2020.10.31 UP
いつものように伊勢丹新宿店地下1階の食品フロアを歩いていると、いろいろなキノコを発見。
キノコは野菜売り場で買うことができますが、野菜ではなく、菌類の仲間です。行政上の分類でも管轄は農林水産省ではなく林野庁なのですが、野菜とは別の食べ物なので扱い方も異なります。例えば野菜はそのまま冷蔵庫に入れておけば生命活動が穏やかになり、保存期間が伸びますが、キノコの場合はちょっとだけ注意が必要です。
キノコは収穫したあとも生きているのですが、その活動は野菜より活発です。4〜6℃の冷蔵庫に入れておくのは貯蔵エネルギーを消費する代謝を抑えるためですが、キノコは80%〜90%が水分なので、そのまま冷蔵庫に入れておくと自身の水分で傷んでしまいます。
そのためキノコは買ってきたらキッチンペーパーなどに包んでからビニール袋などに入れて、冷蔵庫で保存しましょう。それよりもいい方法はキノコを買ってきたら、すぐに調理することです。
※トランペット・ジロールは、現在お取扱いしておりません。
さて、地下食品売り場では珍しいフランスのキノコも売られていました。今日はジロールとトランペットの2種類を購入。フランスのキノコは日本のものと違う点があります。それはなんでしょうか?
黒舞茸(100gあたり)378円 販売期間 9月~2月頃
能登カットジャンボぶなしめじ(1袋)378円 販売期間 通年
八色しいたけ(100gあたり)324円 販売期間 9月~2月頃
■伊勢丹新宿店本館地下1階=フレッシュマーケット
※天候等の事情により、販売時期の変更や販売がない場合がございます。
答えはフランスのキノコのほとんどが「天然種」なのに対して、日本のキノコのほとんどが「栽培種」であること。フランスにももちろんマッシュルームやプルロット(平茸)といった栽培種もありますが、多いのは野生の天然種。反対に日本は松茸を除き、スーパーで栽培種のキノコが簡単に入手できます。
昔「キノコは天然に限る」とされ「栽培種は味が落ちる」というのが定説でした。例えば舞茸は天然ものと栽培種では味や食感が大きく違ったのは確かです。
しかし、それは過去の話。現在はキノコの栽培技術が大きく進化し、天然物にまさるとも劣らないおいしいキノコが簡単に手に入るようになりました。
例えばこの「黒舞茸」は栽培種でありながら天然物のような食感と味を持つキノコ。しいたけやしめじといったおなじみの種類も昔より格段に美味しくなっています。これを料理しない手はない、というわけで、今回はキノコ料理を2種類+α伝授しましょう。まずは「ジロール、トランペット、しめじのソテー」から。
ジロール、トランペット、しめじのソテー
(材料)
ジロール 1パック(60g〜70g)
トランペット 1パック(60g〜70g)
しめじ 60g(1/2パック) ※今回は『能登カットジャンボぶなしめじ』を1/3パック使用
オリーブオイル 大さじ1/2
バター 5g
塩胡椒 適量
キノコの種類と分量を出していますが、すべてのキノコ料理は種類を入れ替えても同じように料理できます。つまり、ジロールが手に入らなければエリンギで、トランペットがなければ黒舞茸で、という具合にあるものでつくればいいのです。ただ、キノコは種類によって下処理が異なります。
ジロールはキッチンペーパーで残っている土やホコリなどをとりのぞき、太いものは半分に切ります。
トランペットは名前の通り楽器のトランペットの形をしているので、半分に切って、中を水で洗いましょう。
高確率で枯れ葉や土埃が入っているので、この作業は手抜きをしないように。
水1Lを沸かし、塩小さじ1を加えたところにジロールを加え、5秒茹でたらザルにあげて水気を切り、キッチンペーパーに広げます。ジロールはそのまま炒めることもできますが、塩を入れた熱湯に通すことで土や埃を完全に除去できます。
洗ったり、茹でたりという工程に違和感を持つ人は料理好きな方でしょう。というのも多くの料理本には「キノコは洗ってはいけない」と書かれているからです。
例えば「軸は捨てない、洗わない!切り落とすのは石づきのみ! プロが教えるきのこの美味しい食べ方 。軸と石づきの違い」https://mi-journey.jp/foodie/42674/という記事でも「水で洗わず、汚れていればふきんでやさしく拭く」と書かれています。
しかし、キノコははじめから水分でできているので、洗ったからといってすぐに風味が失われることはありません。むしろ、洗ってから加熱した方が、風味が良いことが多いのです。(この点については別の場所で『マッシュルームは洗ってはいけない?』https://note.com/travelingfoodlab/n/n39c1c14cc080という記事を書いたので、気になる方は参照してください)
では、なぜ「キノコは洗ってはいけない」という説が定番になったのでしょうか。実は日本のキノコは松茸などの例外はあるものの、ほとんどが栽培種。栽培種のキノコはたいして汚れていないので「洗わなくても大丈夫」というのがホントのところでしょう。
しめじは栽培種のきのこなので、洗わなくても大丈夫。大きいものは半分に切り、房にわけておきます。同じように料理書には『キノコは包丁ではなく手で裂く』ように書かれていることが多いですが、味には差がないので、どちらでも大丈夫。楽な方を選びましょう。
フライパンにオリーブオイル大さじ1/2を敷き、キノコを並べて中火にかけます。キノコの調理法はいろいろありますが、フライパンやオーブンのような「乾熱」でゆっくりと調理するとその風味をもっとも生かすことができます。
先に述べた通り、キノコは80%〜90%が水分です。水分を媒介とせずに加熱するとそれが蒸発し、アミノ酸や糖分、香りが凝縮されます。また、加熱することでスポンジ状の空気の隙間が潰れて歯ごたえがよくなります。
キノコは一部の例外をのぞき、生で食べることができませんが、試しにほんの少量をかじってみるとなんの味もしません。(お腹を壊すので試さないでくださいね)キノコの味は自身に含まれる酵素が核酸というアミノ酸を分解することによって生まれるからです。この酵素が働く温度は40℃〜60℃くらいとされるので、ゆっくりと加熱すれば酵素が失活するまえにある程度働かせることができます。
同様の理由で強火で加熱をするのもおすすめしません。試しにキノコを電子レンジにかけてみるとなんとも水っぽく、うま味の乏しい仕上がりになります。〈乾熱でじっくり加熱〉これがキノコ料理のセオリーです。
10分経過し、火が通ってきたのでバターを加えました。ここで塩と胡椒を加え、全体を混ぜあわせて、火加減と味を確かめます。
出来上がり。ジロールは火を通しすぎるとぱさつきはじめるので、片面焼きのイメージです。
このままレモンを絞って食べてもいいですし、付け合せにもなります。
<ロイヤルデリ>ハーブチキングリル(133g)561円
■伊勢丹新宿店本館地下1階=シェフズセレクション
冷凍食品コーナーに「ハーブチキングリル」があったので、組み合わせてみましょう。袋の記載されているとおり、電子レンジ600wで2分30秒加熱したあと、トースターで2〜3分焼きました。
キノコがあれば2人前という感じでしょうか。キノコにハーブチキングリルの袋に残った焼き汁を混ぜるとより一層美味しくなりました。これなら立派なメイン料理という感じです。しっかりと味付けされたチキンの味をキノコのうま味がグッと押し上げてくれます。
キノコを炒めて、味付けしたあと、生クリーム大さじ2を加えるとクリーム風味になって、鶏肉との相性がよりよくなります。
こうなると鶏肉だけではなく、パスタにもあわせたくなりますね。このように乾熱→液体を加えるという形にするとキノコ料理の幅は広がります。次は和風の「きのこそば」を作ってみましょう。
きのこそば
(材料)
生そば 2人前
添付のめんつゆ 2人前
黒舞茸 1パック
八色しいたけ 2個
ごま油 小さじ1
水 50cc
<はせ川製麺>伊右ェ門 粗挽そば(2人前)646円
■伊勢丹新宿店本館地下1階=シェフズセレクション
生そばを使います。ざらっとした素朴な舌触りとそばの香りがしっかりとする麺です。添付のそばつゆはストレートタイプで冷たくして食べるのに最適なので、水50ccを加えて薄めています。
手で裂いた黒舞茸と7〜8mmの厚さにカットした八色しいたけをフライパンに並べ、ごま油小さじ1をかけます。中弱火で加熱スタート。
加熱の目安は10分間。黒舞茸にこれくらいの焦げ目がついたら裏返します。
水を注いでフライパンの温度を下げます。
添付のそばつゆを注ぎ、ひと煮立ちさせたら出来上がりです。乾熱でキノコの風味を凝縮させたところに液体を加えることで、キノコの味が生きた仕上がりになりました。
生そばはたっぷりのお湯で茹でましょう。ザルに上げて冷水にとり、表面のぬめりを洗い落とします。そうそう、そば湯(茹で汁)をとっておくのを忘れずに。
温かいつゆに冷たいおそば。今の時期にうれしい組み合わせです。そばを食べるためにつゆの味が濃い目なので、最後にそば湯で薄めて飲み干します。動物性の素材を加えていませんが、豚バラ肉や鴨肉など脂っけのあるものを入れてもいいでしょう。肉を入れなくても満足できるのはきのこに含まれるアミノ酸のおかげ。ベジタリアンの人がお肉代わりに食べるのも頷けます。
キノコは年中食べられますが、やはり今の時期に味わいたいもの。食卓に季節感を与えてくれる特別な存在です。
Text & Photo: Naoya Higuchi