2023.9.15 UP
海の幸に恵まれた日本海に面する新潟市。市内を流れる雄大な信濃川流域では、古代より鮭にまつわる独自の漁業や食文化が発展した。その昔、新潟市から信濃川を遡上した秋鮭は、遠く上流の長野の険しい山裾まで旅をしたことから、脂のりの良い大きな個体がよく水揚げされたという。この鮭に荒塩をすり込んで熟成させた「塩引鮭」が、流域の米農家で夏の塩分補給に重宝された。新潟県は現在も全国的に見て鮭の消費量が多い地域だが、それもそのはず。鮭という海と川が織りなす恵みが、日本有数の米どころ・新潟を育む一助となってきた歴史的背景があったのだ。
現地の訛りで「ショービキ」と呼ばれる、この塩引鮭をルーツとする東堀の海産物店が、老舗<新潟 加島屋>。贈答品に用いられる樽入りの粕漬はもちろん、山海の幸を使用した瓶詰めや切身パック、缶詰などは、地元では定番の手土産として広く親しまれている。そのなかでも特に全国区の知名度を誇る名物が、昭和34年に初めて商品化された「さけ茶漬」だ。
原料は見るからに脂がのった、丸々とした大きなキングサーモン。カナダやアメリカで水揚げされ、その場で内臓と頭を落としたのち急速冷凍して輸入される。
最も大切な3枚に下ろす作業は、熟練の社員のみが担当。「さけ茶漬」には身の部分を使用するが、中骨の部分は「鮭の昆布巻」に利用して大切に使い切る。
3枚に下ろした後、塩をぐっとひとつかみ。このときの塩の分量は、最初に包丁を入れた時の感触で脂ののりを判断し、都度加減しているという。
手の平につかんだ塩を、身の部分にもすり込む。塩を塗り込んだ状態で貯蔵庫に保管、さらに数日寝かせて熟成させる。
「さけ茶漬」は昭和30年代、四代目の母親のひらめきをヒントに生まれた。仕事で食事の間もないほど多忙にしていた四代目を案じた母親が、短時間で食事ができるようにと、焼鮭の中骨からスプーンで身をこそげ落とし、そのほぐし身を食卓に出したのだ。母の思いやりに感銘を受けた四代目は、これをすぐさま商品のアイデアとして採用。以後、親子二代にわたってリピーターとなるファンも多いベストセラー商品に成長した。
塩漬けして、数日寝かせたキングサーモンを再び取り出したら、身に残っている小骨を取り除く作業へ入る。
小骨のひとつひとつまで、ピンセットを使い人の手で丁寧に除去。手作りの味を守るため、決して機械化できない工程のひとつだ。
骨取りを経て、さらに数週間寝かせた状態がこちら。カサが減り、旨みがぎゅっと凝縮されたタイミングで切り身にする。
一方で、信濃川や日本近海の鮭は、環境の変化に伴い少しずつ姿を消していった。「ショービキ屋」の老舗として、地元だけでなく近海における水産資源の減少を早くから見越していた四代目は、北米で獲れるキングサーモンに着目したという。そして1990年、同社自らの手で、カナダのバンクーバー島にキングサーモンの養殖場を設立するに至った。<クリエイティブサーモン社>なるこの養殖場では、北米で初めてオーガニック認証を取得した、質の高いキングサーモンの養殖に成功。現地の経験豊かな漁業者と、新潟で海産物を扱い続けてきた同社の協力によって成し遂げられた一大プロジェクトだった。
豊かな山海の恵み、そして母の愛情が注がれた、手作りの味を守り続けること。それが<新潟 加島屋>の原点にある心だ。かつて信濃川を勢いよくのぼった鮭のように、大型で脂ののったキングサーモンが、今もこうして<新潟 加島屋>伝統の「さけ茶漬」や塩引鮭を支え続けている。その背景に想いを馳せる時、白飯に鮭という「毎日のごちそう」に、感謝の想いが自然と湧き上がってくる。
大きなロースターでじっくりと焼かれるキングサーモン。表面には香り高いジューシーな脂。身はふんわりとして、適度な弾力と柔らかさがある。
焼き上がったキングサーモンは人の手でほぐすことで程よい食感に。残った皮や小骨なども時間をかけて目視で取り除かれる。
目視で品質チェックしながら、専用のスプーンで瓶に詰めていく。最上部はこんもりと丸く盛りつけて見た目にも美しく。
さけ茶漬 大ビン(200g)3,024円
塩漬けして低温で計1ヶ月ほど熟成したキングサーモンを、丁寧に焼き上げた一品。小骨をしっかり取り除き、人の手でほぐすことで鮭の適度な食感を残しているので、しっとりとした味わいが楽しめる。ほどよい塩加減は温かいご飯にそのまま乗せても、お弁当やおにぎりの具にもちょうどいい。
海の幸 三色粕漬 樽詰 8,100円
伝統の「ショービキ」を味わうなら、昔ながらの樽に詰めた粕漬はやはり外せない一品だ。肉厚な鮭の切身と一本ものの筋子、しっとりした歯触りの鱈の子を塩漬けし、酒処・新潟産の酒粕で丁寧に漬け込んだ粕漬は、大切な方への贈答品にもおすすめ。漬け込むほどに酒粕の風味が深まるので、自分の好みのタイミングでいただくのが通の楽しみ方だ。
いくら醤油漬 大ビン(230g)4,752円
北海道沿岸で獲れる鮮度の良い秋鮭の卵を、人の手で丁寧にほぐして醤油漬けにした定番商品。ぷっくりと弾力のあるいくらは、豊かな甘みも感じられる。いくら丼や手巻き寿司などにぴったり。
貝柱のうま煮 大ビン(240g/固形量160g)3,024円
オホーツク海で育まれた粒の大きな帆立の貝柱を、清酒・醤油・みりんで煮た旨みたっぷりの一品。肉厚で柔らかな食感を守るため、貝柱が噛んでいる砂粒もピンセットで一粒ずつ除去。そのままでも、炊き込みご飯やサラダに混ぜてもOK。
最近では、レトルトパウチ商品のシリーズ「加島屋デリ」が新たに登場。レンジでさっと温めるだけで、<新潟 加島屋>ならではの上質な魚介メニューが味わえる。
海鮮と彩り野菜のスープカレー(210g)864円
※上記は盛り付け例です。
5種類の彩り野菜と、鮭、帆立、海老をじっくりと煮込んだ、海老だしベースのスパイシーなスープカレー。洋風メニューは初めての試みだったことから、アンテナ感度の高い女性の専門チームを組んで考案された。
Text : Mako Kobori
Photo : Masako Naito , Yuya Wada