2023.3.10 UP
東京六花街の一つ、赤坂に本店を構える<赤坂松葉屋>。1976年、松茸料理の専門店として創業した。その後、飛騨牛のすき焼きを提供し始めると、これを目当てに訪れる人も。現在は、松茸と国産黒毛和牛の二本柱となっている。
前身は、江戸時代後期(寛政年間)から大阪枚方で営まれていた味噌屋<天満屋>。看板商品の「天満みそ」は関西ならではの白味噌で、醸造・販売を一貫して行う店だった。
ではなぜ、今では松茸とすき焼きが名物になっているのだろうか。最初の転機は、偶然の出会いにある。
味噌樽が積み重ねられた<天満屋>の店先。
「ある時、貿易商だった親戚から相談されたそうです。絹を輸入したはずが、届いてみたら松茸だったと」
そう言って笑うのは、代表取締役社長の宮南譲さん。引き取った松茸を佃煮にして<天満屋>で売ったところ話題となり、それが鞍替えのきっかけとなった。そして、1976年に松茸料理専門店として上京し、<赤坂松葉屋>を創業したという。
赤坂本店は2022年に移転リニューアル。食事スペースが併設され、出来たての味を提供している(8席のみの完全予約制)。
次の転機は、今からおよそ20年前。「長野県など松茸がよく採れる場所では、地鶏と松茸のすき焼きが定番」だそうで、これをメニューに取り入れることを思い付いた。しかし、<赤坂松葉屋>が使うのは鶏肉ではなく、「先代の出身地でもある」岐阜県の飛騨牛。きめ細かい肉質で噛むと柔らかく、濃厚な味わいが昆布だしの特製割下と合う。
飛騨牛銘柄推進協議会の指定店だけが置くことを許される看板。
すき焼き用の肉はスライサーでカット。美しい霜降りは、飼育環境のよさを示す。
お取り寄せ商品「松茸と飛騨牛のすき焼きセット」は、料亭の味を家庭で堪能できるセット。人気の秘密は、やはり飛騨牛にある。美しい霜降りの肩ロースで、A4ランク以上のものを使うのがこだわり。鮮度が落ちないように産地の工場で塊肉からカットし、冷凍したうえでお客さまへ直送する。
松茸と飛騨牛のすき焼きセット(2人前)12,960円
牛肉、松茸、特製割下を詰め合わせたセット。お好きな野菜や豆腐を加えてどうぞ。
食べる時には、まず肉から焼くのがおすすめ。そして少し火が通った頃に、その肉がやや浸るくらい割下を注ぐ。松茸は、他の野菜と同じタイミングで入れて大丈夫。特製割下のだしは日高昆布をメインに使い、まろやかな甘みを醸している。
松茸と飛騨牛はそれぞれ楽しむのもいいが、松茸を飛騨牛で巻いて食べるのもいい。ふくよかな香りがふわっと広がり、食欲をそそる。食べ進めるごとに一段と豊かな味わいに。柔らかい飛騨牛の食感にもうっとりする。
自慢の特製割下。醤油、昆布だし、発酵調味料、砂糖を使う。
「素材にこだわるのは専門店の看板を守るためには当然」と、代表取締役社長の宮南譲さん。松茸も国産黒毛和牛も、自ら産地に足を運ぶことがあるという。松茸を収穫するために山に入ったり、契約牧場に牛を見に行ったりする中でヒントをもらい、それが新商品の開発に生かされることも。「伝統には変えちゃいけない部分と、変えるべき部分があります」と10年先、20年先を見据える。
代表取締役社長の宮南譲さん。「現状に満足せず、いろいろな商品を開発したいです」
「松茸は成長の度合い(カサの開き方)によって香りや味に違いが出てきます。東京ではツボミ(カサが膨らんではいるものの、完全に開いてはいない状態)が高価ですが、関西ではヒラキ(カサが開ききった状態)も同じくらい人気。ヒラキは他の状態に比べて香りが強いのが特長です」
実は、かつて松茸の卸もしていたという宮南さん。<赤坂松葉屋>ではさまざまな状態の松茸を仕入れ、料理によって使い分けている。
実際に松茸を収穫する宮南さん。
<赤坂松葉屋>は、バラエティーに富んだお取り寄せやギフトも評判。本店のコース料理で提供している前菜や佃煮をパッケージ化し、店舗で販売もする。<天満屋>から数えると十一代目、<赤坂松葉屋>では四代目の宮南さんは「まだ老舗とは言えません」と謙遜するが、その言葉の陰にはチャレンジ精神が。商品開発にも積極的に関わり、研究に研究を重ねる。
胡麻豆腐(4個入)1,080円
食べやすいひと口サイズ。吉野葛を使い、つるりとした舌触りに。白、黒、南瓜、金の4種。(柚子)味噌ダレ付き。
店舗をリニューアルする前は、料亭で夜のコース料理も提供していた。「胡麻豆腐はそのコースの最初に出していたものです」と宮南さん。それをもとにギフトとして生まれ変わらせたのが、この「胡麻豆腐」だ。3種類のゴマをブレンドして3度挽きし、さらに裏ごしすることで、より香り高く、滑らかに仕上げている。
松茸お吸物(4個入)1,512円
ジュレを器に出し、お湯をかけるだけでお吸い物が完成する。
「松茸のお吸物」は、驚きの連続。枕崎産カツオと利尻昆布でだしを取り、ジュレにすることで旨味を凝縮している。フリーズドライとは違い、お湯を注いでも味が薄くならない。しっとりした舌触りも感じられ、品のいい味わいだ。
黒毛和牛 味噌漬(100g×5)10,000円
山形県産黒毛和牛のロース肉を使用。発酵素材のみりん粕と味噌で柔らかい食感に。
味噌屋がルーツにあることで生まれたのは、「黒毛和牛 味噌漬」。麹が染み込みやすいように比較的柔らかい肉質のロース肉を選び、西京味噌に漬け込んだ。みりん粕の上品な甘みが牛の旨みを引き立てている。
松茸ごはんの素 2合炊き用 1,728円
9月〜11月上旬に販売される季節限定商品。松茸は香りが高いヒラキを使う。
受け継いだ味をしっかり守り、王道のおいしさを残す。同時に、松茸や国産黒毛和牛の魅力を家庭に届けようと、新しいアイデアを見つけて創意工夫。その柔軟な姿勢とバランス感覚に名店の矜持が垣間見える。
Text : Maiko Shindo
Photo : Nariko Nakamura