2023.9.15 UP
「月餅」は中国で生まれた伝統菓子。その名の通り、満月のように丸い月餅は、お月見の日に一家の幸せを願って食べる風習がある。同じ中国でも餡の材料や大きさなどに地域差はあるが、これを1927年に日本人の口に合わせた新しい菓子として売り出したのが、老舗<新宿中村屋>だった。しっとりと粘り気のある中華風の小豆餡や、香ばしさを感じる木の実餡が入った月餅は、従来の和菓子とはひと味違う風味でたちまち話題に。さらに同店が1953年に伊勢丹新宿店へ初出店した際も、月餅の実演販売が行われたという記録が残っている。その<新宿中村屋>が、2007年に伊勢丹新宿店限定で開業した月餅専門店が<円果天>だ。
メイン商品となる「円果天月餅」の最大の特徴は、その大きさ。ショーケースにまるで宝石のように大切に並べられた6種類の「円果天月餅」は、わずか2ミリほどの皮の中に餡をぎっしりと包み込んだひとくちサイズ。この小さなひと粒に、希少な国産素材や熟練の職人による手作業など、専門店ならではの味へのこだわりを注ぎ込む。
直火釜で炊き上げる餡は、北海道産小豆と自然な甘さの白双糖を使用。キレのいい上品な甘さが出るという。
「木の実餡」に用いられるアーモンド、ピーナッツなどの木の実や、レーズンなどフルーツの一部。
「木の実餡」の材料を混ぜ合わせ、皮で包むために丸めた状態。型抜きする前なので単純な丸い形に成形してある。
ここで味わいに対するこだわりの一部を少しご紹介しよう。たとえば定番の中華風小豆餡は、あえて手のかかる直火釜で炊き上げる。職人がつきっきりで火を加減することで、口溶けのよい上品な甘さに仕上げるのだ。さらに、12種類の木の実やフルーツが入った「木の実餡」は、希少な長野県産くるみを自社工場でロースト。冬瓜の蜜漬けなども日数をかけて手作りし、材料の仕込みにじっくりと手間暇をかけている。
これらの餡を包み込む皮は、薄さわずか2ミリ程度。餡を包み込んだら専用の木型で型抜きをするが、皮から餡が飛び出さないよう、餡を包む工程には最も高度な技を要する。この繊細な薄皮こそ、しっとり、ほろりとした円果天月餅らしい食感の秘訣となるのだ。
皮の厚さはわずか2ミリ程度。主に指先の感触を頼りにして、手際よく餡を包み込んでいく。
皮で包んだ餡を、月餅の木型に入れて整型。木型は硬く変形しにくい桜の木を使った特注品を使用する。
木型で抜くとおなじみの月餅の姿ができあがる。餡は薄皮で隙間なくしっかり包み込まれており、職人の技術の高さが伺える。
鉄板の上に並べられた月餅たち。美しい焼き色を出すために、オーブンへ入れる直前に卵黄を刷毛で塗る。
約250度のオーブンで7分ほど焼く。サイズが小さいので焼き上がりは早く、時間との勝負になる。
円果天月餅(各1個)270円
味は全部で6種類。まろやかな深みのある中華風小豆餡を使用した「円果天」。12種類の木の実やフルーツを使用した「木の実餡」。コクのある風味広がる「黒胡麻餡」。沖縄県産黒糖を使用した「黒糖くるみ餡」。蓮の実に焦がし砂糖の風味が効いた「赤蓮の実餡」、すっきりした甘さとほのかな酸味、苦味が特徴的な「白蓮の実餡」。
一家円満を願って食べる伝統菓子というルーツから、<円果天>では季節の柄や干支の柄などおめでたい柄を彫り込んだ木型も多数ストックされている。なかでも特に興味深いのは、木型のオーダーメイド(型代23,540円)。子どもの名前を入れた木型を作って毎年の誕生日に名入りの月餅をオーダーしたり、結婚式、会社設立などの記念日用に注文するなど、様々な需要があるという。木型は一度作っておけば、何度でもオリジナル月餅をオーダー可能だ。
ブランド名の「円」は家庭円満、「果点」は中国語でお茶請けおやつ、「天」は天の恵みをそれぞれ意味するという。宝石のように大切に焼き上げた<円果天>の月餅は、今日もどこかで、人と人の心の架け橋になっているのだろう。
月餅は本場中国では家族で分け合って食べるお菓子なので、大きさも様々。なかにはケーキのように切り分けられる大きなサイズの木型もあるという。
※大型の木型は、以前<新宿中村屋>で使用されていたもので、現在は使用されていない。
出産祝いやバースデーなどに注文できる、名前入りの木型の一例。デザインも木型で表現可能な範囲であれば自由にオーダーできるそうだ。
窯出しモンブラン(1個)378円
月餅から発展させたオリジナルの洋風月餅も好評だ。こちらは熊本県産の和栗を使用したペーストと生クリームに、隠し味のラム酒を効かせたモンブラン餡。当日に新宿の工房で焼き上げ、外はさっくり、中はしっとりの食感に。
サンドムーン キャラメルバター(1個)378円
幸運の象徴・四つ葉のクローバーを型押しした、愛らしい形の洋風月餅。さくさくのクッキー生地で、香ばしい自家製キャラメルとバタークリーム、長野県産くるみをたっぷりとサンドしている。
Text : Mako Kobori
Photo : Mariko Tosa , Yuya Wada