2022.10.31 UP
お菓子のおいしさを一番知っているのは、そのつくり手であるパティシエであろうと思う。材料の個性や質を見極め、時間をかけて、工夫を重ね、理想とする味わいを模索し続ける。そんなパティシエたちが、本当に美味しい菓子とは? 感動を与える美味しさとは?と原点に立ち戻りながら、菓子を生み出し続けるのが<ノワ・ドゥ・ブール>である。「本当のおいしさを伝えるということは、つくり手であるパティシエ自身が、もっとも食べたいと思う菓子をつくることでもあるんですよ」と、企画から商品開発・製造までを牽引する本部長の地引浩司さん。
そんな思いを詰め込んで生まれたのが看板商品である〝焼きたてフィナンシェ〟だ。「お菓子にはそれぞれ一番美味しい瞬間があるんですが、フィナンシェの場合は〝焼きたて〟です。時間をおいてしっとり柔らかなフィナンシェも美味しいけれど、つくりたてにはかなわない。これまでパティシエだけしか享受できなかったこの感動的な美味しさを、みなさまにも味わっていただきたくて」
焼きたてフィナンシェ(1個)238円
もちろん、単に焼きたてを提供すればいい、というワケではない。ただの焼きたてではなく〝究極の焼きたて〟を追究した。まずは素材。味の要となる主原料のアーモンドプードルには、多様な種類を試した中から〝アーモンドの女王〟と謳われるほど、華やかな香りのスペイン産マルコナ種を採用。その香りがもっとも引き立つよう挽き方を調整し、さらにはアーモンドの焙煎具合で、仕上がりの食感がガラリと変わると、ローストの温度や時間にもこだわった。
スペイン産マルコナ種は一般的なアーモンドに比べると扁平型。香りが華やかなのが特長だ。渋皮は丁寧に取り除き、中身だけ(写真左)を使用。
さらに風味を決める焦がしバターに使用するのは、国産の発酵無塩バターだ。1時間ほどかけてゆっくり加熱し、雑味となる乳脂肪分を取り除いてコクと旨味の素となる油脂分だけを凝縮。丁寧に火を入れてクリアで風味豊かな焦がしバターをつくる。コスパは悪いが、そのほうが圧倒的に美味しくなる。そこに妥協は一切ない。
国産発酵無塩バターは時間をかけて丁寧に溶かし、油脂分だけを抽出して〝はしばみ色〟の焦がしバターに(上写真・左鍋)。
ローストしたアーモンドプードルと焦がしバターを使用するため、生地は濃い目の色になる。
ちなみに、材料はアーモンドプードルと少量の小麦粉、香ばしい焦がしバターと、卵、きび糖のみである。余計なものは一切入れないので、素材そのものの風味と、それをいかに引き立てるかの製造工程がものを言う。
一度に焼けるのは150個。オーブンの稼働率は1日平均13〜15回!
そして伊勢丹新宿店の厨房において、その日の気温や湿度、生地の状態などを見極め、焼き時間や温度を微妙に調整しながら、こんがりと焼き上げる。<ノワ・ドゥ・ブール>の店頭には焼き上がりを知らせるベルの音が鳴り響き、焼きたてがすぐさま店頭に並ぶという算段になっている。
さて、そのお味は、フィナンシェの角にエッジが立っていることからも分かるように表面はカリカリだ。と思ったら、中はしっとりとしてバターがじゅわ〜っとにじみ出る。焦がしバターの風味がアーモンドプードルの芳しい香りと織り重なり、口の中になんとも言えぬ余韻を残す……。なるほど。多くの人が並んででも食べたいその気持ち、痛いほど分かるのだ。
焼きたてフィナンシェと並んで人気なのが、コロンとした見た目と鮮やかなレモンイエローが目を惹く〝レモンのケーキ〟。レモン風味のしっとりとした生地に、甘酸っぱいレモンのシャリシャリとした食感のアイシングが絶妙な一品である。
レモンケーキ(1個)324円
レモンのケーキというだけあって、人工的な香料は使わず、フレッシュなレモンを贅沢に使用。生地には「ふわふわ感ではなく、しっとりとした食感を求めて」2種類の小麦粉をブレンド。そこに発酵バターやサワークリーム、フレッシュレモンの果汁や果皮をふんだんに混ぜ合わせ、じっくりと寝かせてから焼き上げるという。
艶やかなアイシングには粉糖を使用。これがトロッとした質感を生むという
焼き上がった生地にアプリコットのジャムを塗り、レモンの香り引き立つ糖衣でアイシングすれば、ツヤツヤとしたレモンのケーキの完成だ。ちなみに、レモンのケーキの食べ頃は翌日。アイシングが生地に染み込んで一体感のある美味しさが楽しめる。
さらにもう一つ、菓子好きを虜にするのが〝キャラメルバナナケーキ〟だ。
キャラメルバナナケーキ(100gあたり)519円
こちらは、フィリピンの農民の自立を応援する民衆交易によるフィリピン・ネグロス島産のバラゴンバナナを使用。化学合成農薬を使わず栽培されることでも知られる濃厚な風味のバナナである。仕入れ後、10日間ほど追熟させてから使う。甘味には、同じくネグロス産のマスコバド糖を使用。やさしくクセのない甘味は、バナナの風味やキャラメルの香りを引き立ててくれる。
キャラメルバナナケーキ(100gあたり)519円
生地はしっとり、もっちり。完熟バナナの甘味と自家製キャラメルのほろ苦さを併せもち、中に入れた香ばしいくるみと、上にあしらったシナモン風味のクランブルのほろほろとした食感がまた小気味良いアクセントになっている。こちらのパウンドケーキは1カット(2㎝単位)から購入できるが、端っこを選ぶか、それとも中央部分を選ぶのか、迷うこと請け合いだ。
紹介した商品はいずれも、伊勢丹新宿店に出店した当時から並ぶ大定番。発売当初から変わらぬ、素材の風味を生かしたシンプルな味わいが、今日もまた多くの人の舌と心をとらえて、離さない。
撮影・岩本慶三
文・葛山あかね