糖を作っている。
明治のころから、皇室での祝い事の引出物は、金平糖が入ったボンボニエール(砂糖菓子を入れる器)とされている。それは、職人が根気よく愛情を注ぎ、2週間以上、手塩にかけて作り上げていく工程が、2人が家庭を築き上げていく姿に重なるからなのだという。これは<緑寿庵清水>の社紋が入った陶器のボンボニエールに、昔ながらの砂糖味の紅白の金平糖が入ったもの。
緑寿庵清水オリジナル ボンボニエール(30g入) 6,600円
10種の金平糖を色とりどりに籠に詰めたギフトは、結婚祝いはもとより、楽屋見舞いのお花がわりとしても好評だ。お祝いごとに金平糖で彩りを添えて。
フルーツポシェット (30袋籠入)20,390円
幸せを呼ぶとされる縁起の良い「鳳凰」がデザインされた箱に、人気の「苺の金平糖」と「バニラの金平糖」の紅白の金平糖が入った詰合せ。
伊勢丹新宿店限定 金平糖二種詰合せ 鳳凰飛(小袋45g×2種詰合せ)1,383円
結婚する2人の絆を鶴で結んだ、おめでたい装いの引菓子。桃の味わいが優しい「桃の金平糖」と、爽やかな「天然水サイダーの金平糖」の詰合わせ。
羽衣(50g×2種詰合せ)2,160円
創業170周年を迎えた2017年、初の路面店を東京・銀座に、2020年には京都・祇園に、そして、2022年には伊勢丹新宿店にショップをオープン。京都の地で培ってきたものづくりの伝統を礎に、初代から守り受け継がれてきた金平糖。「本物の味・色・形」を追求し、皆様に永く、広く愛されるよう、日々発展し続ける<緑寿庵清水>でしか味わえない金平糖を贈り物に、そして自分へのご褒美に。
Text : Yuko Saito
Photo : Yuya Wada