2024.9.13 UP
<Ameya Eitaro(あめや えいたろう)>は、2007年に和菓子の老舗<榮太樓總本鋪>から新たに生まれた、高級あめをモダンに魅せる専門ブランド。そのルーツを辿ると、<榮太樓總本鋪>の看板商品であり、昔ながらの東京土産として知られる「梅ぼ志飴」に辿り着く。
約200年前、日本橋魚河岸で屋台から始まった同店は、今も受け継がれる丸い形の「金鍔」で人気を集めた。常連客が次第に日持ちのする土産菓子を求めるようになったことから、当時の江戸に広まりつつあった南蛮菓子、有平糖に目を付けたという。
1818年創業、1857年に現在の本店と同じ場所に店舗を設立。写真は1933年ごろの店頭。
砂糖がまだ貴重品だった江戸の庶民にとって、白ざら糖で作る有平糖は高価なものだった。これを気軽に味わえる形で商品化したのが「梅ぼ志飴」だ。純度の高い白ざら糖と、さつま芋から作った水あめを煮詰めてから棒状に伸ばし、固まりきらないうちに鋏で細かく切る。このとき切り口で口内が傷つかないよう、指でつまんで三角の形にしたところ、形が“梅干し”に似ていたことから「梅ぼ志飴」と命名。江戸の定番土産となった。
その昔は、赤い色を付けるため紅花が配合されていたそうだ。とろけた蜜を唇に塗ると、艶が出て化粧乗りも良くなった。そんなことから、明治時代には上方の芸妓や舞妓らが化粧をする際に「梅ぼ志飴」が重宝され、彼女らの客もこれを手土産に差し入れたという。この粋なエピソードが、150年以上の時を経て、<Ameya Eitaro>の「みつあめ スイートリップ」を生み出すことになる。
同社のすべてのあめ製品は、白ざら糖と水飴を混ぜて銅鍋に入れ、直火で煮詰めることから始まる。中身を焦がさないよう、職人が頃合いを見て引き上げ、そこからあめを成形したり、味付けをしたりする。
こちらは「梅ぼ志飴」の成形前、まだ高温で柔らかい状態のあめの塊。まるで鼈甲のような色合いに魅せられる。
コスメのような特注容器に入った「みつあめ スイートリップ」には、「梅ぼ志飴」と同様に、白ざら糖と水あめで作った優しい甘さの有平糖が使用されている。これに四季折々のフルーツ果汁を加えた、世にも珍しい無香料、無着色のみつ状のあめだ。果汁の色に染まった透明感の高いテクスチャーは、有平糖特有の美しさなのだという。デザートやパンにかけたり、紅茶に入れる砂糖代わりにしたりと、楽しみ方は幅広い。
みつあめ スイートリップ(1本)702円から/(6本入)4,590円
ハンドバッグに見立てた箱に入っているのは、定番の有平糖とりんご、コンコードグレープ、ゆず、不知火、宇和島ブラッドオレンジの全6種。季節ごとに新たなフレーバーに出会えることも。
アイスクリームやヨーグルトなどにかければ、ちょっとリッチなスイーツの出来上がり。
プレーンな有平糖味はハチミツのようにパンにかけるのもおすすめ。飽きのこない味わい。
023年より<榮太樓總本鋪>の代表取締役社長を務め、以前から<Ameya Eitaro>などの企画にも携わってきた細田将己氏は、「みつあめ スイートリップ」が生まれた背景についてこう語っている。
「いま巷で市販されているあめの多くは、機械化して製造コストを下げるために水飴の比率を高くしています。これに対して我々が作ってきた有平糖のあめは、白ざら糖と水飴の割合がおよそ9:1。砂糖の割合が高いので煮詰まりやすいのです。そのため作業を機械化することができず、今も職人が直火で煮詰めて製造します。あめなのに固まらない『みつあめ スイートリップ』は、この有平糖の性質を知る職人の知恵があったからこそ作れた製品でした」
<榮太樓總本鋪>代表取締役社長の細田将己氏。商社勤務などを経て2007年に榮太樓總本鋪へ入社。企画担当役員、副社長を経て2023年より社長就任。
製造に手間暇を要する有平糖のあめ製品は、おそらく世界を見渡してもあまり多くはない。ましてや、これを専門的に扱う<Ameya Eitaro>のようなブランドは希少な存在といえるだろう。
「有平糖のあめは、甘みが優しくて口の中でゆっくりと溶けるから、喉への刺激も少ないんです。2007年に<Ameya Eitaro>という新たなブランドを作ったのは、この有平糖の味を次世代に受け継いでいくために、どうしても必要な挑戦でした(細田社長)」
<Ameya Eitaro>のもうひとつの看板商品といえば、さくさく、ほろりとした食感が面白い「板あめ 羽一衣」。食べるあめというコンセプトのもと企画されたこの商品もまた、同社の職人たちの創意工夫から生まれたものだ。
板あめ 羽一衣(1種5枚入)486円から/(6種入)3,672円
一番人気のストロベリーはじめ、ヨーグルト、キャラメル、季節のフルーツを使用したものなどフレーバーも豊富。あめでありながら、さくっと食べられる新感覚の食感。
えいたろうあめ(1缶)1,080円
伝統の2色の「梅ぼ志飴」を、モダンな同店オリジナル缶にアソート。ベタつきにくく、ゆっくりと溶けていく。
<Ameya Eitaro>が目指すのは、あめ製品の新たな魅力を創造しながらも、伝統の有平糖の製法を守り、次世代へと受け継いでいくこと。あめの既成概念を超える独創的な商品づくりは、昔ながらの職人の手仕事に支えられている。
Text : Mako Kobori
Photo : Takao Ota , Yuya Wada