2021.2.20 UP
午前5時30分、豊洲市場のクライマックスはやってくる。早朝に繰り広げられるマグロの競りに密着。
午前5時を回った豊洲市場。水産卸売場棟競り場には、巨大なマグロが横たわっている。毎朝5時30分から開始されるマグロの競りを前に、徐々に人々が集まり始めフロアはにわかに熱気と緊張感が漂い始める。マグロ一本一本に真剣な目を向ける目利き人たちの中に、豊洲のマグロ専門仲卸問屋〈米彦〉の専務取締役・片山秀和さん、〈東信水産株式会社〉の仕入れ担当、伊勢丹新宿店〈東信水産〉店長・喜多川周也さん、そしてフレッシュマーケットバイヤー・川合卓也の姿がある。
天然本マグロがずらりと並ぶ。鮮魚の後に冷凍マグロの競りが行われる。
競りに参加できるのは、漁師や漁協などから販売を委託され、競りを行う「卸売業者」と、競り落としたマグロを市場内で売る「仲卸業者」、競り落としたマグロを市場外で一般消費者に売るスーパーや加工業者などの「売買参加者」だ。そして競りが開始される前の、このわずかな時間こそ、彼ら目利きの見せどころ。仲卸業者と売買参加者は、ライトを片手に品質や鮮度を厳しくチェックしていく。
尾の部分にライトを当て、鮮度や脂のノリをチェック。巨大マグロの全体像を見極める。
「マグロの尾が切れているでしょう。我々はこの部分にライトを当てて、身の繊維を見て鮮度や脂のノリをチェックしているんです。皮目のピンク色の具合で脂のノリを見たり、断面に現れる〝ちぢれ〟で鮮度を図ったり。でも、マグロの見極めは本当に難しい。だからマグロに関しては、マグロ専門の〈米彦〉さんにお願いしているんです」と、喜多川さん。毎日午前2時から市場入りし、伊勢丹新宿店のためにトラック4トン分もの魚を仕入れている頼れる店長だ。かく言う、マグロ専門仲卸問屋〈米彦〉がこだわるのは、船上活け締めの天然本マグロ。先ほどまで和やかな表情も見せていた片山さんだが、競りが始まる10分前にはぎらりと勝負師の目を光らせていた。
競り人と買い手が入り混じり、競り場に緊張感が張り詰める。
午前5時30分、際ほどまでじっくり下見をしていた買い手たちが鐘の音の元にいっせいに集まる。祭りのようなリズムと熱気に、フロアのボルテージは最高潮だ。素人目には到底聞き分けられない呪文のような競り人の掛け声、それに応じて指で値段を示す買い手とのやり取りで、マグロがつぎつぎに競り落とされていく。その間、わずか数十秒。鐘の音が鳴る方へ、男たちが魚群のように移動しながら、わずか数十分のうちに、この日の競りは終了した。
競り場を後にして、市場内に店を構える〈米彦1号店〉を訪ねると、「仲卸の方々の真剣な眼差しは、他を寄せ付けないほどの緊張感でした」と、競りの直前まで間近で様子を見ていた川合が興奮気味に振り返る。
「仲卸の方々の真剣な眼差しに気後れしてしまうほどでしたが、今日一番のマグロはこれだな、と片山さんのマグロの見極めは一瞬でしたね」と、川合が問いかけると、「今日の競りはイマイチだったな。この季節は水揚げが少ないから仕方がないね」と、すっかり柔和な笑顔を取り戻した片山さん。早くも開店準備に向けて、巨大マグロをさばいている。
100㎏近い天然本マグロ。二人がかりで身を断ち、さばいていく。
背と腹に分けていく。血合いを背につけるのが関東風なのだそう。
中骨についた中落ち。1尾からわずかしか取れない絶品部位。
北海道戸井漁港で水揚げされた天然本マグロをさばく、片山さん。
身の締まり、脂のノリ具合をチェックする喜多川さんと片山さん。
惚れ惚れするほど美しい断面の本マグロがずらりと並ぶ。
「マグロの仕入れは、とにかく鮮度が一番。だけど、切りたてが最もおいしいとも限らない。買った翌日には真っ黒なんてこともあれば、数日経ってから旨みがどんどん増すものもある。一瞬で車一台が買えるくらいの大博打を張るんだから、そりゃ、みんな真剣。伊勢丹さんは、とにかく味重視。しかも天然本マグロを年間通してお客さまに提供できるというのは本当にすごいことだと思う。信頼とプライドにかけて、下手なものは卸せないよ」
マグロを愛する男たちが勢揃い。〈株式会社米彦〉の皆さん。
マグロを愛する男たちの熱き想いとともに、伊勢丹新宿店には毎日欠かすことなく天然本マグロが店頭に並ぶ。すっかり日が昇る頃、マグロを載せた4トントラックは、伊勢丹新宿店へ向けて出発した。
〈東信水産〉本マグロ 赤身/青森県産他(100gあたり)9,720円から
▪伊勢丹新宿店本館地下1階=フレッシュマーケット
伊勢丹新宿店の店頭に並ぶのは、鮮度にこだわった天然の本マグロのみ。
※諸事情により、産地や販売時期、価格が変更となる場合や、入荷がない場合がございます。
写真:太田隆生
取材・文:西野入智沙