2021.2.18 UP
魚料理は難しそうで、ついつい手が出ません・・・が、魚の扱いが上手くできなくても美味しくできる料理はないですか?と作家で料理家の樋口直哉さんに教えてもらいました。今回も気遣い満載のレシピです。
今日のメニューは人気のイタリア料理、アクアパッツァ。日本で人気の訳は魅力的な響きを持つ名前もあるでしょうが、それだけではなさそうです。
アクアパッツァとは「狂った水」という意味。由来は不明ですが、一般的な説として漁師さんが船の上で海水を使って作った……という話が知られています。この説に従えばアクアパッツァに必要な要素は「魚」と「塩水」です。
魚料理は難しい、というイメージを持っている方も多いと思いますが、実は魚料理は簡単。
要点さえ抑えれば、調理時間も短く、作りやすいもの。今日はアクアパッツァの作り方を解説します。
魚売り場に行くと様々な種類の魚が並んでいました。アクアパッツァには魚を丸ごと使うと格別な味に仕上がります。その理由については後述しますが、まずは魚選びから。
基本的には煮魚に使うような白身魚であれば、どんな魚でもおいしくつくれます。手頃な白身魚がなければアジやサバでもかまいません。今日、買ったのはメバル。メバルは春告魚と呼ばれ、鮮やかな色とふっくらとした身が特徴の魚です。
買う時、店員さんに
「ウロコをとって、内臓だけ抜いてください」
とお願いしましょう。家で魚を料理するとなると問題になるのが生ゴミの処理。お店で内臓を抜いてもらえばこの問題はなくなりますし、丁寧に水洗いしてくれるので料理もおいしくなります。おいしい魚料理をつくるにはまずはプロを味方につけましょう。
また、魚介類を買うのは買い物の最後に。レジで会計を済ませたら、保冷剤をもらい、ビニール袋に入れて一緒に持ち帰ります。こうしたことも料理本に載っていないコツです。他にミニトマトとあさりを購入しました。
アクアパッツァ( 2人前)
[材料]
メバル・・・1尾
あさり・・・120g〜150g程度
水・・・150cc
ミニトマト・・・6粒
EVオリーブオイル・・・50ml
パセリのみじん切り・・・適量
家に帰って、まずやることは「あさりの砂抜き」です。
アサリは貝の半分程度の塩水(3%濃度)につけ、新聞紙やアルミホイルなどで覆い、涼しい場所に置いておきます。2〜3時間で砂を吐きますが「翌日料理したい」という場合はそのまま冷蔵庫に入れておけば問題ありません。
さて、メバルに塩を振りましょう。分量の目安は重量の0.8%程度。お腹の中にも薄く塩を振っておきます。
写真を目安にうっすらと、しかしまんべんなく塩が振られた状態です。日本料理の場合はこの状態でしばらく置き、塩を浸透させますが、メバルの場合はそのまま焼きはじめます。塩を浸透させないことで、身がふっくらと仕上がるからです。
サラダ油(分量外)を小さじ1ほど敷いたフライパンを中火にかけ、盛り付けたときに表になる面から先に焼きはじめます。
表面に香ばしい焦げ目がついたら裏返して、火を弱火に落とします。裏側もじっくりと焼きましょう。この段階で充分に焼くことで香りもよくなりますし、水を加えた後、崩れにくくなります。
水を加えて、火を強火にしました。先にワインを入れる人もいますが、煮汁に酸味がついてしまうので、水だけで煮るのがポイント。あさりと半割にしたミニトマト、たっぷりのEVオリーブオイルも加えて、強火でガンガンに煮立てます。強火で煮立てるのは一般的な煮魚のコツと同じ。加熱時間を短時間に抑え、加熱し過ぎを防ぎます。
早く火を通すために、魚の身に煮汁をかけながら煮詰めていきましょう。この時、鍋のなかではなにが起こっているでしょうか?魚の皮目や頭からゼラチン質が、アサリからは旨味成分が煮汁に溶け出します。
強火で炊いているので煮汁は激しく対流を起こし、表面に浮かんでいるオリーブオイルは細かく散ります。小さくなったオイルの表面を魚から溶け出したゼラチン質が包むことで、本来混ざりあわない水と油が一体化し、煮汁がとろりとしてきます。
とんこつラーメンのスープや鶏の水炊きをつくる時も、煮汁を強火で煮詰めるのが重要とされていますが、アクアパッツァも原理としてはほとんど一緒。切り身でつくる場合は魚から溶け出るゼラチン質の量が減るので、オイルの量はやや控えめにしますが、今回のようにたっぷりと使ったときのコクは出ません。アクアパッツァの醍醐味は丸の魚を強火で一気に料理することにあるのです。
あさりの口が全部開き、煮汁がとろりとしてきたら、パセリを振り入れ、出来上がりです。乳化には最低でも全体の量の30%の水分が必要なので、煮汁が煮詰まりすぎるとオイルが分離し、油っぽくなります。煮詰めすぎてしまったら水を足し、逆に煮汁がシャバシャバであればもう少し煮込みます。最初に魚に振った塩とアサリから出る塩気があるので味付けをする必要はありません。
丸ごとの魚を取り分けながらいただきます。アクアパッツァはこのソースがおいしいので、パスタなどを絡めてもいいでしょう。復習するとおいしくつくるポイントは3つ。
1. 表面に焦げ目をつくまで焼く
2. 水を加える(白ワインは使わない!)
3. たっぷりのオリーブオイルを加え、強火で煮立てる
夏や冬の魚は黒っぽい色の傾向がありますが、春の魚は鮮やかなものが多いのが特徴。テーブルの真中にあるだけで、食卓が華やかになります。魚焼きグリルで焼き魚をつくるのとは違って、煙も出ません。このあたりにもアクアパッツァが日本で定着した理由がありそうです。
Text&Photo:Naoya Higuchi