利益になる牛肉ではなく、こだわりのあるおいしい牛肉を
「おいしい肉について、手取り足取り教えてくれたのは、小島商店の小島康成さんです」と語るのは、フレッシュマーケットバイヤーである川合卓也。血統や性別だけでなく、月齢、飼育期間、部位、えさについての知識を得て、各地の生産者から話を聞く機会を持てたのも、小島さんのおかげだという。今回、そんな恩人でもある小島さんと共に滋賀県の竜王町にある澤井牧場を訪ね、「澤井姫和牛」の秘密を探った。
精肉店として87年の目利き力を活かし、おいしい肉を追求した結果、「牛肉をカスタマイズする」ことを思いついた小島さんは、パートナーとなる牧場を探していた。おいしさのためには血統の良い雌の仔牛を長期間かけて肥育する必要がるが、その分牧場の負担が大きい。“牛と共に”をモットーに、「利益になる牛肉ではなく、こだわりのあるおいしい牛肉を作る」を実践している澤井牧場代表取締役の澤井隆男さんに、小島さんがたどり着いたのは必然だった。
(上記写真:左)
小島康成
小島商店 取締役副社長
1933年創業の仔牛肉や和牛の加工・卸専門店。肉の仲卸として87年、精肉ショップとして伊勢丹新宿店に出店して10年の目利き力を活かした肉を作る使命に燃える。
(上記写真:中)
川合卓也
伊勢丹新宿店 フレッシュマーケットバイヤー
2006年から複数店舗で食品担当、2019年から現職。日本の食文化の継承と発展の重要性を意識し、全国各地の生産者から、おいしい食について学んでいる。
(上記写真:右)
澤井隆男
澤井牧場 代表取締役
近江牛一筋。近江牛発祥の地・竜王町で生まれ育ち、“牛と共に”をモットーに、こだわりを持ち続けて45年。味・コク・風味を求め、進化し続ける肥育を手がける。
「澤井姫和牛」のおいしさの秘密は、近江の地下水と手間をかけたえさと愛情。 環境、血統、えさ、長期間飼育がもたらす相乗果。
1975年創業の澤井牧場は近江牛牧場の先駆けであり、早期に農場HACCP、J-GAP、ハラル認定を受け、国際会議やスポーツ大会への食材提供に対応している。
こここで育つ「澤井姫和牛」は、小島商店の目利きで選ばれた岐阜県産の仔牛の雌だけを仕入れ、24カ月以上かけて大切に肥育される。鈴鹿山系から流れ込む良質な地下水、稲藁と飼料米など、地元の資源を最大限に活かした肥育を徹底し、近江牛の品質向上に取り組んでいる。
肉質は、地下70メートルから汲み上げた地下水と、ミネラル豊富な藁のおかげで独特な旨みを持つ。
こだわりのえさについては、「一般的な藁や穀物飼料に加え、中期は大麦の炊きえさ、後期は発酵させた粉末の飼料米を与えています」との澤井さんの説明に、川合が「おいしそうですね」と匂いと柔らかさを確かめていた。
牛舎では人工的な温度調整は行わず、自然換気を採用することで牛のストレスを軽減。さらに日中だけでなく、深夜にも見回りを実施し、牛の体調をつぶさに観察、管理していることにも触れておきたい。細やかな気配りで優しく見守られるという、まさしく“お姫様待遇”だ。
小島商店オリジナルの「澤井姫和牛」は、導入する仔牛を選ぶだけでなく通常より肥育に時間をかけ、旨みを多く含み、雌の特徴であるきめ細かく柔らかな肉質で、脂身の融点が低く口どけが良い肉になる。「すき焼きにすると鍋に脂が残らず、胃もたれしにくく、おいしくたくさん食べられます。ぜひ召しあがって、実感していただきたいです」と小島さんと川合は口を揃える。
斜面に作られた牛舎は1棟ずつ段差があり、風が抜けやすくなっている。
澤井牧場で働くスタッフたち。
優しい表情の 「澤井姫和牛」。
15トンの穀物飼料タンクを10基完備。
澤井牧場のすぐ近くを流れる川。のどかな風景は琵琶湖まで続く。
発酵させた飼料米。
冬は暖かく、夏は冷たい地下水の汲み上げポンプ。
高々と積み上げられた地元産稲藁のロールに圧倒される。
小学校で使われる給食用の大釜で大麦を40〜50分炊いている。
さまざまな認定証。
循環型農業用の牛糞を再利用した肥料用ペレット。
滋賀県産/100gあたり 3,001円
フレッシュマーケット
近江牛の中でも稀少な小島商店オリジナルの「澤井姫和牛」。ステーキも抜群においしい。
写真:太田隆生
取材・文:直江珠子