<織り果>四季折々の果物の魅力を再発見できる、新たな切り口のお菓子。

2024.09.13 UP

老舗和菓子店が、なぜ「果物」が主役の菓子を提供するブランドを立ち上げたのか。その背景には、和菓子の起源を大切にする思いと、素材そのものの栽培も手がける、作り手の責任とプライドがあった。

お菓子の原点“果子”の現代版を創造。

かの千利休も、茶席の菓子として栗や柿、蜜柑や梨などを供していたというが、和菓子の始まりは“果子”、果実や木の実なのだ。そんな原点を大切にすべく、老舗菓子舗<宗家 源吉兆庵>が手がけるのが、2022年から伊勢丹新宿店のみで展開する<織り果>。調理法や素材の掛け合わせの妙、和洋折衷のスタイルで仕上げる、自然の恵み・果実(果物)の魅力を堪能できるブランドだ。

 

和洋折衷とは、異なるものを組み合わせればいい、というわけではなく、さじ加減が難しい。そんな難題を一手に引き受けているのが、<織り果>の素材調達からレシピ開発までを担う、福田英展さんだ。元々、和菓子のキモとなる製餡担当だった彼が目指したのは、果物それぞれが持つ味の特徴を引き出し、シズル感も大切にした菓子。とは言え、果物を菓子に仕立てるにも工夫がいる。日本人におなじみの干し柿は、その工夫が生かされた果物の菓子の代表格と言えるだろう。

 

織り果 柿のミルフィーユ

干し柿のミルフィーユ 648円

干し柿が主役の一品。独特の渋みが、乾燥させることで濃厚な甘さに変わる銘柄・伊達柿を使用。干し柿、柚子入りの羊羹、発酵バターを層に重ねて。ねっとりとした舌触りの干し柿が秘める、濃縮した甘さが際立つ。発酵バターの塩気や酸味、黒胡椒のアクセントが加わり、甘いだけでない複雑な味わいに。発酵バターは、無塩タイプの北海道産発酵バターに、ミネラルが多く塩味に丸みが感じられる宮古島の雪塩を混ぜ込んだオリジナル。

「干し柿のミルフィーユ」は、干し柿を主役にした店の看板商品。

「和菓子なら干し柿と餡を組み合わせて完成しますが、新たな味を作らねば、とゼロからレシピを作り直しました」と福田さん。

まずは干し柿づくり。しっかりした食感とねっとりした舌触りを叶えるため、柿の銘柄・伊達柿を選び、契約農家に専用で作ってもらった柿で、絶妙な干し加減を追求した。

 

織り果 契約農家

契約農家が、<織り果>のために栽培している伊達柿。果実栽培が盛んな愛媛県宇和島の気候は、柿栽培にも最適だという。

 

織り果 柿を干している画像

完熟したものを自社で乾燥。一般的な干し柿ほど乾燥させず、ねっとりした食感が残るようちょうどいい頃合いを見定める。

 

新たなレシピを作る際参考にしたのは、和菓子で手がけたことのある、羊羹と干し柿の相性の良さ。でも、果物が主役となるメニューに昇華させるには、干し柿の甘さをさらに強調させたい…。色々な食材を組み合わせては試食を重ね、たどり着いたのが、ほんの少しの塩味と酸味が加わる発酵バターだった。さらにアクセントとなる黒胡椒を加え、お茶だけでなくお酒にも合う、大人好みの味わいに仕上がった。

「万人受けするお菓子ではないのでは、と思い季節限定品として売り出したのですが、こちらの想像を超えて高評価をいただき、<織り果>の看板商品となりました。お客様に育てていただいた商品で、これまでにない和洋折衷菓子を作っていくことの自信にもつながりました」と福田さん。

完成した干し柿

ふっくら仕上がった干し柿は、ひとつひとつ下手を切り取り、縦に開いて中の種を取り除く。断面には程よく水分が残っているのが分かる。

 

織り果 干し柿の作業

1つずつ丁寧に広げ、隙間なく貼り合わせていく。隙間があると、流し込んだ羊羹が漏れ出してしまうし、重ねすぎるとそこだけ分厚くなり、味、食感のバランスが悪くなる。柿の大きさは千差万別なので、パズルのように頭を使う工程。

 

ミルフィーユカッティング前

干し柿とバターの層を重ね、黒胡椒をひと振り。さらに干し柿、ゆず入り羊羹、干し柿と5層のサンドを作り固める。

主役の果物も栽培する気概を持って臨む。

毎シーズン、旬に先駆けてラインナップが入れ替わっていき、夏季限定の梅ゼリー「琥珀の流星」や、冬季限定の「栗のミルフィーユ」など、その季節にしかいただけない商品が多いのもこの店の特徴だ。梅も栗も和菓子でもよく扱う素材ゆえ、和菓子との違いを出す味を心がけた。梅ゼリーは梅酒を入れて、梅そのものの味を際立たせたり、栗のミルフィーユはあえてシンプルなレシピにし、加工の違いで栗の味の奥深さを表現するようにした。四季折々の果物を楽しめる味を提案するのは、和菓子が得意とする季節感を大切する思いから。

織り果 琥珀の流星

琥珀の流星(6個入)4,860円

清涼感溢れるつるんとした上品な琥珀色の梅ゼリーの中に、蜜漬けした南高梅を丸ごと1個封じ込めて。ほんのり香る梅酒が、青梅の柔らかな酸味と調和。和菓子に通じるデザインとネーミングセンスが光る一品。金箔入り。夏季限定商品。

 

織り果 栗のミルフィーユ

栗のミルフィーユ(1個)864円

和菓子、洋菓子ともに人気の素材・栗。既存商品との違いを出すため、シンプルなレシピで挑んだ。ペーストや甘露煮など、加工の違いで味と食感を変え、奥深い栗の滋味を楽しめる。冬季限定商品。

「ただ、果物を主役にする菓子を作り続けることで直面しているのが安定して原料を仕入れる難しさだ。実は、気候変動や生産者の後継不足の影響で、母体の<宗家 源吉兆庵>でも、ここ数年季節の果物を使った商品を安定して提供しにくくなっているのだ。そのような状況から、2013年から自社農園も手がけている。すぐ成果が現れるわけではないが、農園の規模も広げていきたいと未来を描く。

 

四季を楽しむ新たな味覚との出会いを提案しながら、原料となる果物の栽培にも力を注ぐブランドの挑戦は、これからも続いていくだろう。

 

Text : Mikiko Itakura

Photo : Yuya Wada

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