<東京𠮷兆> 日本料理を極めた 湯木貞一氏の心を受け継いで。

2023.3.10 UP

日本料理の地位向上に貢献し、日本料理界初の文化功労者となった、湯木貞一翁を祖とする<東京𠮷兆>。その成り立ちや、料理に対する基本姿勢を掘り下げると、愛され続ける理由が見えてきた。若女将・湯木妙子さんの談話と共にお届けする。

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現状に満足せず、苦労してでも料理と向き合う。

<東京𠮷兆>が開業したのは1961年のこと。関西で名声を博し、磐石な基盤を築き上げていた大阪新町の料亭「𠮷兆」に東京出店の話が持ち上がり、その創業者・湯木貞一氏は長女・照子さんと婿・昭二郎さんに暖簾を分ける形で東京店をまかせた。1960年代の日本経済は諸外国にも類を見ないほど、急速な経済成長を遂げ、東京には海外からも数多くの要人が訪れた。そしてそのうち<東京𠮷兆>は国内外で知られる存在になっていった。

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銀座8丁目の「東京𠮷兆本店」。※建物の老朽化などを考慮し、2021年1月より休業。

 

基本理念として掲げるのは、貞一氏が残した言葉「世界之名物 日本料理(=日本料理は世界に類のないすぐれた料理である)」。伊勢丹新宿店 本館地下1階の食料品フロアでは、その思いが宿る美味を求めることができる。

 

例えば、「赤飯」。<東京𠮷兆>若女将・湯木妙子さんによれば、「料亭にて乾杯の場面で『おめでとう』が聞こえたら、手前どもではお祝いの気持ちを込めて、お食事の合間にサプライズとしてお出ししています」とのこと。

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赤飯(1人前)1,404円

おもてなしの心は、その色にも表れている。用いるのは小豆と煮汁のみ。はじめのうちは茶褐色だが、沸いたら火から下ろし、攪拌して空気に触れさせるという作業を丹念に繰り返すと、鮮やかな紅色がもたらされる。また、小豆の姿も、皺が入ったりすることなく、美しい。熟練した職人による、真っ当な仕事の賜物だ。

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混ぜるときは、豆を潰さないように力を加減。

また、「胡麻豆腐」もすばらしい。白胡麻と吉野葛を合わせて丹精に練り込んだそれは、ハッとするほどもっちりした食感。山葵と旨だしでいただくと、しみじみおいしい。

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胡麻豆腐(1パック)648円

黒豆にも職人の技が光る。炊き上げるのにかける日数は3日。ふっくらとしてつややか。飽きのこない上品な甘さに仕上がっている。

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丹波くろまめ(250g)3,348円

日本ならではの伝統的な料理に加えて、革新的な商品も人気だ。その筆頭は「フォアグラゼリー」。ポートワインのゼリー、フォアグラ、鶏のミンチの3層に分かれていて、洋風のテリーヌを連想させる。

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フォアグラゼリー(1パック)2,700円

「貞一は日本料理だからこの食材を使ってはいけないという固定概念を持たず、いち早く西洋料理の食材を取り入れていました。わたくしの父(※三代目)は貞一から刻苦光明必盛大也(こっくこうみょうかならずせいだいなり)と書かれた色紙をもらい座右の銘として大切にしていました。現状に満足せず、苦労してでも常に新しい料理を模索するというその姿勢を<東京𠮷兆>は大切にしています。つまり、日本料理の伝統を受け継ぎながらも、今の時代に合った新しい試みを積極的に取り入れるようにしているのです」

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湯木妙子さん。2019年より<東京𠮷兆>の若女将

 

 

 

「𠮷兆」の原点、御鯛茶を味わうよろこび。

「𠮷兆」を語るうえで“鯛茶”も欠かせない。今や鯛茶漬けはさまざまな店で味わえるが、もとはといえば湯木貞一氏が考案したもの。貞一氏が大阪に店を出したのは1930年のことだったが、じつは当時の店名は<御鯛茶處𠮷兆>。店をやるなら何か名物があった方がいいという発想に基づいていた。

 

鯛の刺身に胡麻だれをかけたスタイルは、当時は新しい味だった。その後、「𠮷兆」は料亭のスタイルを取るようになったが、鯛茶だけは、創業以来ずっと「𠮷兆」の味として親しまれている。

 

伊勢丹新宿店 本館7階にある<東京𠮷兆>の店舗のひとつ<正月屋𠮷兆>では、真鯛が旬を迎える春と秋に特製の胡麻だれで仕上げた伝統の味を楽しむことができる。

 

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<正月屋𠮷兆>の店内。中庭を眺めながらゆったりと食事をすることができる。

味わいのポイントはやはりごまだれ。白ごまを適度な加減で煎って、つぶし、煮きったお酒と土佐醤油で合わせてごまだれを作る。ごまの煎りが足りなくても駄目、過ぎても駄目。よい塩梅を見極めることが大事だという。

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<正月屋𠮷兆> 御鯛茶(1人前)5,500円(デザート付き)

濃厚なごまだれに合わせた厚切りの鯛を熱々のご飯の上にのせていただくのはまさに口福。特製のおだしをかけて味わえば、心がほどける。その妙味、ぜひ一度お試しいただきたい。

 

 Text : Mio Amari

Photo : Hiromi Kurokawa , Yuya Wada

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